●訣別編

第37話 つかの間の平穏①

――次の日。マナの家の居間にてロイスはシェナの初のご対面をする。


「シェナ、彼が前に話したあたしの婚約者のロイスだ」


「ロイス・エルミナティだ。君がシェナだね、これからもどうかよろしく――」


腰を低くして挨拶するロイスにシェナも腰を低くして、


「しぇ、シェナ・ミ・リンクリンです…………よろしくお願いいたします…………」


「緊張しなくていいよ、普通通りに話してくれればいいから」


彼女は緊張していてガチガチになってぎこちない挨拶をする――と言うのも、


(うわあ…………す、凄くカッコいい男の人……………ショーエイとは大違いだわ……マナさんはこういう人と結ばれたのか……いいなあ……)


彼女もロイスの美男ぶりにキラキラと羨望の眼差しを送るシェナに困惑するマナとロイス。


「と、とにかく今後の話があるから席についてくれ」


三人はテーブルにつくとロイスとマナはシェナに自分達の養子にならないか、そしてサンダイアルにある国立の魔法学院に入学しないかと聞いてみる。


「…………………………」


思ってもないことを提案されて困惑して複雑な表情の彼女。


「シェナ、嫌なら我慢せずに嫌と言っていいんだぞ」


すると――。


「……あたしとしては憧れのマナさんの家に住まわせてもらっているだけでもこれ以上にない満足感なのに更にそこまでしてもらって……本当にいいのかなと思いまして……」


気の毒そうにそう告げる彼女。


「そういうのは気にするな。あたし達はただシェナにこれから充実した生活を送れればと思ってな」


「マナさん……」


「マナから君についていろいろ話を聞いて相当辛い目にあったのは知っている。だから私としても君の力になりたいと、君とずっと仲良くなれればと、心からそう思っている」


「ロイスさん、あたし…………」


「まあいきなり今日、養子になるかどうかとか魔法学院に入りたいのか聞かれても困惑するだろうから今はまだ無理に答えなくてもいい――いきなり私達をお父さん、お母さんと呼ぶのは流石に抵抗があるだろうからな」


「…………………」


「ただこれだけは言える。あたし達はシェナを責任を持って大切に預かることは互いに同意しているからそこは安心してほしい――」


するとシェナはもじもじとしながら――。


「………もし本当にあたしでよければ……養子として迎えてください……!」


と、意外とすんなりそういう彼女にマナとロイスは呆気に取られる。


「シェナ、本当にいいのか……?別に焦ってもいないからよく充分考えた後でもいいんだぞ?」


「……あたしにはもう帰る場所も身寄りもいないですから。それにマナさんなら信用できますしあなたの養子になれるのならこれ程嬉しいことはないです……!」


すると彼女はロイスの方に視線を向けた。


「ロイスさんとは今日あったばかりでまだどういう人かも分からないですが……ただマナさんの旦那さんになられるということはマナさんはあなたを相当信頼しているということです――だから私はあなたとこれから仲良くなれるようにいっぱい接していきたいです!」


「シェナ…………」


「マナさん達がそう言ってくださるのなら私は何の迷いもありません。是非私を養子にしてください、何でも一生懸命に頑張りますから!」


彼女のその曇りなき眼とハキハキした発言に、二人は彼女の心意気を感じ取り、コクッと頷いた。


「……分かった。シェナ、これからあたし達は家族として頑張ろうな!」


「は、はいっ、ありがとうございますっ!!」


「私もよろしくなシェナ、私達に甘えたかったら遠慮せずに思う存分に甘えていいんだぞ」


「これからよろしくお願いいたします、ロイスさん……あ、これからお義父さんと呼ばないといけないのか、それにマナさんもお義母さんって――」


「抵抗があるなら無理にそう呼ばなくても普段通りに名前で呼んでくれていいよ。そういうのは本当に慣れてきてからのほうがいいと思うから」


「はい、すいません……けど早く二人と親密になれるように努めます!」


――めでたくシェナが二人の養子になることが決まり、新たな日の出を飾った。そして次は彼女が魔法学院に入学したいかどうかを話し合う。


「もし学院に入りたいのなら私が校長に話をしておこう。その上でまず戸籍登録をしてから入学手続きやらなんやら色々な手続きが必要となるが私達も手伝うから安心してほしい、シェナは入学したい気持ちはあるか?」


「確かに興味は凄くありますけど……私、学院というか学校とかそういう場所に通ったことがないんです。エニル村にはそういう場所がなかったですから……だから――」


つまり彼女は入学しても勉強についていけるかどうか、周りの学生達とちゃんと付き合っていけるかどうか心配しているのである――。


「もし心配なら一度見学に行くか?そこでどういう所なのか知るのもいいだろう。私はそこで講師として学生達に魔力を上げる鍛練や魔法を教えているし君を案内できる。

どの道、入学するにはさっき言った手続きを全て終わらせてからになるし今からだと…………最低でも半年間は待たねばならない、その間にこのサンダイアルでの生活に慣れておくといいだろう、その間に入学するかどうか決めておいてほしい」


「ロイスさん…………色々と本当にありがとうございます」


「シェナ、もう一度言うが私達に遠慮せず自分のやりたい事をすればいい。学院を入学したいかと聞いたのも君に充実した生活が送れるかもしれないと思ったからだ。努力次第で君の内に秘めた魔力を更に引き出せることができるし、一緒に切磋琢磨しながら頑張れるかけがえのない友達も沢山できるだろう。

