つくづく、自分を人でなしだと思う。

三嶋翔を、認めてもきたくせに。


彼は嶺臣の懐刀、コインの表裏だと。


褒めてなだめて良いようにもしてきたくせに。

利点数多い彼のたった一つだけを許せず、こうして痛めつける、私。


彼は、すごく疑り深い。

私にはそれを向けないけれど。

自分の仲間や配下でも、その疑り深さは嫉妬心や見下しにすぐ形を変えて。

伊砂さんや穣くんは何度も今まで被害を受けてる、実は。


その事については、嶺臣も何度も締めてるのに。

伊砂さんを蹴り飛ばした?

それもあの場を仮にも取り仕切った、私の命令の後で?


かっちゃんから伊砂、と呼び捨てされているけれど。伊砂さんはかっちゃんの配下ではない。

伊砂さんは嶺臣のそば付きの一人なのだ。

嶺臣の配下の呼び捨てを許されているのは、あくまでもそれを嶺臣が許しているから。

そんなことも忘れたのだろうか。


……嶺臣が六番倉庫で、仕置したとき。


かっちゃんは、いや、三嶋翔は、ずっと言っていたのだという。


『俺がなんで』

『姫のためにずっと』

『外道やクズから守ってあげたいから』

『俺、今回もちゃんとしたでしょ?姫の辛い危機のあと、姫を軽んじようとした馬鹿たちを排除できたでしょ?』


いや…アレはほとんど八つ当たりでしょ。

別に、私から頼んだわけでなし。

一年半も放り出されていたような店、これからも放置し続けたところで、邪魔になったなら嶺臣が指先を走らせておしまい。

それがたまたま、三嶋翔の八つ当たりしたい欲を刺激して、嶺臣が許しただけでしょうに。


それにごめんね。最後の方の処理、全部こっち。

…全く。


うん。

目、曇りかけてたのは私も一緒。

有難う、運命。


大体、私は【姫】じゃない。

嶺臣のもとでの皆からの扱いがどうであれ。

それはあくまでも口に出す必要の無い不文律ルール


……かっちゃん。相当。精神やられたんだな。

『姫』って、彼が私と知り合った初期に呼んでいて。

嶺臣は何も言わずに面白がったが。


私が、物凄く嫌がった。


…私はあなたの【姫】じゃないの。

あなたの愛玩ヒメではないの。

私をそう呼べるのは嶺臣だけなの。


やめて、二度と呼ばないで。


たとえ私が嶺臣の中で純粋な意味での唯一無二にはなれなくても。

言葉だけでも私をそう呼べるのは嶺臣だけなの。


馬鹿にしないで。



それからかっちゃんは私を花ちゃんと呼ぶようになった。


私も、時々出てしまう彼の姫呼びは一瞬なら我慢できるようになり。ひどければ、嶺臣にいい。彼はほとんど私の前では言わなくなった。


それなのに、退行してる。



面倒臭い。


そうじゃなくても、やる事は多い。

当面、店働きをしないならば、休むならば、【ヒマ】ではないのが愛玩・・だ。

と、私は思う。


嶺臣はヤレヤレといったふうに呆れるけれど。


私が望むのならそれなりに忙しくはしてくれる。嶺臣は、そういう男だ。


うとうとしていて欲しいと唇を軽く歪めてアルカイックスマイルを浮かべながら。


俺の前でだけ、暫くはさえずれ、金糸雀カナリアと、喉元を撫でて甘く囁きながら。


私の鳥かごを決して狭くはしない男。


だから私は、自由に囀る。


美しく、残酷で、奔放な男のもとで───。

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