私はなまくらになるのも、そう言われるのも真っ平ご免。


「とりあえず、穣くんは今のまま。私達のそばにつけて?」

「そうするか。俺も観察したくなってきたし」

「(笑)」

「……そうだ、今日の夕飯、『藤紫』で食わねえか?ノブ呼んでよ、槌谷も一緒によ」

「私は構わないけど。穣くん、味しないんじゃないの?二大巨頭揃い踏みだよ?」

「大丈夫大丈夫(笑)」

「全然大丈夫じゃなさ気だけど。一応スケジュール通しとく(笑)」

「ありがと、花乃(笑)」


藤紫かあ。

炎鷹上部連の密かな行きつけの日本料理屋だなぁ。


今は朝。

夕飯だというならば。


「藤紫へ行くなら髪をキチンとしたいわ」

「ウイッグするか?」

「髪状態とケアは完璧だけれど。長さが無いとブローからのヘアセットが決まらないわね。あそこに行くなら綺麗にして行きたいわ」

「男三人【同伴】か(笑)?」

「あら、同伴ならその前にジュエリーショップに寄るわ(笑)」

「おおこわ

「(笑)」

「とりあえず、サロンに電話しとく。昼には来るだろ」

「可哀想。急すぎ」

「あっちは商売。お前のほうが可哀想」


少し真面目な声で嶺臣が言う。


「嶺臣は私に甘過ぎ」


嶺臣の好きな声で言えば。

不意に引き寄せられてキスされる。


「……っ…」

「…俺の愛玩オンナだ。甘くもなるさ」


離れた唇が耳に寄せられて、囁かれる睦言むつごと


「ベッド行くか」

「イヤよ」

「花乃(笑)」

「ひとが来るんだし。夜は出かけるし」

「待たせりゃ良い」

うなずけば野生に返る誰かさんに頷けないわ」

「(笑)」

「待てば落ちてくる果実なら、れる時を待って頂ければ、有り難いわ」

「塩対応だなぁ、オヒメサマ♬」

「がっついてるわよ、オウジサマ(笑)」


肩にかけられた彼の指をそっと自分の指ではずして。


「寝るなら一人で二度寝するわ?ヘアセットってちょっと疲れるし。どうせ、私が寝れば、その間に今日着せる服でもクローゼットで選ぶんでしょ?買うのはやめてね?そろそろクローゼットがパンクしそうだから」

「お見通し。可愛い仔猫キティ♬…寝ろや。来たら起こす」

「お願いね」


私は嶺臣と座っていたソファから立ち上がる。


「嶺臣?」

「あ?」

「このソファ、買い替えない?」

「…オーケー。確かどっかの【店】で待合のソファ、申請来てたような。そっちへやるわ」

「唐突にオーナー私物。ビックリするわ、多分」

「こっちは経費が浮く(笑)」

「新しいソファの色は紫がいいわ?濃さはまかせる」

「小物だの足置きだののカラーは?」

「ダークネイビー」

「了解。おやすみ、お姫さん」

「……おやすみ、嶺臣」



部屋を出ながら想う。


しばらくは、気の触れたような淡い色には、囲まれたくない、と。


嶺臣はきっと、分かっているだろう──。

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