だがもし学院に入りたくなくても私達はそれでも一向に構わない、君が望む道を選べばいい――」


するとロイスは一呼吸置いて、真剣な眼差しを彼女を見つめる。


「もしシェナが入学したいのなら私達は全力でサポートする。しかしその場合、私も講師として君を教える立場となるが私は君を義理の娘だからと言って絶対に贔屓はせず周りの生徒と同じく平等に扱う。時には厳しく接するだろう、だからそれだけは絶対に忘れないでおいてくれ」


「………………………」


鋭い視線が彼女に刺さり、ドキッとなるシェナだが、


「……大丈夫です、あたしだって立場に甘える気は全くありません!」


と、はっきりと申し上げると彼も再び優しい顔に戻る。


「とりあえず今はサンダイアルでの生活に慣れることから始めよう。私達もできるだけシェナと一緒にいたいが仕事上、正直多忙でなかなかスキンシップを図れないかもしれない。一応、家政婦のアンナさんにも面倒を見てもらうように頼んであるから寂しくなることはないはずだ――彼女とはどうだ?」


「アンナさんは本当に優しくて凄く物知りで分かりやすく教えてくれるし凄くいい人です!」


「彼女は学院の元教師だったしな、ロイスは確か教え子だったろ?」


「ああ、彼女には本当にお世話になったから凄く信頼できる人だ、だから安心してほしい」


アンナとロイスの関係を知り、ますます安心するシェナ。


「そうだ、近い内にアルビオンのみんなと顔を合わせてみるか?」


「アルビオンって確かマナさんの言っていた……」


「そうだ。みんな優しいし特にレフィアと歳が近いし面倒見のいいから仲良くなれるかもな――」


そうこうしている内に家のドアが開くと、ショーエイが「ようっ」と言いながら現れる。


「ショーエイ?どうした?」


「そういえば思い出したんだがマナに例のギルドの件どうするのか聞きに来たんだよ」


「ああ、そうだったな。今話してるからちょっと中で待っててくれ」


彼は「けっ、早くしろよ」と言いながら窓際のスペースに座り込む。それにしても彼にしてはやけに素直になって大人しく待っているが、これはもしかして成長の証か――するとロイスが、


「そういえばショーエイ、まだ正式な手続きはしていないが今日からシェナを養子として迎えることになったんだ、彼女をよろしくな」


すると彼は眉一つ動かさずこう言った。


「ほーん、良かったなシェナ」


――と。


「え……………………?」


当の本人はおろかそれを聞いたロイスとマナですら物凄くびっくりしているのかポカーンと呆然している。


「…………なんだよ?」


「い、いや…………まさかあのショーエイからそう言われるとは思ってなかったから…………」


「あ、ああ……………」


「大雨か大雪が降りそう……………っ」


そんな彼らにショーエイは「けっ!」と吐き捨ててそっぽを向いた――しかし明らかに彼が成長しているのかもしれないという望みが生まれ、困惑と嬉しさが混ざって何とも言えない気持ちのロイス達だった。


「………………………」


ずっと窓の外を眺めているショーエイの元にシェナがやってくる。


「ねえアンタ、どういう風の吹きまわし?」


「あ?」


「なんかやけに大人しいし、さっきと言い、なんか不気味なまでに今までのショーエイと違うみたい……どこか調子悪いの?」


少し心配している様子のシェナに対してショーエイは、


「別になんともねえよ」


と、ぶっきらぼうにそう答えた。すると彼女はショーエイに「フフッ」と軽く笑む。


「ショーエイらしくないけど……これからは少しずつそうやって良くなっていけるといいねっ」


「………………………」


するとショーエイも「へっ」と軽く笑み、彼女にこう言った。


「シェナ、実は頼みがあるんだが――」


「頼み?アンタからそういうなんて珍しいわね」


「まあちょっと耳を貸せ――――」


ゴニョゴニョと何かを伝えると彼女は、


「…………ロイスさん達にそう聞けばいいの?」


「ああ、お前にしかできない大役だ。頼んだぞ!」


彼女はコクリと頷き、直ぐ様彼女は二人の方へ向かい、


「あのう、ロイスさんとマナさん?」


「ん、どうしたシェナ?」



彼女の口から出た質問とは―――――。




「『マナさんとロイスさんて毎週何回オマ○コしてるのかって聞いてほしい』ってショーエイに言われたんですがこれどういう意味なんですか?」



…………それを聞いた瞬間、二人はまるで猛吹雪に曝されたようにカチンコチンに凍りつき、その場は一気に冷えきった――。

ちなみにその質問を考えた張本人はどこにもおらず、窓が全快に開いている……その後。




《あんのセクハラゲスヤロオオオッッッ!!!!!シェナになに吹き込んでんだあああああ!!!!!!》



怪獣のように怒り狂ったマナは長剣を抜いてなりふり構わず家から飛び出していき、そしてその場で踞り酷く落ち込むロイスの姿が……そんな二人を見たシェナは、


(え………え…………あ、あたし、なんか悪いことを言ったの……………?)


と、何の意味も知らずに爆弾発言して凄く困惑しあたふたしていた。そしてショーエイは――――。


「ギャハハハハハハハハハッッ!!!!バ~~~~~~~~~カ!!!!」


高度3000メートル上空で腹を抱えて爆笑していたのであった。

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