オムカレーをモグモグしていると。
だいぶ気持ちも身体も落ち着いてきた。
だから。
私に背を向けてリビングキッチンで仕込みをしているかっちゃんに話しかける。
「かっちゃん」
「ん、どうした、花ちゃん?食べ終わったら、そこ置いといて?眠くなったらそのまま寝て?ちょっと傷多いからお風呂は朝になって嶺臣さんに判断してもらったほうがいい」
「ん、お風呂はそうする。まだ眠くないから話していい?」
側に置いてくれたココアに私は口をつける。
甘くて、美味しい。
「ん、いいよ♪常備菜作りながらになっちゃうけど。それとも手止めて聞こうか?」
「ううん、作業しながらで良い」
「分かった。話して♪」
かっちゃんの声は穏やかだ。
『お前。俺に出す声と花乃に出す声の温度差でグッピー死ぬわ』と嶺臣が良く言う。
「あのね、お店に【黒鳳】の人間が来てた」
「!」
背中を向けたままのかっちゃんに言ったら。
ビクッ!って分かるくらいに、肩が動いた。
分かったけれど、私は言葉を続ける。
「定期巡回?だって。新しい子や人気の子を見にきたって。…はっきり言うとあんまり上のほうじゃない。真ん中くらい?」
「…花ちゃん?」
かっちゃんから返ったのは、硬い、声。
「店長、ペコペコしっぱなしだった」
記憶に蘇る、男の情けない、姿。
むせ返るような、アルコールの匂い。
「…ちょっと待って」
「お店ね、多分、系列まで行かないけどその下くらい」
下卑た視線。
身体を這い回るそれに、何一つ感じない自分。
「…っ………」
「かっちゃん、キノコ焦げる」
フライパンの中のシメジとワカメのバター炒めは私が好きなレシピの一つ。
焦げたのは食べたくない。
「…………花ちゃん、やっぱり、ソファで話聞かせて。ちょっとこれだけ仕上げたら行くからソファで待ってて?」
「はーい」
オムカレーはほぼほぼ食べ終わっていたので、
私はココアの入ったマグを持ってソファに移動する。
数分もたたずにかっちゃんはソファのところに来て座って。
「話して大丈夫?」
「うん」
「…聞く」
真剣な眼をした。
「よく分かったね。…
「爪」
「………!」
「皆、店の中でVIPルーム入ったら、手袋外して。利き手じゃないほうの薬指の爪に真っ黒いネイル」
「……」
「ちなみに、二日くらい空けて二回きたけど、二回目の方がえらいのが来てたと思う。…一人だけ、右の薬指にネイルして、そこにプラチナの指輪してた。
「!!」
「…あとは皆右利き。だけどその人は左利き」
「…花ちゃん」
「私、二回目、すぐVIPルーム、新人なのに呼ばれた。それまでは愛実ちゃんがVIP専属だったのに、その時はサブ」
多分、あれで決定的に恨まれた。時にはシンプルだ、女の恨みは。
「連続の巡回なんて無いって店長あわててたけど」
「…無いよ、無い」
「かっちゃん?」
「花ちゃん………」
かっちゃん、声が、低くなってる。
【
それはこの街の【夜】に
そして彼らは私の情人、衛藤嶺臣と三嶋翔の所属するアウトローチーム【
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