穣くんが、少しほっとしたような表情になる。

かっちゃんの直属側近とはいえ、私からの大義名分があれば、神経のすり減りはいくらかマシだろう。

かっちゃんは私に絡んだ事には面倒臭い。

特に、私は割合と穣くんを頼るから。


ヤキモチ焼いたって仕方ないのに。


「でも、まだ、ちょっと不安ね」

「花様」

「暢友ちゃん、付けようか?それくらいなら【好きにしろ】の範囲に入るわ。暢友のぶともちゃん、この間もヒマヒマ言ってたわ。電話で」


すると、穣くん、顔色が少し変わる。


「……京極さんを、三嶋にですか?」

「ええ。私がお願いすれば期間限定で。前にかっちゃんに私が怒った時にも、結局、話は出てたけど本人は出なかったけどね」

「……話に出てた…」

「『俺、出ましょうかあ?花』って」


京極きょうごく暢友のぶとも

実力的には嶺臣と並ぶんだけど。三嶋翔より、位ははるかに上。んー、わかりやすく言えばかっちゃんにとっては逆らわないように自分を調教した先輩の二人目?みたいな。


私を『花』と敬称なしで呼び捨て出来る時点で

【上】なんだけど。


「決めた」

「花様?」


私はバッグにしまいかけていたスマホをもう一度手にして、今度は電話をかける。


「ハァイ」

「暢友ちゃん」

「いつからあ?」

「……暢友ちゃん(笑)」


暫くの待機音のあと、聞こえてきたのは耳に快い中低音。


暢ちゃん、ツーカー過ぎよ?


「できれば明日から」

「分かったー」

「あのね。兼任させようと思ったの」

「うん♬」

「だけど」

「あいつ、めんどくさいからね〜。ちょっと側付き出して?いるでしょ」

「スピーカーにする」

「花」

「考えて?暢ちゃん」

「んー」

「暢ちゃんと一対一はキツイ。たとえ直属でも。度胸の問題じゃないの」

「…それもそっか。きこえてる?えー、槌谷だったよね?」

「…は…い、京極さん」

「お、良いね。『様』呼び、嫌いだから」

「あの、うちの三嶋に……」

「ん〜、実はね。伊砂ぶっ飛ばしちゃった、あいつ」

「!」

「まぁ、伊砂もやり返して、引き据えて」

「本当に嶺臣、言葉短縮するね」

「どうせ、あいつは今日はマンション戻さない、くらいでしょ?嶺臣は?」

「正解。ねえまさか【ひろ】でやったの?」

「……【紘】……?」

「私と嶺臣の隠れ家の呉服屋。公開しちゃったけどね。暢ちゃんなら把握済みでしょうに」


京極暢友なら。


「あー(笑)。ないない(笑)。

それはさすがに。いっぺん、近くのヤサに連れてったらしいけどね。ちょっと限界テッペン超えたんじゃね?花と槌谷消えたし」

「情報早いね」

「まぁね(笑)」

「暴れたらしいよ。結構な大暴れ。あいつ、ホントに花が好きね〜」

「………。伊砂さんは大丈夫?」

「伊砂は平気。腹部ハラ蹴られたらしいけど。翔のへなちょこキックが伊砂に効くわけ無いじゃんw」

「…言い過ぎ(笑)」


伊砂さん、強いからね。

普段はかっちゃん立ててるけど。

それにかっちゃんのキックを【へなちょこ】って言えるの、暢友ちゃんくらいだよ。


「【抜き身の刃】の筈なんだけど」

「花の怪我が相当ね、きつかったんだろ。でもな?それで抜きっぱなしのなまくらになられても、花が迷惑だろーが」

「暢ちゃん」

「嶺臣は爆笑して俺にライン入れてきた。種明かし(笑)」

「…ったく」

「おい、槌谷」

「はい、誠に申し訳ございません。三嶋には後できつく躾を致します」

「(笑)。……お前、良いね」

「流れを読ませて頂きますなら、私は今から暫く花様専任となりますようですので、ならば三嶋が私の直属の上であったと致しましても、花様のお言葉あったからには解除のご指示あるまでは私は三嶋よりも高く立たねばなりません」

「……合格」

「有難うございます」

「大丈夫。明日から引き受けるわ〜。あ、そうそう、花」

「ん?」

「翔、危ねーから一回マンションから引かせるって。前もあるからよ」

「あー」


例の、かっちゃんの彼女からの一件か。


「だけじゃねえが。直に見たにしても、ちょっと嶺臣の神経に触れたね。アレ」

「そう?」

「店イジられるとかは別に良いんだけど。そのあと微妙に花の言う事聞かないし。花、怪我してんだろうにストレス増やしてどうすんだよって話」

「まぁ、ストレスかと言われると……微妙」

「(笑)」

「ただ、今はめんどくさい」

「だよな。身体痛いとこにパーソナルスペース侵蝕花ちゃん花ちゃん野郎は迷惑。あ、ごめんね、槌谷」

「いえ、全くその通りでございます。三嶋の新住居に関しましては」

「こっちでやる。任してくれる?」

「お手数おかけ致しますが、よろしくお願い申しあげます」

「了解」

「じゃかっちゃんの部屋は誰か使う?」

「槌谷が使えって。嶺臣が(笑)」

「(笑)」


サドだね、嶺臣。


「槌谷には槌谷の都合もあるだろうけど」

万障ばんしょうり合わせます」

「正式に。一時的にせよ、花の守り役につけるから、って嶺臣が今周りに情報ネタ回してんだろ」

「で、ちなみに今、かっちゃんは?」

「炎鷹の【六番倉庫】。縄で両腕両足拘束。口にはボールギャグ(真ん中にゴルフボール大のボールと両端の革紐から構成される口枷くちかせ、猿ぐつわ。ギャグボールとも言われている)で、周り二十人体制で嶺臣配下三人でお仕置き中かな?」

「あら、えげつない」

「………甘い」

「穣くん?」

「槌谷(笑)」

「ボールギャグの形状は、穴あきですか」

「うん。キツめで球大きめで。ヨダレ垂れ流しになるやつね。趣味嗜好じゃなくてキッチリけじめをつけさすためのヤツだから、容赦はしてねえな」

「…ご忠告申しあげます。手首にも拘束用手錠を。両肩は外してありますか」

「(笑)」

「すっげー容赦無え。肩は外してあるよ。拘束具は追加させる」

「出来れば両足首にも。あと膝も開閉不可能なように縄で拘束を」

「オーケー(笑)」

「手癖足癖悪いもので。私の監督不行届です。ご存分に」

「花、槌谷、面白え」

「でしょ♬」

「……じゃ、切るわ。またホウレンソウする♬」

「バイバイ♬」

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