第2話

――――ColorS*は五人組

 メンバーにはそれぞれのイメージカラーがある。

 まず、向かって正面からの立ち位置の左端は高橋叶羽。イメージカラーは白。グループの最年長であり、長身で手足が長くスタイルが良い。顔立ちは面長の輪郭に、下三白眼と通った鼻筋に薄めの唇。イケメンだとは言い難いが、どんな衣装でも着こなせる。

 その叶羽の隣はリーダーの青柳結音。イメージカラーは青。子役出身でドラマ出演が一番多い。身長は一番小さいが顔立ちは最も整っている。綺麗な卵型の輪郭、切れ長の目と艶やかな黒い髪に長めの襟足。そして美しい歌声が特徴だ。

 向かって右端は橡木七星。イメージカラーは黒。叶羽の次に身長が高く、顔立ちも整っているが物静かなためあまり目立たない。結音と同じく子役出身のため、ドラマ出演本数は結音に次いで多い。色白の肌に飴色の髪と瞳、左の鎖骨にあるホクロが印象的。


その隣が苅安恭弥。イメージカラーは黄。左前髪のひと房を金色に染め、左のハチ部分から髪を編み込んでいる。丸顔にくっきりとした二重と、左耳たぶのホクロが印象的。老若男女問わず人気があり、バラエティー番組へ呼ばれることが多い。


 そして、センターがイメージカラー赤の中村茜音。音域が広く、肉声であっても一万人規模の会場であれば立見席にすら届くほどの声量がある。テレビで見るのとはまるで違う現場での歌声は激しく心臓を揺さぶられ、その大きな目と視線が合えば逸らすことすら思いつかない。

 目指す目標となった人物。

コンサートに参加してからというもの、少年は茜音が出演する番組をチェックするようになった。――母にお願いして、レコーダーの設定をしてもらった――のだが、ゲスト出演のドラマやVTR出演、過去に出演していたドラマも追えるものは全て追った。歌もダンスも演技も――場の空気を支配するようなオーラも、どれ一つとして他のメンバーの追従を許さないと少年は感じた。

 いつか隣に立ってみたいと、両親に頼み込んでダンススクールには通わせて貰えることになった。本当は他にもやりたい事は沢山あったが、月謝の問題もあったのでそこまで我儘を言える状態ではなかった。せめて、唯一通わせてくれたダンスだけは一番になりたいと必死に頑張ることにした。十歳になれば、茜音の所属する事務所のオーディションが受けられるようになる。それまでに、せめて同じスクールに通う誰よりもダンスを上手くなりたいと必死に打ち込んだ。

 幸い少年は素質があり、十歳を迎える頃には発表会でセンターを務めあげられる程に上達を果たした。


(――オーディション……受かるかな)


 誕生日を迎えたあと、事務所へ履歴書を送った。オーディションの日程は書類選考を通った人にのみ知らされるというのだが、応募総数も会場に呼ばれる人数も公表されていない。それでもダンスだけなら、茜音の隣に並べるだけの実力があると思えるようになった。


(今なら、茜音以外のメンバーにダンスで負ける気がしない…! 絶対、受かる…! 受かって、茜音と一緒に……!)


 茜音はセンスがあるだけでなく、努力を惜しまない人でもあった。

メンバー全員バク転は出来るが、茜音はその中でもアクロバットダンスが得意で、難易度の高いコークスクリューも出来る。ソロコーナーで初めて見たときの感動は言葉には表せないほどだ。元々ダンス経験のなかった茜音がデビュー後に習得したとMCで語っていた時、努力すれば出来るようになるのだと自身を奮い立たせることが出来た。

 そんな努力する茜音を見てきた――そして自身が成長した事もあり、他のメンバーに対する不満も感じるようになってきた。

特に歌とダンスが苦手だと公言している叶羽はデビュー当時から成長があまり見られない。年数を重ねソロパートが増えた為か音程の不安定さと抑揚のなさが伝わりやすくなった。


(……叶羽でもアイドルになれた。茜音の隣に立って歌うことも増えた。なら、俺だって)


叶羽と茜音が幼馴染だというのは周知の事実だ。茜音が叶羽をアイドル事務所に誘い、同じグループでデビューを果たした。叶羽がデビューできたのは茜音が『叶羽と一緒にデビューしたい』と言っていたからだというのも、叶羽自身が言っていたことだ。

元来、叶羽は音程を取ることが苦手だという。そして日を重ねるごとに茜音と叶羽の実力差は浮き彫りになってきた。デビュー当時はまだ幼く、幼馴染と離れることに不安と寂しさもあっただろうが、今となれば茜音も『幼馴染だから』で済む世界ではなくなっているはずだ。

 もし茜音の実力に並ぶ人物がオーディションに現れたなら、きっと茜音はそちらを選ぶはず――などと、子供らしい妄想をしていた一か月後に、オーディション通知が送られてきた。

 書類選考合格――オーディション会場と日程が記された封書が届いた時は両親も大喜びだった。


「まだ合格したわけじゃないけど、きっと――なら大丈夫!」


 母が笑顔で激励した。

 今までだって努力すればした分の成果が返ってきた。少年も、自分なら大丈夫だと信じて疑わなかった。大丈夫、問題はないはずだ。落ちる要素がない。

 少年は『絶対大丈夫』と自信を鼓舞した。


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