第12話 撃墜と記念品
だいぶ離れてしまったが、敵の翼竜は発見出来るだろうか。
一騎目を落とした場所まで戻って来たが、敵の姿は見当たらない。
代わりに味方ワイバーンの姿が目に入った。
小隊長のウーゴ兵曹長騎とオトマル兵曹騎だった。
敵の姿は見えないと言うことは、全騎落としたのかもしれない。
さすがベテラン操竜士だ。
小隊長から帰投すると合図があり、結局逃げた攻撃騎は落とせなかった。
飛行基地に到着して、まずはウーゴ小隊長に報告。
「僕の騎は上昇に付いていけず低空にいたところ、敵の攻撃騎三騎が下降してきまして、そこでその三騎を追尾しました。前線付近まで追尾し二騎を撃墜。さらにもう一騎を追尾ーー」
そこまで言い掛けてオトマル兵曹に言葉を遮られた。
「待て、ちょっと待てトーリ。攻撃騎を二騎撃墜って言ったよな」
「はい、二騎撃墜しました」
「おいおい、マジかそれ。何かの勘違いとかじゃないのか」
「いえ、そんなことはありません。この目で撃墜確認しました」
するとウーゴ小隊長。
「トーリ兵曹。新兵で良くあるんだがな。地上の対空砲筒の火槍で撃墜した翼竜を、自分が落としたと勘違いすることが良くある。それとは違うのか。もしくは地面スレスレに逃走したのを撃墜と勘違いするなんてのもある。どうだ?」
そんなこと言われてもなあ。地面に激突するのを目の前で見たんだからなあ。
僕が悩んでいると、さらにウーゴ小隊長が言葉を続ける。
「そうだ。あの辺りは最前線だ。地上の味方部隊が成り行きを見ていたかもしれない」
「あ、そう言えば地上では味方の槍兵部隊が戦ってました。その部隊なら見てると思います」
「そうか。それなら一旦は指揮所に報告に行こう。その後、撃墜確認だな。でもな、トーリ。もし二騎撃墜が真実で証明されたらな、それは凄いことだぞ」
「あの〜、ひとつ聞いても良いでしょうか」
ウーゴ小隊長は首をやや傾げて返答する。
「何だ言ってみろ」
「そう言う小隊長達も撃墜したんですよね?」
「一騎も撃墜しとらん……」
聞いちゃいけなかった。
敵騎プテラノドン三騎全部を落としたのかと思ってた。
そう言えば忘れていたけど撃墜がカウントされるには、証人などの証明出来る何かが必要になるんだった。
僕達は小隊長が言ったように指揮所に報告に行くと、明日の朝に撃墜地点へと向かうことになった。
翌朝、指揮所から借りた二足竜に騎乗し、三人揃って最前線へと向かった。
護身用の武器としてワンドを待ち帯剣もしてきたが、剣術は授業で習っただけで実戦では一度も使ったことはない。
これは遠距離からの魔法攻撃になるな。
となると接近戦になったらお仕舞いか。
ウーゴ小隊長とオトマル兵曹にも聞いたが、やはり剣術での実戦経験はないそうだ。
敵に遭遇しないことを祈ろう。
二足竜も学校の授業で乗ったきりだったが、特に問題もなかった。翼竜に比べたら楽勝とも言える。
通りすがりの歩兵に聞きながら、前線を目指す。
歩兵部隊と会う機会など余りないのでほとんど知らなかったが、僕よりも階級が低い兵士がかなり多い。
確か僕の階級である兵曹だが、陸軍に当てはめると下士官である軍曹になる。
翼竜の操竜士は全て下士官以上と既定されているから、翼竜乗りの中では兵曹は下っ端だ。
だけど陸軍だらけの戦場を歩くと、兵卒ばかりで僕に敬礼してくる。
偉くなった気分はするが、何だかくすぐったい。
そうこうしていると、翼竜が墜落した場所を知っているという兵士を見つけた。
その場所を教えてもらい、現場に到着してみると、槍兵部隊が翼竜の死骸の後片付けをしていた。
翼竜の肉は美味しいらしく、解体作業をしている最中だった。
近くでは騎乗していたゴブリン兵の死骸も転がっていた。
