第14話 逮捕状

 皇帝とマクシミリアンは馬上でお互いを睨み合っていた。ゆっくりと剣を抜く。

 今や一触即発の状態だった。


「エディスに求婚するつもりだな」

 マックスが声を押し殺すようにして言う。


「そのつもりだ。君こそ、まだエディスと結婚できるチャンスがあると思っているのか」

 皇帝は馬を旋回させながら挑発した。


 崖の上の青い草の中、皆が二人を固唾を飲んで見守っている。皇帝とマクシミリアンの公開稽古なのだ。


 私だって気が気じゃなかった。二人の会話は聞こえなかったけれど、私のことで何か言い合っているのはわかる。落ち着かないのだ。二人が私のことでこんなにバチバチになるなんて。


「なるほど、陛下は私が怖いんだな。だから接近禁止令を出した。そうしたら、エディスが私のことを忘れてくれるだろう、と思っているんだろ」

 マックスもマックスで皇帝相手に遠慮しようとしない。


「君はエディスに疎まれてるんだ。知ってるだろ。エディスは私の求婚を受け入れるだろう」

「それはおかしい。まだエディスは私と婚約を解消していないが」


 マックスが攻撃をしかけた。剣と剣がぶつかり合う。火花の飛び散るような闘いだ。公爵は闘いに熱中していた。だんだん崖の方に追いやられているのにも気づかずに……


「マックス!後ろよ!落ちるわ!」

 私は思わず叫んだ……



 皇帝は書斎で不機嫌に貧乏ゆすりを続けている。マホガニーの机の上で文書を書くばかりで、私がその場にいないかのように振る舞った。


「私に怒っているのね。重大な事故を防いだっていう理由で」


「君は私に恥をかかせた!」

 アルフレッドが怒鳴る。


「違うわ。私はマクシミリアンに恥をかかせたのよ。婚約破棄して捨てようとしている男の命を助けてしまったの。あなたの妻になりたいとは思わないけれど、恋敵に殺させるような悪評もおいたくないって」

 彼に八つ当たりにされたままではいられなかったので、そう言い返した。


「そういうことじゃない。君の恐れようときたら、まるで奴に情が残っているようだった。あんな悲鳴をあげて。落馬した男に真っ先に駆け寄るなんて」


 情が残っていない方がおかしい。だって私は悪女なんかじゃないし、彼とはまだ婚約解消もしていないのだ。

 だが、そんなことアルフレッド相手に言っても仕方ない。まだ二日前の求婚のことで、彼に返事をしていないのだ。


「死人が出たら恐ろしいわ。それも名誉ある皇帝の公開稽古で。でもわかってちょうだい。私はあなたを尊敬して、愛してるの。将来の夫となる人を」


 アルフレッドが顔を上げた。目に強い歓喜の色が浮かんでいる。これでもう後戻りできなかった。


「本当か?じゃあ……」

「ええ、本当よ!お受けするわ」


 彼はマクシミリアンに婚約破棄の話をしてくれると言った。本当なら自分で伝えたかったのだけれど彼が許さなかったのだ。たしかに心の荷はおりたけど。



 まさかこんなことになると思わなかった。皇帝から公爵へ逮捕状が出されたのだ。容疑は公女の一人、つまりダイアン殺害だった。

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