ちなみにセレブレーションは、『門出』《かどで》を。ネバダは、『誓い』を意味するカクテル言葉のあるお酒だ。


新しい女王と、それを支えるキャスト達。

はなむけにはふさわしい。


しばらくすると彩矢ちゃんが黒服を従え戻って来て、乾杯。


少しだけ複雑さは、部屋の中に漂うけれど。



「かっちゃん」

「ん?」

「…ねむい」

「ねむい?あー、そうだよな。花ちゃん今……。帰るか?」


ちょっと無理してるのは百も承知だ。


昨夜から時間がたって、夜になって。痛めつけられた傷だけでなく、関節とかも痛くなり。


それが出てきていて。

だるくなってきてる。


まあ、別に。私は、大丈夫なんだけど。

嶺臣やかっちゃんは【私の大丈夫】なんか信用しない。経験上。

心配性だ。

特にかっちゃんは。


「……いや。まだ居る。美貴さん大好き」


ソファのクッションにうずもれながら私が言えば。


「…まあ、…光栄な……少しだけ、泣きそうですわ」

「他の皆も好きだけど。…ごめんね」

「謝らないで下さいませ」

「花さま、そのままそこで横になられて下さい。ブランケットのご用意がございますから」

「ありがとう」


遠慮なく、そうさせてもらう。

ブランケットをかけてもらって、寝やすい体勢をとって。少しだけリラックスする。


「それで、美貴」

「はい」

人事じんじだが。

俺の持ち店の『La Luna(ラ・ルーナ)』から、まずはキャストを五人、ヘルプとしてこちらへ入れる。店の対外的な【格】としては、少しローズが上だが。ルナのキャスト達は訓練済みだからな。実戦向きだとは思う。黒服は三人、上から入れ換えだ」

「…ご存分に」

「残したい連中はいるか?」

「外に【迎え】に出なかった、キャストは…」

「今日の出勤人数二十名。三役引いて、五人マイナス。この部屋にいる五人を数に入れて十三人。…七名だな」

「とりあえず、その七名は何となく把握できますので残す方向でご一考を」

「と、思ったから一室に集めてあるよ。申し訳ないが、来ていた客には俺が説明を入れて、帰ってもらったよ。後々の優遇つきでな。まだ来てない客にはまともな中堅の黒服が断りの電話を入れることになってる。…遅くなったのは、それもある」


【説明】が、真実である必要性はないので、アウトローだなんて思わせない、イケメンオーラりの、【オーナー代行】で茶番劇を乗り切ったんだろうなあ、かっちゃん。



「私からも後でフォロー連絡をさせて頂きますわ。…三嶋さま。お手数お掛け致しまして、誠に申し訳ございません。…オーナーには改めてお詫びを申し上げますが、まずはお手をわずらわせましたこと、幾重にもお詫び申し上げます」


美貴さんが、座ったまま、頭を下げる。


「…瑶子さんと、五人については忘れていい。

領分違いだからな」

「畏まりました。貴女たち四人も心得てね」


知る必要の無いことはもう過去むかし──。


静かにかっちゃんが返し、美貴さんが答えて。

分かりました、と美貴さん以外のキャストが頷き。


区切りがついたようだから。


「……かっちゃん」

「どうした、花ちゃん」

「七名、呼んで」

「花ちゃん?」

「花様?」

「…かっちゃん、お願い」

「柳澤」

「…畏まりました、呼んで参ります」


柳澤さんが素早く立って部屋を出てゆく。


「花様……」

「七名は美貴さんのほう?」

「…そうですね。瑶子ママは、以前とは、変わられたので……」

「……そうかあ」

「花ちゃん」

「ん」

「会うのは構わない。だけど、横になったその格好のままだよ?…苦しくないね?」

「痛みないよ、平気」

「苦しくなるなら中断させる」

「はぁい」


本当に、心配性だ。



少しして。


部屋の中に七名のキャストが入ってくる。

うん、…見事にあったことがない。


この店が出来て、五年。

私が顔を出すのも年に一、二回か、今回のようにあけば一年半くらい来ない。

それにしては美貴さん達と仲が良すぎる?

それは。

私に合うと判断した女性キャストを嶺臣が買い物やら何やらに付き添わせるからだ。

男が入っては都合悪い場合もあるし。

どの店の、とかは関係ない。

嶺臣の店の女性キャストの場合もあれば、かっちゃんの店の場合もある。

比率としてはかっちゃんの店の子が多いけど。

共通しているのは、VIPルームで私と数回以上ふれ合い、三嶋翔と衛藤嶺臣から許可が出ていること。


まあ、私も夜は自分で夜の町に【泳ぎに】行き、キャスト働きしたりしてるから、頻繁じゃないんだけど。


店に行かないときは、俺の愛玩らしい格好が見たいって言うから。仕方ない。


入ってきた七名は。勿論。

条件にあっていないから初対面はとうぜんなのだけれど。


私のことをじろじろは流石さすがに見ないけれど。

当惑は伝わる。


噂に聞く、オーナーの愛玩イイヒト

私達に、何の用が。


『事情』ならば、もう軽く聞いたのに。

そう、顔に書いてある。


私は構わず、彼女達をじっと、見て。


「ショートの青いドレスの貴女、ゴールドのイヤーカフしてる貴女。…かっちゃん。追加分」

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