第3話 安月さんの家

 あー...俺は安月さんの家に行くべきなのだろうか?


もし行かなかったら、今後、こんなチャンスは二度と来ないかもしれないし。

来たとしても、今のうちに経験して慣らしておいた方がいいだろう。


 それに、単純に女子の家が気になるのだ。

もうわかってると思うが、俺は今までの人生で一度も女子の家、ましてや部屋に入ったことはない。

女子の部屋には何が置いてあるのとか、そうゆうのが知りたい。


少なくとも、行った方がメリットは多いのは分かってるんだが...


 それに対する代償が多すぎる。

普通、女子の家に入ったことが無い人が、好きな女子の家に入って緊張しないわけねえだろ。


...まあ、やっぱ無理ってなったら風邪とか適当な理由付けて帰ればいいよな。

ていうか、女装できる度胸くらいはあんだし何とかなるっしょ。

ここは、男として行ってやんなきゃ。


「分かりました、行きますよ」

「わー!?ありがとうございますうう!」


「ちなみに慧さんの家ってここから歩いて何分くらいかかりますか?」

「私の家ですか?それなら20分くらいですかね!では行きましょう!」


実際に女子の近くにいるとかなり緊張するな...

この状態であと20分とか、耐えられるんか!?


「ちなみにひよりさんって上の名字は何て言うんですか?」


いや、普通に名字のこと忘れてた!

名前は同じ漢字で何とか行けたけど、元の名字だと流石にマズい!


「う、上の...?う、上野...?」

「上野って名字なんですね!」


間違っていっちまった!

まあ、上野って人は普通にいるし... 大丈夫だと思うけど...


「は、はいそうです」

「教えてくれてありがとうございます!」


それから、しばらく安月さんと俺との間に沈黙が続いた。

好きな子が真横にいるから、話す余裕なんてあるわけない。


 俺と安月さんの間に会話が生まれたのはそれから10分後。


「そういえば...ひよりさんと連絡先ってまだ交換してませんでしたよね。してもいいですかね?」

「いいですよ!むしろ大歓迎!」


名前は『陽葵』にしていたから、怪しまれることなく無事に交換できた。


そういえば、俺の本来の目的は名前を教え合い、連絡先を交換することだったんだ。


それなのに、家まで来てしまった。

ま、夜になったら帰ればいいし別にいいんだけど。



そうこうしている内に、ついに安月さんの家についてしまった。


「ここが、安月さんの家ですね!それではー...お邪魔しまーす!」


安月さんの家は、外見も中見も普通だった。

何も変哲もない家なのに...安月さんが生活してるって考えると顔が赤くなってきた。


「まずは、何をしますか?」

「まあ、何でもいいですけど...映画鑑賞とかですかね?」

「まあ、そんな感じでいいですかね。」

「分かりました!じゃあそこに座ってください!」


「どうゆうのがいいですかね?」

「なんでもいいです」

「分かりました!今見せますねー」


安月さんが色々操作をして、映画がテレビに映しだされた。


...始まったはいいけど...安月さん隣じゃねえか!?

全然内容入ってこねえわ。好きな人が隣とか、どう耐えればいいんだよ!?


「すみません、少しトイレに行ってきていいですか?」

「全然いいですよ~!」


トイレに行って一回頭を冷やすことにした。


(やべえ、無理そうだ。こんなんいくら命があったって足りねえ...)

(もう帰ったほうが...あー待って安月さんが使ってるって考えると無理無理無理)

(早く出なきゃ...あああ足が思うように動か)


その後、彼の意識は途絶えた。




「あれ...俺、何をしてたんだっけ」


起きた時には、五時を既に過ぎていた。

そうだ、確か、安月さんの家に行って、トイレに行ってたんだ。

そこからの記憶がないということは、失神していたということだ。


床には、一枚の文言が置いてあった。


『ひよりさんへ

この紙を見てるというのは起きているはずですよね!

熱が出ていたっぽいので、今市販薬を買ってきます。

くれぐれも体に負担がかかることはしないでくださいね!?』


安月さんにとって初めてあった人にも、気を遣ってくれるとは、なんて心優しき人なんだろう。


 そういえば...ここってもしかして安月さんの部屋か?


一人用の柔らかそうなベッド、置かれているぬいぐるみ、勉強机、おしゃれなライト...って、完全に女子の部屋じゃねええかあああ!?



自分でも体が物凄い勢いで熱くなっていくのが分かる。


「い"っ"っ"っ"て"」


焦っていたあまり、階段から物凄い勢いで転んでしまった。


熱のせいか動きすぎたせいかは分からないけど、物凄い倦怠感が体を襲ってきた。


もはや、考える気力さえなくなってきた。


そのまま、失神ではない眠りについた...


「..より...さん、ひよりさん」


次起きた時には、前に安月さんがいた。

「起きてください!」


「ああ...安月さん、帰ってきたんですね」

「!! 生きてて、本当に良かったです!」

「ひとまず、何があったかを説明してもらっても...」

「分かりました。」


「あの後、ひよりさんがトイレに行くってなったんですよ。」

「でも、その後20分くらい経っても帰って来なくて。」

「最初は、腹痛かなって思ってたんですけど、20分も帰ってこなくて、流石におかしいって思いまして。」

「それで、試しに声をかけたら、案の定帰って来なくて。」

「偶然、鍵がかかってなかったので入ったら、そこには倒れているひよりさんがいたんですよ!?流石にびっくりしましたよ。もし鍵がかかっていたら、入れなかったんですよ!?」

「体調が悪かったんなら、遠慮しないでどんどん言ってほしかったです」

「その後、ひよりさんを運んで私の部屋に連れて行ったんですよ。」

「そして、市販薬を買いに行ってきたんです。」


「そうなんですか。わざわざ、ありがとうございました。」


今日は嫌な日なのか良い日なのかは微妙だけど、やっぱり良い日って言うのが自分の中で勝ってる。なもう熱は治まったし、これ以上いると逆に悪化させてしまう気がするし、帰るとするか。


「私は、これ以上慧さんに迷惑をかけるわけにもいかないので、最後に市販薬を貰って帰っていっていいですか。」

「ダメです」

「え?」

「今日は私の家に泊っていってください。」

「ええええ?」

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