第8話 初出撃







 プテラノドンが連続して二本の火槍を発射した。

 

「上等兵曹、火槍来ます」

 

 ワイバーンが左に回避。


 二本の火槍は空を切る。 


 火槍を撃ったプテラノドンは上昇気味に、軌道を変える。


 すると後方にいたプテラノドンが前に出た。


「続いてもう一騎来ます」


 するとキサン上等兵曹が怒鳴り声で返す。


「坊主、ボサッとしてねえで撃ち返せ!」


 言われて握り締めている砲筒を思い出す。


「は、はい。反撃しますっ」


 狙いを定めようとして、発射装置の安全カバーがまだ解除されて無いことを知る。


 慌てて安全カバーを外す。


 大きく深呼吸、自分に落ち着けと言い聞かせる。


 僕が狙いを定め出すと敵のゴブリンがそれに気が付き、プテラノドンが回避行動をとる。


 その間に最初のプテラノドンに騎乗するゴブリンが、空になった砲筒に新しく火槍を再装填するのが見えた。

 プテラノドンの砲筒は背中側に装備されているので、再装填が可能というメリットがある。


 何とか引き離さないと……


 プテラノドンが右に左にと、身体を振りながら接近して来る。


 マズい、このままだと射程距離に入られる。


 僕は狙いを定めて砲筒の引き金を引いた。


 火槍が勢いよく射出される。


 プテラノドンが右に身体を振って、左に戻って来たところへ、僕の放った火槍が直撃した。


「ギギャアアッ」


 空にゴブリンの悲鳴が響く。


 ゴブリンの胸を火槍が貫いていた。


 そのままゴブリンは、壊れた騎乗具ごと地上へと落下していく。


 主を亡くしたプテラノドンは徐々に高度を落とし、戦闘から離脱して行った。


「上等兵曹、やりましたっ。操竜士のゴブリンを落としてやりました!」


 まぐれ当たりかもしれないが、そんな事はどうでも良かった。

 僕が落としたことに変わりはないからだ。


「坊主、浮かれている場合じゃねえぞ。敵はまだいる!」


 そうだった。まだ喜んではいられない。

 もう一騎プテラノドンがいる。


 プテラノドンは上昇力が劣るとはいえ、これだけ距離が近いと振り切れない。

 こっちが上空へ逃げようと上昇を始めて速度が落ちた所で、狙い撃ちされる可能性もある。

 

 火槍の再装填が終わったらしく、離れていたプテラノドンが距離を縮めて来た。


 折角離した距離を再び詰められる。


 こっちはまだ火槍の再装填もしていない。

 こうなったら魔法しかない。


「上等兵曹、魔法で応戦します」


「分かった。この先は坊主の腕にかかってるから頼むぞ!」


 無事に帰れるかは僕次第ってこと。


 絶対帰ってやる!


 僕は魔法媒体であるワンドを握りしめ、詠唱を始める。


 ゴブリンが狙いを定めている。


 そうはさせない!


 魔法を放つ。


 ワンドから石弾が連続して飛ぶ。


 だが魔法の距離じゃないから当たらない。

 

 いや違う。

 

 石弾は届いている。

 でもプテラノドンに当たっても効いていない。

 

 それでも注意を散らせる事は出来る。

 操竜士のゴブリンに当てなくては!

 なおも石弾を放つ。


 しかしプテラノドンから火槍は放たれた。


「火槍来ます!」


 ワイバーンは降下しながら斜め左に回避。


 だが間に合わない。


 一本目の火槍がワイバーンの右翼をかすめる。


 その時、血液が飛び散った。


 ワイバーンが苦痛の鳴き声を上げ、大きく揺れる。

 

 そしてキサン上等兵曹が後ろを垣間見ながら悪態をつく。


「忌々しいゴブリンめ!」


 だがかすっただけ、まだ大丈夫だ。

 飛び続けている。

 

 そういえばもう一本の火槍は……


 僕はハッとしてプテラノドンに視線を戻す。


 ゴブリンが僕を見てニヤリとした。


「二本目来ます!」


 僕が叫んだのとほぼ同時に、二本目の火槍が放たれた。


 だがワイバーンは回避したばかりで、姿勢を戻しきれない。


 マズい、このままだと火槍を喰らう!



 火槍が僕の真正面に迫る。



 突如「キンッ」と硬質音が響く。


 

 同時に僕の目の前で火槍の軌道が変わった。

 火槍は上方へとれていく。

 

 僕は思わずつぶやく。


「当たったんだ……」


 そう、僕は苦し紛れに石弾を火槍に向かって放っていた。

 その石弾が火槍に命中して軌道を変えたのだった。


 キサン上等兵曹が叫ぶ。


「おい坊主、どうなったんだっ」


「ええっと、二本目の火槍も外れました」


「そうか、チャンスだな。上昇気流に乗れるぞ」


 目の前には大きな山がそびえていた。

 その山の斜面では上昇気流が発生していて、それを利用すれば一気に高度を上げられる。


 これを利用して一気に上昇し、プテラノドンを引き離す作戦だ。


 しかしプテラノドンは追って来なかった。

 大きく旋回して引き返して行く。


「上等兵曹、敵は追尾を諦めたようです。帰って行きます。やりました、僕らの勝利ですよね!」


 キサン上等兵曹は大きく息を吐き出して言った。


「良くやったな坊主。帰ったら宿舎でお祝いパーティーだ」


「それって上等兵曹のおごりですよね?」


「坊主、言う様になりやがったな。だけどしょうがねえ。今回は坊主の手柄だからな。初出撃でよくやったよ。俺がおごってやる」


「やった!」


 こうして僕の初出撃は、何とか無事に帰って来れたのだった。





 部隊に戻ると、部隊の人達が集まって来た。

 僕の初出撃の話を聞きたいからだ。


 僕は胸を張って言った。


「偵察は成功。それと敵プテラノドンと接敵しましたが、操竜士のゴブリンを、後方の砲筒で撃ち落としてやりました」


 それを聞いた皆は直ぐには信じようとしない。


「冗談だろ?」

「そんな直ぐバレる嘘をつくなよ」

「坊主、いい加減なこと言うな」


 そこへキサン上等兵曹が割って入る。


「本当だよ。二騎のプテラノドンに遭遇してな。一騎は坊主が操竜士を撃ち落とした。もう一騎は諦めて退散したんだよ。嘘じゃない、坊主は初出撃で初撃墜したんだよ」


 操竜士を撃ち落とした場合でも、撃墜となるのがルールだ。

 だから僕は、オブザーバーでありながら撃墜一騎となった。


 嬉しい!

 複座のオブザーバーの配属となって大分落ち込んでいたんだけど、これでそんな気持ちは吹っ飛んだ。


「おい坊主ーーいや、トーリ兵曹、指揮所に報告に行くぞ」


 名前で呼ばれた!


 こうして僕達は指揮所へと向かった。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る