第6話 戦時卒業
カザネさんは僕に視線を向けたまま話し始めた。
「マッシュ君かあ。確かに実技は凄いしクールで格好良いと思うよ――」
僕はその内容に聞き入った。
カザネさんの話はさらに続く。
「――でもね、イケてるかどうか聞かれると、それは話が違ってくるかなって。それって好みかどうかってことだよね。そうなると私はちょっと違うかなって」
なおもカザネさんの視線は、僕に向けられたままだ。
しかし何で僕を見ながら言うかな。
何か恥ずかしい。
すると取り巻き女子。
「ええ〜、そうかなあ。それじゃあさあ、カザネってどんなのが良いの〜」
いや、だから、男の僕がいる時の会話じゃないだろ。そういうのは女子会でやってくれ。
そこで
「あっ、次の授業、教室移動だったよね。急ご」
取り巻き女子達が慌ただしく動き出し、カザネさんのそれ以上の答えを聞くことは出来なかった。
僕は何を期待していたのか……
僕も急いで教室移動するのだった。
□ □ □
操竜士クラスとなってからは、授業の内容も大きく変わった。
軍隊っぽくなったというか、厳しくなったというか。扱いが個人から全体となっていった。
今までは個人が失敗すると罰は個人に与えられたのだが、今では連帯責任扱いで全員で罰を受けることになる。
そうなると、いつも足を引っ張る訓練生は決まってくる。
幸いなことに、僕はそこそこの成績なので、皆の足を引っ張ることは無い。
いつも足を引っ張るのは女の子……では無く、ケンキチという田舎育ちの男だった。
僕も田舎育ちなのだが、彼はさらに辺境の出身で、よく皆からイジられていた。
要領が悪く不器用と、よくこのクラスに入れたとさえ思う。
授業の度に「ケンキチ、絶対に足を引っ張るなよ」と、必ず誰かしらに言われていた。
だからと言って、ケンキチが全員から
必死にフォローしている者もいた。
だけどケンキチはいつも、辛そうにしていた印象しかない。
僕も何回か話したことはある。
辛そうに見えたから声を掛けたのだ。
「ケンキチ君、大丈夫?」
するとケンキチ君は笑顔で返答した。
「全然大丈夫だから、僕のことは気にしないでよ」
そんな風に言われたら、僕もそれ以上は言えない。
そんなことが何回もあった。
そんなある朝、ケンキチ君のゴーグルが無くなった。
ケンキチ君に聞くと、昨夜はあったと言う。
夜の内に無くなったらしい。
ゴーグルは個人所有扱いで、グローブと同様に個人で購入し管理するものだ。
だがゴーグルはそこそこの値段する。
平民が買い直すとなると、かなり痛い出費となる。
それを見た取り巻きの女子がボソリと言った。
「きっと、腹いせに隠されたか捨てられたのよ」
結局、ケンキチ君のゴーグルは見つからず、もはや買い替えるしかない。
僕も力になれないかと財布を調べたのだが、僕の財布の中身は可哀想なくらい寂しかった。
それで最終的には、カザネさんがケンキチ君にお金を貸し、新しくゴーグルを購入して、一応の決着はついた。
しかし最後まで犯人は分からなかった。
分かったのは、カザネさんは金持ちの娘らしい、という事くらいか。
そんな事件も、日増しに厳しくなる訓練で、あっという間に忘れ去った。
そして卒業まで後二ヶ月ほどという頃だった。
早朝から非常呼集で目を覚まさせられた。
訓練の一環として非常呼集は時々あるが、「訓練だった」として、直ぐに解散させられる。
今回も直ぐに解散になるだろうと、誰もが考えていた。
しかし、いつもと様子が違う。
その証拠にいつもは顔を見せない学長がいる。
グランドに整列する訓練生がザワつき始めた。
訓練生の整列する前に置かれた朝礼台に、ゆっくりと学長が上がる。
するとザワついていた訓練生が徐々に静まる。
それを待っていたかの様に、学長が話しを始めた。
「今日集まってもらったのは、君達に緊急の連絡があるからだ。君達も知っての通り、我が国はゴブリン王国と戦争状態を続けている。その戦況に変化があった。今朝早く、オーク王国が我が国の領内へ侵攻して来たーー」
訓練生たちが再びザワつくも、学長は話を続けていく。
「ーー我が国は西部地域でゴブリン王国と、東部地域ではオーク王国との二正面戦争という苦しい状況となった。それでまだ正式ではないが、軍から近い内に訓練生を特別措置として臨時卒業という形で卒業させ、各部隊に配属させるように要請がくるだろう。そこでだ。君達には今日中に、配属先の希望を出して欲しい。それと、いつでも移動出来るように、荷物をまとめておくこと。以上だ」
するとそこで訓練生の一人が手を挙げた。
「質問あるんだけど、いいっすか?」
見ればマッシュ君だった。
「操竜士のクラスの者か。何だ、言ってみろ」
「俺達のクラスは最終試験があって、希望通りの部隊には配属されない方が多いって聞いたっすけど、試験はどうなるっすか」
すると学長は、少し考えてから返答した。
「分かった。出来るだけ希望通りの部隊に配属する様にはからおう。だが、それが出来ない者もいるが、それは勘弁して欲しい。以上だ」
そう言うと、学長は校舎の中へと消えて行った。
解散の号令が掛かると、訓練生達は急に
やる気満々の者もいれば、不安を口にする者もいて反応は様々だ。
僕はというと、試験無しで希望の部隊へ配属になる嬉しさが大きくて、戦争状態なんてどうでも良かった。
逆に「やってやる」という気持ちの方が、強かったと思う。
その日の内に訓練生全員が、希望の部隊を学校に提出した。
もちろん僕は飛行騎兵部隊への配属が希望だ。
そして一週間後。
軍からの要請で僕達訓練生全員が、戦時卒業という形で見事卒業となった。
ただし操竜士クラスの全員が全て、希望通りの配属とはならなかった。
その希望通りにならなかった一人に僕がいた。
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