僕は吐き気を我慢するので必死だ。
ウーゴ小隊長が槍兵部隊の隊長に話を通し、現場を調べさせてもらうことになった。
小隊長は血だらけの翼竜を平気な顔でいじりだした。さすがベテラン、僕には無理……
翼竜の左の翼には火槍が刺さっていて、それを確認しながらウーゴ小隊長が言った。
「確かに空対空用の火槍で間違いないな。左の翼に刺さっているというのも、トーリの報告とも一致している。これは間違いなく撃墜だ」
僕は嬉しくなって飛び跳ねたかったが、今は吐き気が上回っていてそれどころじゃない。
ウーゴ小隊長が何か記念に持って帰るか聞いてきたが、持って帰れそうなものなど何も無い。
全て持ち去られたあとだ。
槍兵部隊の隊長がもうひとつの墜落現場を知っているというので、場所を聞いたのだが、最後にニヤニヤしながら言葉を付け加えた。
「まあ、お勧めはしないが、行ってみたければ行ってみると良い」
どういうことかは教えてくれなかったが、それで現場近くまで来て分かった。
墜落現場というのは、敵と味方の前線の中央付近だ。
ちょうど敵味方が睨み合う中間地点に、墜落した翼竜が見える。
近付けば矢が飛んでくるだろう場所だ。
ウーゴ小隊長は近くにいた兵士に色々と聞いてまわりだした。
しばらくするとウーゴ小隊長が戻って来て僕に尋ねた。
「どうする、あそこまで行って何か記念品を
そう言って指差す場所は、距離にして三〜四百メトルくらい先だろうか。見たところ、手付かずの状態のように見える。
普通なら金目の物を漁りに兵士達が群がるというのに、手付かずということはやはりあの場所は危険なんだろう。
しかし折角の撃墜記録が無くなるのはどうしても嫌だ。
でも小隊長やオトマル兵曹に迷惑は掛けられない。
そこで僕は決心した。
「ウーゴ小隊長、オトマル兵曹、すいませんがここで待っててもらえますか。今から僕があそこまで行って、火槍を回収してきます。それが撃墜の証拠となりますよね」
するとオトマル兵曹が「はあ?」と変顔をする。
その後直ぐにウーゴ小隊長が言った。
「何言ってんだ。味方歩兵から撃墜の証言はとれたよ。俺はてっきりお前が記念品を取りに行きたいのかと思ったんだが違うのか」
何だ、証人がいれば良い話だったんだ。
だけど記念品かあ。
「あの〜、普通は記念品とかを持ち帰るものなんですか?」
僕の質問にウーゴ小隊長は答えてくれた。
「そうだな。飛行騎兵としての初撃墜が一度に二騎となると、それは何か記念品を持ち帰りたいと思うだろ。それも目の前に手付かずであるのなら尚更だな」
「そうですか。それなら僕は記念品を取りに行ってきますんで、ここで待っててもらえますか」
「そうだな。それならそうするとしよう。ただちょっとだけ手伝ってやる」
ウーゴ小隊長はそう言って、僕に手のひらサイズのポーション
「これは何ですか」
「なあに、ただの煙幕ポーションだよ。気軽に使って良いぞ」
なるほど、煙幕で目眩ましすれば近付ける。
しかし良くそんなもんを持っていたなと思う。さすが小隊長だな。
「小隊長、ありがとうございます!」
僕は荷物を置いて身軽な格好となり、出来るだけ姿勢を低くして墜落場所へと向かった。
進み始めて思ったんだけど、ここは最悪のコンディション。地面が湿っていて、あっという間に体中が泥だらけ。最悪だ。
それでもなんとか前に進めたんだが、半分ほど来たところでシュルシュルと風切音が聞こえた。
何かと思って顔を上げると、目の前の地面に矢が幾本も刺さり出したから驚いた。
敵に見つかってしまったのだ。
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