第1話 憧憬
母に連れて行かれたコンサートでの衝撃は今でも忘れられない。
鮮やかな赤色の衣装。茶に染めた髪の襟足には彼をイメージした赤のインナーカラー。
当時まだ十四歳の彼は、アイドルグループColorS*でデビューしたばかりの少年だった。
丸みのある幼い顔立ち、大きな丸い目にくっきりとした涙袋。太めの眉はきりっと上向きで、小さめの鼻に厚い唇。整っているかと言われれば、一般人の中にいれば整っているともいえるし、芸能人という枠組みに入れてしまえばよくある顔とも言えた。
それなのに、彼の歌声も、笑顔も、手を振る動作一つさえも、心に残って仕方がなかった。
◇
四月の第一日曜日。
会場へは母が片道二時間をかけて運転した。移動中は退屈だったし、開場時間になると『人が多くなる前に』と電子チケットを提示して中に入った。開場から開演までは一時間ほど間があり、早々に席に着いてしまうと何もすることがなくなって移動中の退屈が薄れる程だった。開演を待って、そこから更に二時間以上もこんな場所に居るなんて苦痛だと母に訴えていたのだが、いざ会場の灯りが落ちて歓声とペンライトの海のなか始まったコンサート。
『今日は来てくれてありがとう――――!! 忘れられない一日にするからみんな楽しんでいってね――――!!』
大きなモニターに映り叫ぶ少年に、感情の全てを奪われた二時間半だった。
夢心地の気分で開場を後にする。後ろ髪を引かれる思いで母の手をぎゅっと握る。
「ColorS*かっこよかったね~!」
気付いた母が満面の笑顔でそう言った。それが嬉しくて、首を大きく縦に振る。
「うん! すっごくかっこよかった!! 特に真ん中の赤い人がすっごくかっこよかった!」
「茜音くんか! 歌もダンスもかっこいいもんね~。お芝居も上手なんだよ」
「すごい! あかねくん、なんでも出来るんだね!」
帰路につく車の中で、元々ColorS*は同事務所の先輩グループの後ろで踊っていたのだと教えてくれた。母はその先輩グループのファンで、後輩がデビューコンサートをするというので記念に参加することにしたのだと言った。いつもコンサートは友人と参加していたのだが、今回は申し込み時に友人の都合がつかなかった。
けれど、メンバー全員がまだ中学生の若手グループがデビューするというので、せっかくなら息子に見せたいと思ったらしい。
行きの車の中でも教えてくれたようだが、その時は退屈が勝っていて頭に入っていなかったらしい。
はしゃぐ息子に、母は嬉しそうに笑った。席はスタンドのバックステージ側の五列目だった。まだ小学生になったばかりの息子を連れての参加ということで、スタンディング禁止のファミリー席でチケットを取っていた。毎回バックステージ側に設けられている席だが、一万人規模の会場でも席数は少ないため、抽選から漏れると一般席になってしまう。主に親子連れが優先される席だ。
女性ファンの多いグループの為、会場に居る男性はそれだけで目立つ。その上、まだ幼い息子は外周を通る時も目に入りやすかったようで、メンバー全員からファンサをして貰えたのもいい経験となっただろう。『楽しかったみたいでよかった』と笑う母に、息子も満面の笑みで返した。
――――あかねくんみたいになりたい!
漠然とした目標が、少年の中で生まれた瞬間でもあった。
後日、発売が決まったColorS*DebutTourDVDを彼は母にねだり、幾度も繰り返し見ることになる。
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