第11話 追尾






 敵攻撃騎から放たれた火槍が僕に迫る。


 咄嗟とっさに回避行動をとろうとするが、ワイバーンが言うことを聞かない。

 わずかに翼を傾けたに過ぎなかった。


 駄目だ、命中する!


 そう思ったのだが、火槍はワイバーンの前方辺りで急速に落ちていく。

 

 有効射程には距離が足りなかったようだ。


 僕はホッと胸を撫で下ろす。


 しかしここで気を抜いてはいられない。

 火槍を放ったばかりと言うことは、再装填まで無防備ってこと。


 チャンス!


 僕は降下を初め、敵攻撃騎のギリギリまで接近する。


 最後尾の敵からの石弾魔法攻撃が始まった。


 だが想定済み。


 石弾は目の前で消えていく。


 魔法が届かないギリギリの距離を保っている。


 だが相変わらずワイバーンに落ち着きが無く、微妙に左右に揺れながら飛行する。


 この揺れで火槍を当てられるのか?


 僕は砲筒の安全カバーを外し引き金を握る。


 敵騎が中々射線上に入らない。


 駄目だ、揺れに合わせなくては……


 僕は撃つことに意識を集中する。


 吹き出す汗が風に吹き飛んでいく。


 徐々にワイバーンの鼓動を感じ始める。


 そうだ、心臓の鼓動に合わせるんだ。


 突然、飛行による風切音が僕の耳から消えた。


 同時にワイバーンの揺れが止まる。


 その時、僕は無意識の内に引き金を引いていた。


 火槍が空を滑る様に飛翔して行く。


 発射したのは二本。

 わずかに時間差をつけての発射だ。


 僕はワイバーンを上昇させながら、火槍の軌跡を目で追う。

 

 一本目はわずかに翼竜の下を通り過ぎる。


 しかし二本目の火槍は翼竜の左翼に命中。


 パッと鮮血が舞った。


 途端とたんに敵騎はバランスを崩し横転。

 低空飛行が災いし、そのまま地面に激突した。


「やった!」


 一騎撃墜だ。

 思わず拳をギュッと握った。


 気が付けば直ぐ下の地表では、味方槍兵部隊がゴブリン歩兵と戦っている。ここは最前線のど真ん中らしい。


 気を取り直して僕は再び体勢を立て直す。

 まだ敵は二騎いる。


 すると敵の翼竜は左右二手に別れて飛行を始めた。


 逃がすか!


 僕は取り敢えず、左に逃げた翼竜の後を追った。


 一旦は上昇し高度を上げる。


 そして降下。


 逃げる翼竜の斜め後ろ上方から襲い掛かった。


 かなり早い段階で敵は火槍を撃ってきた。


 もちろんこの距離では当たらない。

 オブザーバー席にいると、恐怖心からつい引き金を引いてしまう。その気持は分かるけど、それが命取りになる。


 火槍を撃てば再装填するか魔法攻撃しか手は無い。

 僕も元偵察員をだったから、それくらいは知っている。


 今度はさっきより落ち着いて狙いを定めた。


 一本発射。


 直ぐにワイバーンを上昇させ、火槍の動向を見る。


 しかし火槍は空を切った。


 う〜ん、こんなにも当たらないものか。


 気を取り直して再び下降。


 後部席のゴブリンが、火槍の再装填を終わらせたのが見えた。


 僕は少し遠い距離から先に火槍を一本発射。


 釣られてゴブリンも火槍を発射。


 僕はそれを予想して、撃たれる前にワイバーンを左に滑らせた。


 敵の火槍はワイバーンの右翼下を飛んで行く。


 こうなればこっちのもんだ。

 地面すれすれに飛びながら火槍を発射。


 敵も必死で翼竜の身体を左右に振る。

 

 まだ残弾は四発ある。

 落とせる!


 火槍は右に逸れる。


「これでどうだ!」


 もう一発発射。


 今度の火槍は左に逸れる。


 ちょっと焦ってきた。


 ゴブリンは必死に石弾を飛ばしてくる。

 魔法攻撃をしてくるってことは、火槍の再装填は無いから安心だが、石弾魔法が意外とウザい。


 このままだと敵の支配地域に逃げられてしまう。


 残弾は三発。


 慎重に狙いを定める。


 発射のタイミングでワイバーンが揺れた。


 火槍は明後日の方へ飛んで行く。


「ハルバート、邪魔するな!」

 

 声に出したが、このやんちゃワイバーンに聞こえている様には思えない。

 

 これで残弾は二発。


 改めて狙いを定めて引き金を引こうとした時だった。


 声が聞こえた。


 いや、そうじゃない。


 意思の様な何か?


 思念?


 ーー魔力が強過ぎるだって?


 そこで騎兵学校の授業を思い出した。

 教官の言葉だ。


「翼竜に命令を出す時は、手綱の動きに加えて魔力を流すと教えられたと思う。そこでひとつアドバイスをしてやろう。翼竜によって魔力の受け皿が違う。それに合わせて魔力を流せるようになれば一人前だよ。まあ、君ら訓練生がこれを理解するのはまだまだ先になると思うが、ベテラン操竜士になれば理解できるから覚えておくと良い」

 

 魔力の流す量を調整……


 僕は操竜する時の魔力を気にしながら流してみた。

 ワイバーンの様子を気にしながら、それはそれは繊細せんさいに。



 ーーワイバーンの横揺れがピタリと止まった。



 心なしかワイバーン、ハルバートが嬉しそうに感じる。


 意思が通じた気がする。


「ハルバート、やれるか?」


 ハルバートが返答するように鳴き声を上げた。


 教官はこのことを言いたかったのか!


 僕は高揚した。

 

 そしてその高揚感のまま引き金に手をかける。


 距離は変わらないのに、敵の翼竜が近くに見える。


 狙いたい箇所、翼の付け根が大きく見えた。


 僕の引き金に掛けた手が、まるで魔道具の一部になった様に自動的に動いた。


 火槍が飛んで行く。


 どういう訳か発射した瞬間、命中すると思った。


 火槍は狙い通り翼の付け根に突き刺さる。


 敵の翼竜がけたたましい鳴き声を上げる。


 そしてクルッと横転し、地面に背中から激突した。


 土煙が舞い上がる。


「やった、撃墜した……」


 言葉が漏れた。


 地表では大騒ぎなのが見える。


 戦闘中に突然翼竜が現れて、勝手に空中戦を行なって勝手に墜落したんだ。

 大騒ぎになるのも当然か。


 さて、ここでゆっくりはしてられない。

 右側に逃げた翼竜がいる。あれを落とさないといけない。


 僕はもう一騎の翼竜の後を追った。








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