そこに。


「ちょっと、なんで前に出てるの?通して」

「貴女達、関係ないでしょ、退いて」


あ、聞き覚えがある声が。


「花さん!」


「流華ちゃん?彩矢ちゃん?」


ママの後ろに立っている子達を押し退けるように二人、出てくる。


「花さん!」

「ビックリした!今日出て良かった!花さん、お久しぶりです!」

「お久しぶり」

「今日も可愛い♪花さん♪♪」

「髪型変えました?似合ってる」

「うん」


私を呼んだ流華という子の手にしているのは、上品なサファイア色の大振りなストール。

私の上半身をすっぽりと包んでしまえるもの。


「これ、夜は冷えるから」

「…素敵」

「美貴さんが。花さんを私より先にお出迎え、って」

「お礼言わなきゃ」

「その言葉だけで喜びますよ」



流華ちゃんは小さく微笑む。彩矢ちゃんも。

その様子にかっちゃんがほっとしてるのがわかる。


彼女達と、知らないキャストさん達との違い。

知らないキャストさん達は【三嶋翔】を見てる。


自分達の前に現れた、三嶋翔を。


でも流華ちゃん達は【私しか】みてない。

私の言葉、私の一挙手一投足、眼差し、声。

白雪花乃という眼の前の【私】しか。


三嶋翔よりも、白雪花乃。

それは、彼にとって何よりも信頼にあたいする。


「流華ちゃん、彩矢ちゃん、有り難う。先に案内してあげて?……いつもよりゆっくりめの歩調で。…頼んだ」

「畏まりました、花さんをお預かりいたします」

「ご安心を。…悪いけど、そこの貴女達、下がって寄らないで?声もださないで?……花さん、行きましょうか」

「うん」


二人が先導してくれて。

私はゆっくり移動する。前だけ見て。


ママの後ろの知らない気配のざわめき。

無知と怯えと嫉妬心で編まれた感情がこちらに向かっていることに重々気づきながら。


何も見ずに。前に進む。


何故、かっちゃんが一緒に来なかったのか。

知りながら。

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