第7話 偵察任務
僕は問題を抱えているという扱いで、飛行騎兵ではあるが操竜士ではなく偵察部隊。偵察騎の複座のオブザーバーで落ち着いた。
翼竜には二人で騎乗し、僕は後部席に座って偵察をする役割だ。
ただし僕が問題無いと判断されれば、様子を見て操竜士に変更は出来るという。
僕は仕方無くそれで承知した。
そして配属となる前日、クラス全員で送別会をした。
もしかしたら会うのはこれで最後かもしれない。
この内の何人が生き残れるのか。
そう思うと何だか悲しくなってくる。
その夜、大した話ではないのだけれど、遅くまで話が尽きなかった。
カザネさんはずっと泣いていたと思う。
ずっと顔を伏せていたから、ハッキリとは分からないけど。
そして最後に、僕から何となく言葉が漏れた。
「このクラス全員で、また会うという約束をしない?」
するとカザネさんが真っ先に賛成してくれた。
泣き腫らして凄い顔だった。
皆も乗り気で、あのマッシュ君までも「それ、良いね。採用だな」と賛成してくれた。
「良し、約束だよ!」
僕が手を出すと、次々に手が重なっていく。
十八人の手が重なったところで僕は声を上げた。
「また必ず会おう!」
そう言うと全員が「おお!」と叫んだ。
そして卒業と同時に僕達は、練習生から“兵曹”という階級の兵士となった。
□ □ □
僕の部隊は翼竜乗りの中でも、偵察飛行隊になる。
戦闘は出来るだけ避けて、敵の部隊の配置や規模の情報を持ち帰るのが任務。
その中でも僕の所属部隊は、ゴブリン王国への偵察を担当していた。
ゴブリンはプテラノドン系の魔獣を好んで騎乗して、大空を飛び回る。
プテラノドン系は小回りは利くが上昇速度は遅いので、高度が上げてさえいれば、比較的安全に逃げ切れるらしい。
ただし大鷹に騎乗したゴブリンはそうはいかず、要注意だと教わった。
配属されて一ヶ月は、偵察員に関する座学ばかりで、全く出撃の順番はまわってこない。
しかしある日の偵察任務で、オブザーバーの一人が大怪我を負った。
それでその欠員を埋めるため、その席に僕が座ることになった。
一度だけテスト飛行をしてもらい、何となく頭に動きを叩き込んだ。
そして、雲の合間から太陽が見え隠れする暖かな朝。
僕に出撃命令が下だった。
騎乗するのは、茶色の大型のワイバーン。
人間でいうと、中年のおっさんだという。
良く言えばベテランってことだ。
騎乗具を念入りに点検していると、操竜士のキサン上等兵曹殿に怒られた。
「坊主、ここは学校じゃねえぞ。チンタラやってんなっ」
そう、ここでは学校で習った事など通用しない。
戦場では戦場のルールがあるのだ。
それにキサン上等兵曹は僕を名前で呼んでくれない。
僕は素早く点検を終わらせ、急いで後部席に後ろ向きに座る。
そして安全ベルトを締めていると、再びキサン上等兵曹に怒鳴られた。
「偵察員がベルト締めてどうするっ。どうやって下を覗き込むんだよ!」
僕はハッとした。
安全ベルトで体を固定したら、翼竜の翼が邪魔で地上を覗くことが出来ない。
僕は「すいません!」と叫びながら、安全ベルトを外し、代わりに命綱を締めた。
キサン上等兵曹は「これだから新兵は……」などとつふやく。
だがそれを、近くにいた中年おじさんがなだめる。
「キサン上等兵曹、そう言う貴様も初めての時は同じ行動してたよな?」
見ればその中年おじさん、兵曹長の階級の小隊長だった。
するとキサン上等兵曹は頭をかきながら言った。
「もう、小隊長にゃかないませんぜ」
そして周りの整備兵達と一緒に笑いだした。
僕はその輪に入れずアタフタするだけだ。
そして整備兵のチェックも終わり、監視塔からの発進OKの合図。
茶色のワイバーンが地面を走り出す。
勢いがついた所で翼を羽ばたき、土埃を舞い上げながら地上を離れた。
グングンと地上の飛行基地が小さくなっていく。
僕は改めて周囲の装備チェックをする。
武器は後方に向けて小型の砲筒がひとつがあるだけ。
火槍は予備も含めて全部で五本。五本撃ち終えたら魔法攻撃しかない。
とは言っても、呪符が施された火槍は高価。無駄に撃つなと言われている。
火槍には命中率向上の魔法が呪符されているのだが、それでも空中目標に命中させるのは至難の技だ。
ちなみに火槍とは言っているが、発射されるのは単なる小型の槍。発射された時に見える発砲炎から火槍と呼ばれるようになっただけだ。
今回は偵察が任務なので、前方には基本的に武器は無し。
前方へ攻撃するには、魔法攻撃をするしかない。
出来るだけ余計な装備は外して軽くすることで、逃走する時の身軽さを優先しているのだ。
今回の偵察任務は簡単なもので、最前線のゴブリン部隊の規模を知ること。
徐々に高度を上げていき、雲の高さまで上った。
逃げることを考えると、出来るだけ高度を上げた方が良いらしい。
降下しながら逃げれば、高速を出せるし、高度があれば敵のプテラノドンを回避出来るからだ。
ただし偵察するために高度を上げると、地上から遠ざかり見えにくいというデメリットもある。
そこの加減が難しいという。
今回は低い雲が多い天候なので高度は高くとれず、低い高度で飛行した。
前線に近付くと、晴れていた天候に
雲が増えてきている。
曇り空というやつだ。
しかし雲が多いのは助かる。
偵察はしにくいが姿を隠せる。
そして僕らは接敵することなく、偵察地点までたどり着いた。
徐々に高度を下げて、雲の合間から地上を偵察。
しかし思った以上に雲が低く、仕方無くさらに高度を下げる。これでかなり低い高度まで下がって来たことになる。
しばらく飛ぶと敵の部隊が見えてきた。
直ぐに地上にいる部隊から、火槍による対空攻撃が始まる。火槍の届く高度まで降りてしまっていたらしい。
しかし大した数ではない。これくらいなら当たりもしない。
火槍は全然違う所を飛んで行く。
偵察を終えた僕らは、ゆうゆうと味方陣地へと向かった。
これなら無事に帰還できると、完全に油断していたと思う。
早く気付くべきだった。
雲が多いという事は、確かに隠れながらの飛行が出来る。
だが敵も雲に隠れながら接近出来るという事。
雲の切れ目から突然黒い物体が降下して来た。
ゴブリンが騎乗した二匹のプテラノドンだ。
僕は叫んだ。
「五時方向に二騎のプテラノドン!」
キサン上等兵曹はチラリと後方を確認。
直ぐに速度を上げて進路を変える。
近くの雲の中に隠れようというのだ。
だが降下してくるプテラノドンは速い。
グングンと後方に迫る。
僕は砲筒の取手を握り締め、後方に迫り来るプテラノドンに向けた。
その時、僕の手は震えていた。
右手で取手を掴む左腕を押さえたが、それでも震えは止まらなかった。
その間にも二騎のプテラノドンは、見る見る接近して来る。
もうゴブリンの顔もハッキリと見える距離だった。
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