数秒して口を開いた穣くんの声は、静かだけれど低かった。
「…確かに…その後でここにきて、あの女の妄言を聞けば、【あの状態】になりますね、うちの三嶋ならば」
「…うん」
「三嶋のことです。…ここに思惑あって来たのは間違いないですが、思ったよりも段ボール箱の中の果実が腐っていた、ということのようですね…」
「そうだね。仲間内とはいえ、人の畑なんかめったに覗かないし。どんなに綺麗な実でも箱の中で腐るものは腐る。
いくらかっちゃんが嶺臣の懐刀でも、無理よ。能力の問題じゃなくね。…丸投げし過ぎなのよ。嶺臣。もともとかっちゃんは
「花さん」
「嶺臣本人も時々は俺がやったほうがよかったかな?とか、気にはしてるみたいだけど?腰を上げるのが遅いし」
その気もめったに起こさないしね。とはさすがに言えない。
「…とりあえず、嶺臣は笑うわね。
“おい、翔。お前いくつ?
って。超のつくサドだからね~、かっちゃんには」
「(苦笑)」
「あとで絶対に、かっちゃんが穣くんには文句言わないように言ってきかせるからね。むしろ暴走列車強制ストップの恩人だから!って」
「…有り難うございます(笑)、花さん。でも、したことを考えれば、三嶋の怒りは受けるべきかと」
穣くんは義理がたい。
だけど。
「だーめ。穣くんでしか歯止めきかないことをしてくれてるのに、叱るのはアウト」
「そう言って頂けるのは光栄です」
穣くんの口角が
冷たい印象を与えるほど整った彼の美貌が少しだけ緩んで見える。
「で!」
「花さん?」
「権限移ったなら私やりたいことあるの」
「?」
「かっちゃん待ちながら飲んでた時にはもうだいたい考え終わってたんだけど」
もう一度、ちょいちょいと穣くんを指先で呼ぶ。
そして耳元で囁く、
「かっちゃんの懐刀さん。オーケー、くれる?」
悪戯っぽく呟けば。
瞬間呆然としていた穣くんは、ふっ、と笑みを浮かべてくれる。
今度こそはパーフェクトな、美しい微笑。
「何なりと。お手配させていただきます、
…『嶺臣様のお姫様』。そうお呼びしても?」
「…構わないわ、その呼び方ならば。それに…あなたならば」
「……有難うございます」
そして私を姫だきで抱き上げて隣室へ戻る彼はまさしく騎士に変わりなく。
朝までに色々済まさなきゃいけない諸々はわずらわしいけれど。
不思議なくらい、心は軽い。
傍目には傍若無人な交代劇の行われた場で心軽くする私は充分に鬼なのだろうけれど。
今更だ。本当に。
私がもし溜め息をついたら、嶺臣は大笑いするだろう。
どうせまた、鬼の
おまえは本当に、変わったオンナだからな?
と。
…人聞きわるい。
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