✶1✶
✰変化✰✰
あれから、生活が改めて【変わった】。
食事、家事。
全て嶺臣が一新した。
全て『プロ』に任せる──。
今までも秘密保持の完璧な嶺臣の知り合い紹介の家政婦さんが週に数回。完璧な仕事をしていてくれたのだが。
毎日は無理だった。
嶺臣は家に人を入れるのが平気なのだが、三嶋翔が嫌がる。
特に食事関係を。完全に三嶋翔の管理下にはならなかったが、悔しそうで。
そこそこ器用に、私と嶺臣の口に合う料理を作れる彼にまかせてしまいかけていた私達にも責任があるけど。
プロ家政婦を毎日。午前十時から午後二時まで。
まぁ、これが快適で。
私と嶺臣は新生活一週間目で、この【改善】を以後もずっと維持する事を決めた。
可哀想だけれど、二度とかっちゃんは私達と同じマンションに住むことは無い。
彼が嶺臣にとって有用で必要な駒であることは現時点では変わらないが。
思うところもあったらしい。
三嶋翔の過剰反応と暴走行為。
前の時は彼のオンナの暴走でかっちゃん自身の対応も早かった。
だが今回は外からの誘発的な刺激があったとはいえ。嶺臣にとって見逃せないことが有り過ぎた。
些細な失態に見えるけれど。三嶋翔の私との近さ、少なからずの私への傾倒度からすれば、周りからは仕方無しと今までは流されてきたのだが。
今回は、流されることなく、三嶋翔からすれば突然で不本意、理不尽な処置となった。
“テメェのはもう【依存】だろうが。俺の
ホントに容赦ない。
“可愛い可愛いは良いし、その喉から出さねえなら、カラカラいってるその少ねえ脳みそが何をどう思っていようが俺は関知はしねえ。個人の自由とやらは大切らしいからな”
マンション追放後、数日たってかっちゃんにかけた電話の声は絶対零度の冷たさで。
“確かにテメェの食いもんも花乃の口には少しはあったらしいが、俺は手駒を飯炊きにする気はもう失せた。付け上がりやがって。
アイツの怪我はけして軽くない。状態がじゃねえよ、事実がな。そんなアイツの負担になりやがって”
嶺臣の表情は常とは変わらないままだったが、それが逆に恐ろしい。
“手負いのオンナ、【動かし】た上、花乃の言う事聞かないだ?花乃はお前の【上】だ。はるか【上】。上の言う事に逆らうお前に存在価値があるか?ああ?”
声は段々と笑いを含む。
“身の程知らずが。しばらくはノブが出張るからテメェはノブの靴先でもチロチロ舐めてろや?
安心しろ?お前の代わりなんかじゃなく、槌谷は有能な側付きだ。きちんと考えろよ?テメェの自信や地位なんざ、ひっくり返せる弱いもんだ。槌谷が生意気なんじゃねえ、お前がド底辺なんだよ!”
そこまで言ったところで、ふいに通話がスピーカーになり。
“ すみません。嶺臣さん、すみません!お願いします。 花ちゃんの声を聞かせてください”
“あ?”
“花ちゃんと…”
“あ? 聞こえねえな。 お前は【下】だよな。 花ちゃん?なに、下の下が俺の
伊砂、蹴り飛ばした馬鹿。気ぃ狂ったまま若いモンに怪我させて備品破壊してよ?下の下。ド底辺!口のききかたも忘れたか?
【花様】だろうが。おい、生意気してんと、今度は俺とノブで締めんぞ、こら?”
イヤ、さすがにそれはかっちゃん、消えるよ?
“別に話すことないでしょ”
“花ちゃん!”
“………。もう一度?聞こえなかったわ?”
蜜のように甘い声を出して聞き返してやる。
“私を、なんと呼んだの?ねえ?【三嶋】?”
三嶋だけを氷のように冷えた声で。
“!”
“わざわざ嶺臣が言ってあげてるのに?私を馬鹿にしてるのかしら?【三嶋】?”
“……違…っ”
“私は【上】、あなたは【下】。……言葉遣いも知らないの?”
“…お許し…ください、花…様……。お話を……”
搾り出されたような
“なんの話かしら。私、忙しいんだけど”
“……花…様…っ…”
“聞いてと言われて聞く義理はないわね。
あなただって私の言うことより自分を優先したんでしょ?大体、私にしろ穣くんにしろ、あなたに【行動を規制する欲】なんて向けられても迷惑よ。相変わらず学ばないのね?ましてや今、あなたに理性なんかないでしょう?”
“…花…様…!”
“なんで忙しいか教えてあげるわ?【
“…な…なんで…そんな”
“言わせるの?ホントに馬鹿?あなたのせいでしょ?”
“…俺…そんなつもりは…そんな…”
“あなたのつもりなんか聞きたくないし、聞いてないわ?
今までのあなたが全てでしょ?
今までのあなたの私への錯乱具合なら、洋服を買いにいけない。待ち伏せされるから。通販にもできない。あなたが探るから。気持ち悪い。個人的にエステにもいけない。私は今はあなたに万が一でも会いたくないし、つけられて大事な店を絶対にしられたくない。とにかく今は本当に、あなたの声を一瞬でも聞きたくないの。……ごめんね、三嶋。この数年、あなたに私、ずいぶん【合わせて】いたのね。
辛抱強いのは私の利点だけど。…でも少し我慢がキレたわ。もう、いや”
“……そんな……まさか…っ…”
“あ!そうそう。
あなたでもね”
“おお、コワ。そんときはキッチリ、炎鷹は言わせてもらうぜ?三嶋翔の
“……そんな……そんなぁ…”
彼からすれば、些細なこと。
私達に生活面でもできる時出来るだけ尽くしてきただけ。手を伸ばして守ろうとしただけ。
彼の領分内に手を伸ばす自分の配下の出しゃばりを叱ろうとしただけ。
私達にも非はある。
愛に似たもの。
嫉妬に、似たもの。
似て非なるものの面倒臭さを放置した。
優しさからではなく。
指先でつまめば捨てられるそれは、片方には薬で片方には毒。
“嶺臣”
“ん?どした?オヒメサマ?”
“夕飯、フレンチじゃなかった?着替えて寄りたいとこもあるし。早く切って”
“分かった”
“花さ…”
“三嶋、あなたと話しながら、自分のスマホで暢ちゃんに連絡したわ。かなりノブちゃん、イライラしてたみたいだから、【頑張って】?”
“……ヒッ……”
それから、私はまた爆笑し始めた嶺臣をよそ目に、着替えにいったので知らないけれど。
三嶋翔。
衛藤嶺臣の懐刀。
浮上してくるのは、暫くはあとの事になる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます