第38話 つかの間の平穏②

……その後、一体どの面下げて空から戻ってきたショーエイはカンカンに怒っているマナと平然と合流し、都市の外れにあるギルド協会へ向かうが何食わぬ顔の彼と相当ご立腹な彼女――。


「……おい、もう二度とシェナにヘンなこと教えて弄ぶなよ……というかああいう下品な話はあたし達に対してやめろよ!今度またそういうことしたらキサマとは金輪際口を聞かないからな……………!!!!」


「へいへーい」


相変わらず反省している気持ちもない空返事をする彼に「ちょっとでも期待したあたしが馬鹿だった……」と感じたことだろう。


「いいじゃねえか、どうせあいつも男ができたら避けては通れない道なんだし今の内に興味と知識を持たせとけ♪︎」


「お前なあ……!!」


……にしても、あんな直接に、突発的に言われたら普通の人は当然、仰天するだろう。


「全く……キサマよくもシェナの純粋な心を汚しやがってえ………しかもよりによってあの場で……あの子があんなことを言い出した時、本当に心臓が止まりそうだったんだぞあたし達は!」


「別に俺は手ぇ出したワケじゃねえし。ただシェナにマ○コって言わせただけじゃねえか」


「おい、さりげなくこんな街中で堂々と言うなっ!!」


「クカカカカカカッ!!」


……もうこいつを彼女に近づけさせたくない、と言うか自分ももう関わりたくない、本気でそう感じたマナであった。


「あとレフィア、特にミルの前でそういう話は本当に御法度だぞ、絶対にやめてくれよなっ!!」


「はいはい、多分な――」


「…………………っ!」


「こいつ、絶対に守る気ないな……」と感じて彼女は今すぐでもこの場でショーエイを自分の炎で灰も残らず焼き尽くしてやりたいと思っていた、というか彼はレフィアにはすでに口走っているのをマナは知るはずもなく――そんなこんなで言い合ってしている間に都市の外れ、怪しく危険な雰囲気が立ち込めるオラフ区域の中心にあるギルド協会の建物に到着する。


中に入ると彼女が前に言っていた通り、ならず者や荒くれ者と思わせるガラの悪い、剣や斧、メイスなどの鈍器、そして鎧やまるで盗賊を思わせる黒装束に身を包んだ男達、そして少なからず女性もおり、どこかしこに居心地の悪い空気が充満している――。


「ショーエイ、分かっているだろうが絶対に揉め事は起こすなよ」


「分かってますよっと!」


二人、特にショーエイに対して見つめる多数の視線――「なんだこいつは?」と言わんばかりの目を細めた感じは間違いなく歓迎はしていないだろう。


「ちょっと待ってろ」


彼女は窓口に行き、コンコンと叩くと奥から受け付け係が現れて対面する。


「やあ、久しぶりだな」


「…………おや、誰かと思えばマナじゃないか、どうしたんだこんな場所に来て?」


「後ろのツレをここに登録したいんだ。もちろん魔物退治とかの戦闘関連専門でな――」


受け付け係はジッとショーエイを見ると「ふむっ」と相槌を打つ。


「その服装はともかく体格は確かに素晴らしい。しかしサンダイアルでは見たことのない男だ、彼の名前は、そしてどこ出身なんだ?」


「名前はショーエイ、レーヴェ出身だ」


彼女は咄嗟に嘘をついてそう答える。


「おい、なに言ってやが――」


「うるさい黙ってろ…………!」


ツッコもうとした彼を肘で小突いて制止した。


「レーヴェ……あんな辺境の街からねえ。そういえばケルベロスに襲われたって話だが大丈夫なのかい?」


「結構被害を受けたが今は既に復興隊を送ったから大丈夫だ。それに何を隠そう、実は彼がそのケルベロスを倒して街を守ってくれたんだ」


それを聞いた瞬間、周りの者が彼らへ注目する。ケルベロスは本来、完全武装した熟練の戦士が数人がかりでも手こずる相手。相応の実力者であるマナですら死にかけた程の強さを持つ魔物を倒したとなれば一目置かれるほどだ。


「……もしかしてあのケルベロスを一人で倒したのか?」


「ああ。だから実力的には申し分ない、寧ろ彼が強すぎて暇にならないか心配してしまうほどだ」


「そ、そんなに強いのか……?」


「ああ。だから登録したら懸賞金の高い難題な仕事を優先的にまわしてほしいんだが――」


――すると、


「おう兄ちゃん、そんなに強いなら一度俺達にその実力を見せてくんねえか?」


案の定、ここのギルドに属する力自慢な者達が彼女達の元にぞろぞろと集まり出す……。


「マナさんよお、疑うつもりはねえんだがケルベロスをたった一人で倒すような猛者はこれまでに一度も聞いたことがないんでね?アンタがそこまで太鼓判を押すのなら俺達に是非披露して見せてくれよ?」


