第10話 敵編隊発見
僕は午前中にこのワイバーンでの慣らし飛行をしてみることになった。
言ってみれば試験飛行みたいなもので、翼竜と騎乗者の相性をみるためのもの。
結果から言うと「乗れないことも無い」という先輩達からの判断だった。
整備班長が僕に面と向かって言った。
「取り敢えずこの個体にしばらく騎乗してみてください。それで今後どうするか自分で決めるようお願いします。ただし新兵に回ってくる翼竜は、こんなんばっかりですから」
そうなんだ……
でも考えてみれば良さ気な翼竜なら、ベテランに使われた方が戦果を上げてくれるし、逆に新兵に引き渡したら直ぐに撃墜されかねない。
所詮、新兵は直ぐ死ぬと思われているし、新兵の命よりも翼竜が大切だと思われているみたいだし、それが翼竜乗りの世界のようだ。
その日の午後に僕の所属する小隊が、敵支配地域上空へと哨戒飛行をすることになった。
一個小隊は三騎からなり、小隊長の階級は通常は兵曹長もしくは少尉。
四個小隊が集まって一個中隊を編成し、それを飛行騎兵隊と呼ぶ。翼竜乗りの間では単に飛行隊と呼ばれる。
飛行騎兵隊長の階級は中尉以上となる。
昔は少尉以上の階級は貴族しかなれなかったが、今は人材不足から大尉までなら平民でもなれる。
そして僕の所属するウーゴ小隊は小隊長のウーゴ兵曹長、先任のオトマル兵曹、そして新兵の僕を加えた三人となっている。
この三人で哨戒飛行に出発した。
僕の騎乗するワイバーンは相変わらず言う事を聞いてくれないが、何とか飛び立つことは出来た。それでも僕は編隊を崩さないようにと、二人に必死にくっ付いて行くので精一杯だったりする。
普通に飛ぶだけでこれでは、空戦になったら苦労しそうで怖い。
何とかワイバーンをなだめながら飛行していると、前方の上空に何かを見つけた。
目を擦って何度も見直すが、やはり何かいるな。
黒い点が六つ。
方角からしてみても明らかに敵飛行隊だと思うんだが、二人はそれに気が付いていないようだ。
僕は先頭を飛行する小隊長騎に近付き、黒い点を指差す。
するとウーゴ小隊長は目を細めて必死にその方角を見始めるのだが、黒い点を発見出来ないようで、僕に向かって見えないと手を振ってきた。
横を飛ぶオトマル兵曹も見つけられないらしく、首をかしげて見せた。
するとウーゴ小隊長が僕に前に出ろと手招きする。
僕は仕方なくワイバーンを前に進め、徐々に黒い点に向かって高度を上げて行く。
しばらくすると黒い点が翼竜六騎だと分かる。
ここへ来てやっとウーゴ小隊長とオトマル兵曹にも見えて来たようで、それは敵の翼竜が味方歩兵駐屯地を襲撃に向かっているところだと判断した。
これは阻止しなくては!
小隊長騎が急に速度を上げて再び先頭に出る。オトマル騎もそれに続く。
しばらく飛行して追い付いてくると、それがアズダルコ系の大型翼竜だと判別出来た。プテラノドンみたいな翼竜だがもっと大きく魔素の量も多い。
ゴブリンが複座の攻撃騎として利用する魔獣であった。
恐らく我が軍の歩兵駐屯地へ行き、
小隊長騎とオトマル騎が上昇して行くのだが、僕のワイバーンは言う事を聞いてくれない。
前へは進むが中々上昇してくれないのだ。
「ハルバート、頼む」
ワイバーンの名前を口に出してみたが、あの時のワイバーンの様にはいかない。
あの時の現象は何だったんだろうか。
心が通じたというか、意思が通じた気がしたんだが。
結局僕のワイバーンは、二人の動きには付いて行けず、上昇はしないで真っ直ぐに飛んだ。
上昇しない分、小隊長達よりは速度を出せたので、早い段階で味方の歩兵駐屯地へ到着した。
駐屯地へ着くと味方兵士が何事かと、僕のワイバーンを指差すのが見える。
敵が近づいていると知らせてやりたいところだが、着地している余裕などない。
しばらくすると敵の攻撃隊が上空に見えて来た。
敵の編隊は攻撃騎と護衛騎がそれぞれ三騎ずつ。
しかし小隊長達はまだ追い付いていない。
そこで敵の攻撃騎三騎が急降下してきた。
高度が高過ぎると、
あれ、もしかして小隊長達、上昇しないで良かったのかも?
勝手に敵の攻撃騎が降下して来る。
そこへ少し遅れて上空の敵戦闘騎に、小隊長達が追い付いた。
小隊長達は急降下する攻撃騎を追い掛け様とするが、敵の戦闘騎がそれを許さない。
必然と小隊長達は空戦を始める。
敵戦闘騎が三騎に対して小隊長達は二騎。
不利な戦いとなった。
立場は違うが新兵の僕が、たった一騎で三騎の攻撃騎を防がないといけない状況。
これも不利な戦いだと言いたい。
僕はせめてもの抵抗で、敵が降下してくるだろう経路を飛び回り、飛行を邪魔してやる。
無駄な努力でした……
最初に降下してきた一騎が、
それに続いて二騎も同様に
敵の攻撃騎は
そのまま逃げ切るつもりだ。
投下された
三つの爆炎を上げた。
上空から見た感じだと、テントや人が集まる所には当たって無いように見える。せめて被害が少ないことを祈り、僕は攻撃騎の後を追った。
身軽になったとはいえ、元々アズダルコ系魔獣はそこまで速くない。
降下速度でしばらくは速い速度を維持出来るだろうが、その内こっちのワイバーンの方が速度が増す。
追い付くのも時間の問題だ。
僕は追い掛けながら上空を確認する。
敵味方で乱戦と化していて、数を数えると全部で五騎。つまり敵味方共に一騎も落ちていないってこと。
それなら僕はこのまま敵攻撃騎の方を追尾してやる。
初めは敵との距離が広がっていたが、予想通り徐々にその距離も縮まっていく。
敵はほぼ縦一列で、地面すれすれに飛行している。
地面すれすれに飛行されると、後上方からの攻撃がしにくい。
後上方から降下攻撃すると、地面に激突する危険から、早い段階で攻撃を止めないといけない。
地面すれすれで逃げるやり方は悪くない。
攻撃騎との距離をかなり縮めた所で、後部座席に座るゴブリン兵と目があった。こちらに砲筒を向けて狙っている。
次の瞬間、そのゴブリンが火槍を放った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます