第5話 砲筒と火槍
僕が謝罪態勢に入ろうとしたその時だ。
銀髪の娘は僕の前に立つと、天使の様な笑顔で話し掛けてきた。
「同じクラスってことは、あなたも試験に通ったのね。私はカザネ、今後ともよろしくね」
何か今までの冷たそうというか、インテリっぽい印象とは違った。
良い人なのかもと思ってしまう。
「はい、ごめんなーーは? ああ、えっと、僕はトーリです。こ、こちらこそよろしくです」
「敬語とかよしてよ。気楽に話し掛けてもらって構わないから」
「はい、分かりまし……分かった。そうさせてもらうよ」
それだけ言うとカザネさんは、クルリと反転して女の子の集団に戻って行った。
その途端、男どもが僕をもみくしゃにした。
「おい、トーリとか言ったな。彼女とどうやって知り合ったんだよ」
「なあ、なあ、俺に紹介してくれよ」
「陰キャのくせに!」
だけどそのおかげでボッチだった僕は、男子の会話に入ることが出来るようになった。
これは僕の中では快挙である。
何日かするとボッチの僕にも、仲の良い友達が出来た。
「おはよ、トーリ」
教室に入ると真っ先に声を掛けてくるのは銀髪の女子。
そう、僕の仲の良い友達というのはカザネさんだ。
「カザネさん、おはよう」
毎朝、カザネさんと挨拶する度に男子からは、ある種の感情がこもった眼差しを向けられる様になった。
通り過ぎ際に「良い気になんなよ」とか、「調子こいてんじゃねえぞ」とか、「ぜってえ、潰す」とかぼそりと男子から言われたりもする。
机の中に釘の刺さった変な人形が入っていた時もある。
ハイリスクな友達だ。
だけど今の僕に仲の良い友人といったら、カザネさんしかいない。
もしかして、カザネさんのせいで他に友達がいないのかも……なんて思ったりもしたが、それは頭を振って忘れることにした。
そして最近、昼食に誘われるようになったんだが。
「トーリ、一緒にお昼食べようよ」
せめてこっそり言ってくれれば良いのに、わざわざ大きな声で言ってくるから厄介だ。
その度に、男どもの恨みのこもった視線を浴びせられる。
それからというもの、徐々に男子から話し掛けてくることが無くなった。
「トーリ、なに渋ってんのよ。どうせボッチなんでしょ」
カザネさんはいつも一言多い。
それで仕方無く昼ご飯を共にするのだが、ここからが問題なのだ。
カザネさんは女子人気も高い。だから彼女と一緒に食事となると、もれなく取り巻き女子が付いてくる。
結果、僕は生徒たちが使う大食堂で、女子に囲まれながら食事をとることになる。
これはもはや拷問である。
これを僕は毎日やらされる。
中には優しい取り巻き女子もいるのだが、大抵は僕を邪魔者扱いの目で見てくる。
特にカザネさんが一瞬でもいなくなると、僕はゴキブリ扱いになる。
辛い……
僕はそんな時、マッシュ君を見ることにしている。
マッシュ君は常に一人だからだ。
男子からも女子からも怖がられていて、誰も近付こうとしないし、本人も人を避けているようにも感じる。
良く言えば一匹狼だが、普通に表現するならボッチ。
だけど僕はそれを見て安心するのだった。
そんなマッシュ君の実技は優秀で、いつもカザネさん同様に目立っている。
ちなみに僕の実技はあまり良くない。
授業で習うような基本操作は、僕の性に合ってないようだ。
僕は実戦向きなのかもしれない……と言っておこうか。
僕の得意分野は座学、それと魔法の授業も得意。
得意と言っても座学はクラスで二位と、トップではない。
魔法の実技も三位と微妙なんだが。
それでも得意と言わして欲しい……
もちろん魔法の実技も座学も、両方ともトップはカザネさんだ。
魔法は翼竜乗りとはあまり関係ないかと思ったら、そんなことはなかった。むしろ重要らしい。
操竜に魔法は必要だし、空戦でも魔法を使うらしい。
空戦で使うというのは攻撃魔法で、触媒となる材料で作られたワンドや杖を使って石の塊を飛ばす『石弾』の魔法や、ちょっと材料が高価ではあるが炎の固まりをぶつける『炎弾』の魔法が一般的で効果があるとされる。
それ以外にも『氷弾』や『風刃』などもある。
と言っても、翼竜の種類や魔法を放つ個人差もあり、威力が足りない場合もある。
その為、魔法攻撃は騎乗者に当たらなければ、あまり効果ないと言われている。
それに操竜には魔法が必要なため、魔法の扱いが上手い方が翼竜乗りにとって有利だというのは変わらない。
拷問の様な昼食が終わり、午後の授業が始まった。
火槍術の授業である。
砲筒と呼ばれる金属筒から、爆裂ポーションを使って小さな槍を飛ばす攻撃方法のことだ。
今回はいよいよ翼竜に載せた火槍での攻撃訓練だ。
今までは地上射撃だったが、遂に空中射撃となる。
教官が初めにお手本を見せてくれるようだ。
翼竜に搭載しているのは小型の砲筒が二本。
装填されている火槍には、命中率を良くする魔法が呪符されている。
これがないとまず当たらない。
呪符の二重掛けは相当な魔力を消費するため、通常は一種類のみ掛ける。
命中率向上と爆裂の魔法を掛ければ、かなり強力な火槍が完成するのだが、そうなると費用が大きく跳ね上がり、実用的ではなくなってしまう。
教官のワイバーンが大空に舞い上がり、標的へ暖降下しながら砲筒を撃った。
小型の火槍が煙を吐きながら飛翔する。
そして二本の槍は、標的の馬車に見事命中。
訓練生たちからは歓声が上がった。
十分に近付いてから撃てば命中率は上がるのだが、その分地面に激突する可能性も上がる。
逆に恐怖から早めに撃つと当然当たらない。
この距離の見極めが重要だ。
これを五頭のワイバーンを使って、僕たち訓練生が順番にやっていく。
どの訓練生も全く当たらない。
大抵が恐怖から遠くで発射してしまうからだ。
その中で、初めから当てていく訓練生もいる。
カザネさんだ。
二本放った火槍のうち、一本を標的の馬車に命中させた。
誰もが「さすがカザネ」と言う中、もう一人の訓練生が二本とも火槍を命中させた。
その訓練生はマッシュ君だ。
実技ではいつも、二人が一番と二番を独占している。
だから不思議でもない。いつもの光景だ。
でもやはり悔しい。
僕もあの位置に行きたい。
もちろん僕は二発とも外した。
「トーリ、惜しかったね。もうちょっと溜めて撃った方が良いかもよ」
カザネさんが僕にアドバイスをくれるのは嬉しいが、ちょっと落ち込む。
二回目以降になると、マッシュ君とカザネさんの二人は、連続して全弾を的に命中させていった。
誰もが二人を天才と思った。
そんな中で、カザネさんの取り巻き女子の一人が「マッシュってイケてると思わない?」とか言い出した。
完全にガールズトークなんだが。
僕の存在を忘れてない?
一応男なんですが。
「ねえ、ねえ、カザネはどう思う?」
何故か気になる。
答えが非常に気になる。
取り巻き連中も気になるようで、カザネさんに視線が集中した。
僕もカザネさんに視線を向ける。
何だか胸がドキドキする。
その時、カザネさんの目が僕を見た。
その目は
そしてカザネさんは、僕に視線を向けたまま口を開いた。
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