第15話 追放と殺害の計画

 ダイアンの遺体が掘り起こされたのだ。血塗られた真相を、私たちの罪を白日のもとにさらして。


 公爵は危機一髪のところで逮捕をまぬがれたらしい。私はそっと胸を撫で下ろした。ダイアンの殺害は正当防衛だったのだ。それでも彼が無罪になるのかわからなかった。だって裁判の結果は、皇帝の意向次第なのだ。マックスが皇帝に好かれているとは思えない。公開稽古のときの衝突の仕方では、希望がなさそうではないか。


 もし裁判になったら、彼の無実を証言するつもりだった。あの場に居合わせたのは私だって同じだ。アルフレッドは私を死罪にすることなどできないだろう。


 部屋に帰るとお針子とドレスが置いてあった。紫水晶の飾られた見事なドレスである。


「アルフレッド様からエディス様に贈り物でございます」

 お針子が言った。


「まあ、きれいだわ!素敵ね。どうやってお礼したらよいのかしら……」

 うっとりとして言う。


「きっと陛下はお嬢様がそのドレスを着て美しい姿を見せれば喜んでくださいますよ」

 マルグリットはそう言った。


「そうかしら」

 ほんのりと微笑む。


 なんだか寒い。身を震わせて、両腕をだいた。


 宮廷の近くには、水の中の森がある。文字通り、水の中に木が生えているのだ。澄んだ水の中に、木々が浮いているみたい。神秘的な光景だ。


 森の入り口に行けば、船頭が小さな船に乗せてくれる。しばらくの間、一人で考え事をしたくて船に乗った。


 水のすれる音、鳥のさえずり、木の葉のさらさらという音。静かな場所だ。

 船から腕を垂らすと、水にふれた。ひんやりと冷たい。ハスの花が浮いていた。きれいな花だ。神秘的で、天から盗んできたものみたい。


 人声がした。遠くの音。低いが、緊迫感のあるもの。船はどんどん声のほうへ近づいてゆく。


 本能がこれ以上近づいてはいけない、と告げていた。だが船は止まらない。息を殺し、耳を澄ませていた。


「……僕はあなたの命令には従えない。公爵を追うなんて自殺行為だ!」

 部下の語気は荒い。


「私の命令ではない。皇帝の命令なんだ。もし皇帝に逆らったら、どうなるかわかっているだろ」

 年上のほうの男も容赦なかった。彼には自分の職務がわかっていた。仕事はたとえそれがどんなに気に食わないものでも、果たさなければならない。


「逮捕だけでなく、殺害までするなんて卑劣だ。皇帝は昔から公爵を殺すチャンスを待っていたんだ」

 部下の男が言い返す。


「皇帝には自分の義務がわかっているんだ。それに、皇帝が公爵の暗殺をのぞんでいた証拠などどこにもない。わかったなら仕事に戻れ!」

「皇帝が公爵を嫌っていることは、みんなが知っていることだ!」



 混乱していた。おぼつかない足取りで部屋に戻ってみたけれど、何をすればいいのかわからない。アルフレッドがマックスを殺そうとしているなんて!


 今になって、マックスを失うなんてことできない、とわかる。まだ彼のことが好きなのだ。愛してるのだ。

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