「デマカセじゃねえのか」とか「胡散臭せえ」などの罵言が飛び交い収拾がつかなくなりそうな状況の中、ショーエイは頭をポリポリかきながら、


「なあマナ、こいつら全員叩きのめしていいか?」


と聞くとマナは「はあ……」とため息をつき、


「まあ分からせてやる分には今回ばかりは止めないが、絶対に殺すなよ――」


彼女から許可を貰うと彼は前に出る。すると相手側からはショーエイと同様の体格と筋肉を持つ屈強な男が前に現れる――。


「おう兄ちゃん、俺と力比べをしようや。勝ったら大人しく引き下がってやる」


と、指関節をポキポキ鳴らして拳を構えて戦闘態勢に入る男、一方ショーエイは棒立ちのまま左手を男の額に指を置き所謂『デコピン』の構えを取る。


「お前ごときこれで十分、いや死ぬかもな?」


一瞬、全員がポカーンと呆然となり静寂な空気になるがすぐに、


「ワハハハハハハハ!!なんだこいつ、おもしれえ奴だな!!」


「デコピンとか子供かよっ!!」


沢山のならず者の笑い声が協会内に響き渡る――そして男もヒイヒイ笑いながら。


「分かった、素直に受け止めてやるからホラ、早く放ってきな?」


完全に子供として見ているかのような油断しきっている様子だ。ショーエイは無表情のまま、


「ショーエイ……」


「こいつがいいっつったんだから何しても後から文句は言わねえよなあ?」


次の瞬間、彼の弾いた人差し指が彼の額に「ドォン!」と爆発音にも似た打撃音と衝撃波が拡散して男が凄まじいスピードで後ろへぶっ飛んで赤い煉瓦壁を容易く「バゴッ!!」と貫通して向かいの家の土塗りの壁すらも軽く突き抜けて一瞬で姿が見えなくなった。


「…………………は?」


「な、何が起きた……?」


先ほどの汚い笑い声や野次が一瞬で止まり、空気が一変する。するとショーエイはニヤニヤしながら、


「相当手加減したから安心しろ、あいつはまだ死んでねえ。まあ再起不能かもしれんがな?」


遥か先へぶっ飛んだ男は一向に戻ってくる気配はなく、数人の仲間が慌てて彼の容態を確かめに行った。

そして間を置かずにショーエイは男がぶっ飛んだ際に落とした、かなりの厚みのある重厚な幅広い剣(ブロードソード)の刃の右手でひょいと拾いあげて持ち、


《グシャッッ!!!》


グッと握りしめると指が斬れるどころかまるで紙のようにいとも容易く分厚い鋼鉄の刃を一瞬でぐしゃぐしゃにひしゃげてしまい、元の勇ましい剣が見る影もないただの鉄屑へと変えて床に落とす――。


「な、なんだこいつ…………剣刃をいとも簡単に握り潰しやがったぞ……っ」


「だんだんと彼の実力を目の当たりにして、先ほどまで笑い飛ばしていた彼らの顔から笑顔が消えて、額から冷や汗がタラリと流れていた……。


「ならこれならどうだ?」


近くにいた荒くれ者が携えてた棘付きメイスを瞬時に右手で奪うと掌中央から発射口が開き――。



【エミル・エズダ発動。目標物へプラズマエネルギーを放射――!】



無骨で重厚なメイスの刺々した丸い部分が「ジュッ……」と一瞬で粉々になり空中に塵が舞って、柄だけが手から落ちてカランと床に転がった……。


「……………………………」


「おう、これらみたいに今すぐにでもなりたい奴はいくらでも俺の前にこいや。ミンチにしてそこらへんの動物の餌にしてやるからよ――」


そういい、彼は堂々と前に出るも周りは戦意喪失したのか一向に誰も名乗り出なかった――するとマナは受け付け係に、


「ショーエイ、その辺でもうやめとけ。こんなワケでこいつの戦闘力に関しては他の奴より際立ってるのがよく分かったろ?」


「あ、ああ…………」


「なら登録の手続きを頼む――――」


◆ ◆ ◆


メンバー登録が無事に終わり、協会を後にするショーエイ達。


「数日後に登録が無事完了したらあたしの家にその旨の通知が来る。それからは自分で協会に赴いて何か仕事が入ったか受け付けに聞いてくれ」


「へいへい」


「お前の部門は競合が激しいからあいつらみたいに常に気の立った者が多い。くれぐれも面倒を起こすなよ」


先ほどの彼らを見るとショーエイに喧嘩を吹っ掛ける者はいなさそうであるが、当然彼を気に入らない者も沢山いるだろうしこれからも出てくるとを考えたら、ずっと穏便に済ませることはないだろう。


「ところでショーエイ、お前仕事で得た報酬金をどうするんだ?何か使いたいこととかないのか?」


「ねえな」


――即答だった。確かに彼は基本的に衣食住を必要としなければ金を使って遊ぶ趣味もないので完全に持ち腐れてしまう――すると彼女は。


「だったら……もしよければその報酬金をあたしに譲ってくれないか?」


と、意外にもそう頼み出るマナ。


「いいけど何に使うんだよ。お前そんなに金に困ってたっけ?」


「いや、私よりもシェナのために使ってやりたいんだ。あたしとロイスは基本的に自分の仕事の給料で事足りてるし、もしあの子が魔法学院に入ることになったら入学金やら学費に使おうかなってな。お前が嫌ならそれでもいいんだが――」


「まあどの道俺はいらんからお前の好きに使えや」


彼がそういうと彼女は、


「…………ありがとうな、ショーエイ」


と感謝を述べ、彼は「けっ」と無愛想に返した――すると。


「その代わりなんだがよ――」


「……その代わり?なんだ?」


すると彼はニヤリと笑み、こう切り出す。


「お前とロイスってどんなセックスしてんのかずっと気になっててな、是非教えてくれや」


「な…………………!?」


悪趣味すぎる質問をしつこく聞いてくる彼女は当然、顔を真っ赤にする。


「いいじゃねえか、答えたら大金を得られるんだから安いもんじゃねえか」


「答えられるワケないだろこのバカ野郎っ!!」


彼は軽く言うが、金をちらつかせてそんな尊厳を壊すような質問に彼女がペラペラと答えられるはずがない――。


「お前はなんでそんな下品な話ばっかりしてくるんだよ!恥ずかしいとは少しも思わないのか!?」


「おう、文句があるなら俺にそういう思考をするようにプログラミングした奴に言ってくれよ」


「………………………」


相変わらずの「自分は悪くない、そう造った奴が悪い」と言い張るショーエイであった。

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