第3話 死神の子

「ねーぇ、会いに行く神様ってどんな人?」

車に揺られながら牡丹は白檀に尋ねた。彼女は村以外に外出したことが皆無故、見るものすべてに興味を示したが、唐突に飽きたのかこう聞いた。

「お優しい方だと聞いている。在位年数二十二年で、俺の二つ上」

「年齢差の話はしてない」

「それは失礼しました」

それきり口を閉ざしたふたりは運転手が到着と声をかけるまで何もしなかった。



話は変わるが、現人神達はそれぞれ離宮を有している。それぞれ内装は主を守る従者によって異なるが、だいたいの構成は同じである。

そして今、牡丹たち主従は命神の離宮にいた。牡丹の離宮はなんとなく派手だが、命神の離宮はモノクロ風だった。白黒でなんの派手さもない。

そんな離宮で付喪主従を迎えたのは、黒スーツに身を包んだ女性だった。

「あの、あなたが死神様?」

牡丹は萎縮しつつ尋ねた。

「…いいえ。わたくしは水城花蓮と申します、命神の従者です」

「従者さん…」

「それと、どうか主の前で死神、と言わないようにしていただけると…。彼女はその名を酷く嫌っておりますので」

声を潜めて花蓮は告げた。

「いつまでも外にいるのはいけませんね。入りましょうか」



離宮の中は見た目通りのモノクロだった。床が白なら壁は黒といった具合にとにかく白黒。その一角の扉を開けて、花蓮は応接室だと促した。

中に、黒髪の女性が佇んでいた。冷たき威圧を放ち、見るものすべてを拒絶するような氷の立ち姿。


「こちらが、我が国の四神の王、高葵有栖様でございます」

「付喪神の白鶴牡丹です」

「高葵有栖だ。女性の付喪神は久しいな」

おずおずと自己紹介をした牡丹は改めて有栖を見つめた。

艶のある腰に届く程の黒髪、純白の布地に金糸で彩られた和服。威厳を感じる佇まいの中にどこか子供っぽさもある、不思議な人だった。

「ふふ、何を警戒しているんだ。別にボクはキミを取って食うつもりはないよ」

柔らかな態度で接する有栖に緊張がほぐれたのか、顔を合わせて十数分もたった後には、ふたり楽しく女子会をしていた。

「でね、でね!ここの化粧水すごく肌にいいのよ!良かったら有栖様も使ってみて!」

「なるほど…。ボクは化粧に疎いから、そういうのは知らなかった。牡丹が言うならば使おうか。あとで取り寄せる」

牡丹は同じような責務を抱える女性が近くにいなかった影響か、有栖に懐いていた。

「有栖様…そろそろ」

花蓮が有栖に耳打ちすると、有栖はわざとらしく声音を変え告げた。

「そうだな。では、本題に入ろうか」

付喪主従は呆けていたが、命主従の顔つきにただならぬ何かを感じて黙った。




「おい、本当にここにあの方がいるんだろうな」

場所は変わり命神離宮から少し離れた山の麓。男は携帯端末片手に立っていた。

『ああ。十二時には屋敷を襲撃する。それまでにうまく彼女を離脱させろ』

「十二時って…もう一時間もないじゃないか!」

『なんだ不満か?』

電話口で命令する人間に男は暴言を浴びせた。

「不満に決まってるだろ!?俺が失敗すればあの方が傷を負ってしまう!それじゃ駄目なんだよ!」

『あーはいはい悪かったな。ただこれだけは知っておけ。私とお前は目的が違うんだよ。私はおまえの言うあの方がどうなろうと構わないし、あの糞女が死ねばそれでいいんだ』

「そうかよ!」

男は耐えきれず電話を切った。



『…悪夢の始まりだ、糞女』







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神様の旅噺 @sikineko-0827

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