第32話 二、三度あるなら四度目も……

「ねぇ母さん、これって……。」


 何気なくボイスの収録場所である地下室に向かったボクの目の前にあったのは……あまりにもガチなスタジオだった。


『あぁ〜お父さんからの差し入れ的な?ボイス販売のこと話したらさぁ……。』


 差し入れ自宅スタジオ……差し入れ!?その範疇を逸脱してませんかねぇ!?あの……ちょっと前までもっと簡易的なやつじゃなかったですかねぇ……。まぁいい。訳くらい聞いてやろうじゃないの。


「話したら?」


『任せろって……。』


 あ、あれだ!父さんは親バカとかじゃなくてただのバカなんだ。


「えぇ……。」


『一個前の型だけど十分新しくて使えるし会社にあったのを持ってきたらしいよ。権力と立場は使ってなんぼ!だってさ。』


 救いようのない方のバカじゃねぇか!バカなの?ねぇバカなの?そういえばバカって結論だったな。

 

「やりすぎでは?てか普通にだめでしょ。」


『やりすぎなのはホントそう。持ち家にスタジオ作るのはともかく……うん。』


 やめて!これ以上はやめて!言葉濁すとか怖いから!


「ていうかこんな環境あったら企業に所属する必要なくない?それはいいの?」


 これは素朴な疑問。別に現実逃避的なサムシングじゃないし!


『それはお母さんも思ったからお父さんに聞いたんだけど……。しばらく葛藤した後に可愛いから良し!だってさ。なんか可哀想だからいっぱい構ってあげてね?それだけで復活すると思うからさ。あとなんか色々振り切れたみたいでお父さんがあおいドームって名前のスタジアム作ろうかとか言ってたから一応保留にしといたよ。』


 青いドーム?外装が青く塗られてるのかな?またまた〜そんなダサい名前で言い訳ないじゃん!冗談を言って笑わせようとしてるのかな?青い……あおい……碧……。父さんは親バカ……。は!まさか!


「いやいやいや!おかしいって!さっき言葉を濁してたのはこれか!却下だよ却下!なんでボクの名前なんだよ!先作るのは会社としてのだろうよ!なんで娘の名前使って暴走しようとしてるんだよ!」


『まぁ……うちの碧ちゃんは𝖵𝖾𝗋𝗒 𝖼𝗎𝗍𝖾だからね!』


「なんでそこで英語なんだよ!そして発音いいなぁおい!」


『昔住んでたからね。』


「サラッと新情報出すのやめて?もう情報過多でボクいっぱいいっぱいだから!」


 二度あることは三度ある。なら四度目もあったり……はしなくていいです。ほんとにやめて。


『碧ちゃんの天性のVTuber力、そして私作のガワ、最後にVTuber事務所社長であるお父さんの全力バックアップ……目指せ世界一ね!』


 フラグ回収ですね、ありがとうございました。どうぞお帰りください。


「え?社長?知らない知らない!お偉いさんとは聞いてたけど社長とか聞いてない!やめて?畳み掛けてこないで!」


『大丈夫……どんな事でもあなたなら乗り越えられるわ。だってあなたにはそれを可能にするだけの力がある。だから……安心して前だけを見て進みなさい。』


 え?ほんとに帰る?もう少し詳しく教えてくれても……。

 

「ちょいちょいちょい?なんかいい感じに〆ようとしてるけど無理だよ?ねぇ!」


『そろそろ唯ちゃんが来る頃かな。ちょっとした準備があるから行ってくるね。碧もやっとくことあるならやっときなさいね。』


 え?ダメ?そっか……。と言いつつもしょうがないなぁ的な感じで……。


「ねぇ!ねぇってばぁ!」


 あ、ないのね。そっか。そっか……。

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