8. ん~あのね(コリコリ)
「僕が入った部署ね、男所帯だったんだ」
「俺、救いの無い話だと抜けないんだけど」
「君と会えてるんだからハッピーエンド扱いでもいいだろ結果論純愛厨め。そうじゃなくて、まあ、そこではよく頭撫でられたり、猫撫で声で話しかけられたり、抱っこされたり肩車されたりするだけだったから、慣れたもんだったんだけどさ」
「それに慣れ切ってる時点でこれ以上なく悲惨だと思うんだ」
「でも「そういうの良くない」って止めてくれる同僚の男の子が居てね」
「おっと脳破壊に来たか? バッドエンド見えてるなら俺は致命傷で済むぞ」
「過去回想じゃNTRどころかBSSにもならないだろ。まあ自然と他の人らとは違う関わり方になって、趣味の話とかもしてたんだけど……。ある日、給湯室で壁ドンされてねえ」
「盛り上がってまいりました」
「別によくあることだったから、股間蹴り上げて逃げてそれっきりにしようと思ったんだけど。どこから話が流れたのか翌日社内で大騒ぎになっててさ」
「ちょっと展開早過ぎてアレだけど、続けてどうぞ」
「職場での僕の扱いも問題になってたみたいで、課長が気を利かせてくれて女所帯の別部署に異動させてくれたんだ」
「おっ、流れ変わったな」
「僕がタマ潰した同僚の、彼女が隣の席にいた」
「ハァー……ッ! ハァー……ッ!」
そこから先は、特に面白い話でもなかった。導入が上手過ぎたのはある。
ハブられ、陰口を叩かれ、根も葉もない噂を流され。最低限の仕事すらまともに覚えられず、下らないミスを晒し上げられて、噂は事実として扱われていく。コレはマズいと意を決して上司へ相談を持ち掛けてみれば、やる気が無いコミュ力が無い仕事への誠意が無いと、的外れな根性論精神論の説教が延々と続く。
次第に、居場所が無くなって。
ここではやっていけないなと、見切りをつけた。
「驚いたことに、次の職場でも似たような目に遭ってねえ」
事実は小説よりもなんとやら。二度あることは三度ある、かもしれない。
だからサエは、そこで、普通に生きる道を諦めたという。
どこかで、聞いたような話だった。
「まあ……なんというか。人生そんなもんだよな、何故か」
「含みがあるねえ。分かったようなこと言って」
「仕事早くて常に手が空いてるのをサボってるって言われるぞ。今の仕事で三回目」
「……そっか。よくある話なのかもね」
「どこに行っても似たようなクソが居るんだよな。驚いたことに」
またコイツかよと、素でそんな感想が出た。
諦めはついた。仮にも大人やっている。
――自分のことならば、の話だが。
「なあサエ」
ん? 首を傾げる彼女に、改めて向き合い。
「良かったら、ウチの会社来ないか?」
「えっ」
「あとここ住めよ。家賃も生活費も浮かせられるし」
「えっ」
「ってかむしろお願いだから住んでくれ。布団はおろかそこら中からサエの匂いがして、俺二度とこの部屋でまともに寝られない。隣で寝かせてくださいお願いします」
「ええー……」
最後の弱音泣き言が決め手となり、同棲生活はしめやかにスタートした。
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