レストランからの帰宅の車中──。
「でもさすがに意地悪だったかしらね、とは思うわ」
「花様?」
隣に座る穣くんに言った私の声は内容に
「呉服屋に放置、お前の状態がどうなろうが、勝手についてきたんだから勝手に帰れ?は。その後私はあなたと雲隠れしたし」
「……花様のご意志のままならば、三嶋は従うでしょう」
「………」
「駄々はこねるでしょうがね、私に」
「こまったひとね。面倒を見るならば迷惑ね、あなたには」
時々ならば我がままは可愛らしいものだけれど。彼の場合は…。
「花様」
「かっちゃんはあんなになるまで私を見てるのに。私は彼のしている事を心底、【私のために】とは思って上げられないわ。困った人間なのは私もかしら」
「……っ」
「後悔する気も改善する気もない鬼畜ね」
まるで自分の事では無いかのように口から言葉を投げ出してみせる。静かに。
「ひどいオンナ」
でもきっと私がこういうオンナでなければ、三嶋翔は私を追い求めないだろう。どんな情にしろ。
嶺臣がああいう男でなければ、私がこれほどあの人を追い求めないように。
「確かに…鬼畜でしょうね」
「あら」
「何も知らぬ馬鹿者から見れば」
「穣くん」
「美しく照り輝く果実の皮の下で、その実が甘くなる為の苦労、努力をけして知られずとも。
美しく実ったとて
「穣くん」
「三嶋は自分の好き勝手で花様に
「いいの?」
「ええ」
「……鬼畜ね、お互いに」
「勿体無い」
「でもだからこそ、あなたは信用できるわ、穣くん」
「花様」
「夢見がちな子供のそばにいるのが
「……」
「その夢の他に何も持とうとしない子供。見たところで、叶うかは賭けにも値しない、
「花様、貴女には……」
「私には私がいるわ」
「………」
「誰よりも厳しい側近がね」
「花様」
「少しだけ、疲れてもきていた」
「……」
「明日から少し口調が変わるわ。店にはしばらくは出ない日々だし。今度は炎鷹の息がかかった場所になるだろうし。自分をリニューアルするには順当な時期かも」
「花様」
「まぁ、お互いに頑張りましょう」
「はい」
「かっちゃんは、可哀想だけどね」
「三嶋は私がなんとでも致します。【世話】は心得ておりますので」
「頼もしい(笑)」
私はバッグからスマホを取り出し、ラインを立ち上げ、指先を走らせて操作する。
数秒後、返る返信。
「“了解”ですって。相変わらず短いわね、嶺臣の返事」
「(苦笑)」
「一応、受取を私からも報告したけれど。かっちゃんに関してちょっと書いたら」
「……」
「“花乃の好きにしろ、槌谷を上手く使ってやれよ”ですって」
「……嶺臣様」
「何気に評価高いのよ、
「花様」
「かっちゃんは『扱いづらい男だからな。はじめから取扱い説明書がドンと厚いなら良いが、薄〜いマニュアルが次から次へと知らねえうちに増殖しているようなヤツだから。面倒くせえが性能も悪くはねえから手放しはしねえがよ。根性ヘタレですぐバッテリー上がるけど機転は利くからなぁ。あれ、でもよく考えると、打たれ強さと腕っぷしと機転以外、ポンコツじゃねえか?
「……っ……(笑)」
聞いた途端に穣くんは吹き出すのを耐えるかのように肩を揺らし。
私は笑う。
「穣くんは『ワイヤー式のリードを普段は限りなく長くしてるけどイザという時には首根っこ掴んでアイツを張り飛ばせるから信用してる。あいつとは別の意味でな』ですって」
「…勿体無い」
「そこそこ本気っぽい」
「有難うございます」
「穣くんは良い子ね」
「花様」
年上に言うには尊大な呟きだけれど。
「帰ったら、冷蔵庫の中味を全て出すから若い人達で食べて?」
「畏まりました」
「かっちゃんはマンションには今日は戻らないって嶺臣言ってたから。さっさと片付けてしまうわ」
「はい」
「それから。暫くは『来ないでね、三嶋』と伝えて。あと、『槌谷は私付きを少しの間、兼ねてもらうので、表裏での要らぬ手出し口出し無用』とね」
「……はい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます