第36話 集結
――とりあえず無事に城に戻ったレフィアはロイス達アルビオンの面々、そしてショーエイとマナと共に直ちにカーマインの元に再開を果たす。レフィアは彼の前にすぐにひれ伏せ顔を下げた。
「おお、レフィア無事であったか!」
「陛下、ご心配をお掛けして誠に申し訳ありませんでした…………」
「今は命が助かっただけでもよしとしよう。とりあえず顔を上げて立って事の経緯をこの場の全員に説明してほしい」
彼女はセント・エリアス山での遭難の経緯を全て話した。
「私の油断が招いた結果です、懲罰を課するならなんなりと!」
「罰を与えるつもりはないが、これに懲りたらこれからはちゃんと修業やどこか出かける際は必ず誰かに行き先を伝えておくことを心がけるのだぞ」
「はっ、肝に命じておきます。陛下の慈悲深さに感謝いたします!」
「それにしてもあの前人未到のセント・エリアス山を踏破するとは恐れ入ったぞ。そなたの功績は後のテラリアの歴史にも名を刻むことだろう」
「これ以上にない有り難き幸せでございます!」
するとカーマインは今度はショーエイの方を見て、
「ショーエイよ、見事彼女をセント・エリアス山から見つけ出し、しかも無事に連れて帰ってきてくれたな。心から礼を言うぞ――!」
「礼はいらんが、まあ暇潰しになったしいいか」
「では約束どおり、そなたのここで働いた数々の狼藉は不問としよう、そして報酬は――」
「そんなもんはいらん」
「どうしてだ?私は相応の報酬を出すと約束したし、そなたには受け取る権利はあるぞ」
「俺には何の役にも立たないからな、お前らもし欲しけりゃ勝手に山分けしろや」
相変わらずのぶっきらぼうでそう告げて彼は全員から去っていく。それを見てマナは直ちに申し訳なさそうに、
「カーマイン王、もし不快になられたのなら申し訳ありません……」
「いや、確かに彼の性分を考えたらそうなるだろう。全員も私は別に気にしていないから大丈夫だぞ」
しかし彼のことをあまり知らないレフィアは当然、不快感を顕にする。
「な、何なんだあいつは……………!?無礼すぎにもほどがあるぞ、ちょっとあたしがあいつにガツンと言って連れ帰ってくる!」
ショーエイに文句を言いにいこうとする彼女にロイスが止める。
「いいんだレフィア。あいつはそういう奴だから――」
「だけど!!」
「ショーエイはそういうものを貰うよりも戦うこと、なにより破壊や殺戮するほうがいいんだろうな」
「………………」
「まあとにかく今はショーエイのことは放っておけばいい、とりあえず何もしないだろうからな。ところで、アルビオンが全員揃ったということで大事な話があるそうなのですが陛下――」
「うむ。実はな――――」
彼はロイス達にこれまで行方不明だった常闇の宝玉がショーエイによって発見されたこと、そして近々レヴ大陸が宝玉を狙って侵略してくる可能性が極めて高いことを伝えると全員の顔が一気に引き締まる。
「そなた達は直ちを各部下達にこの事を伝えて戦力を結集し、いつでもレヴ大陸の奴らが攻めてきても対処できるよう備えておいてくれ。マナはもう一度言うがレヴ大陸の動向を探って有用な情報を入り次第、随時報告してくれ。ただ向こうは相当な情報網を持っていると言っていたな、決して深追いして命の危険が迫る行為だけはやめてほしい」
《御意!》
「全員、常闇の宝玉をレヴ大陸に奪われることは即ちこの世界の終焉を意味する。決してそうなってはならぬことを心の中で刻んでおくようにな――」
――その後、マナとカーマインを残して解散してそれぞれの部署の詰所にいく途中、レフィアはロイス達からこれまでのショーエイに関すること、城内で起きたことを全て洗いざらいに聞かされると当然、信じれないような顔をする。
「……あいつ、セント・エリアス山で会った時から悪い意味でヤバい奴だと感じていたがそれ以上に危険な存在だったのか…………」
しかしセント・エリアス山の頂上まで一飛びできる能力やビークルへと変形、手を切り離して飛ばしたり自身の攻撃が全く通用しなかったところを考えると確かに辻褄が合う、彼女はそう思った。
「レヴ大陸にいい、ショーエイといい、テラリアの危機がこんな一気に襲いかかってくるとはな――」
「私達はレヴ大陸とショーエイと同時に戦うこととなるかもしれないという最悪の想定もしておくべきですわ。もしそうなればアルビオンですら対処できないかもしれません……」
それぞれに不安が立ち込める中、ロイスは――。
「みんな、それぞれの仕事をこなしつつ今の内に魔力を高めておいたほうがいい。向こうも攻めてくることもなくショーエイも心替わりして何もせずこのテラリアから去っていくことが一番の理想であるが……もしレヴ大陸が攻めてきた場合、ショーエイが全快したかどうかは関係なく何とか説得して一時的に共闘してレヴ大陸を撃破するという手もある。
上手くいけばあいつは意気揚々と一人で戦ってくれて恐らく圧勝するだろうから少なくとも脅威が一つ減るし、俺達はほとんど魔力や戦力の消耗のない展開ができる」
彼の考えに全員が「おお!」と感心する。
「なるほど。確かにそれはいい考えだがショーエイがその説得に応じるかどうかだな。もし失敗したらあいつの怒りを買って真っ先に俺達が狙われることになるかもな――そうなったらミルのさっき言った最悪の想定以上の悲劇になるぞ?」
「そうならないためにも俺はあいつと共闘できる形に持ち込めるようにこれから色々親身に接して信頼を築けるように努めてみる。みんなもショーエイを邪険に扱わず仲良くするよう心懸けてくれ」
全員が頷くがレフィアただ一人は納得していないように渋った顔だ。
「あたしは……無理かもしれない。ああいう礼儀もなにもしない、しようともしない下品で倫理観のない邪悪な奴を見ると本当に虫酸が走る……っ!」
「レフィア…………」
「いや、無理ならそれでも構わない。現に城内にショーエイに対して反感や拒否感を持っている者も多数いるだろう。更に陛下から直接罪の不問を言い渡されて尚更納得しきれない者もいるだろうし今後も沢山出てくることを予想すればこれは仕方ないことだ。彼に接触するのが大丈夫な者だけでいい。だからレフィア、決して気にするなよ」
「ロイス、すまん……っ」
「とりあえずみんな、今は陛下の言う通り我々は一丸となって必ずこのサンダイアルを、アルバーナ大陸を守り切るための準備に専念するんだ、いいな?」
全員がうんと力強く相槌をうった――そして彼らとそれぞれ別れた後、ロイスとレフィアが二人で話をする。
「にしてもレフィア、本当に無事で良かった」
「いやあ、ロイスのくれた薬のおかげで助かったよ。あと……まあショーエイのおかげかな……っ」
やはり彼に対して凄く不快感を顕にしているのがよく分かるニュアンスだ。
「レフィア……ショーエイと何があったのか?」
「……………………」
「答えたくないなら無理にして答えなくていいよ」
すると、
「……まああたしも悪い部分はある。うっかりあたしを襲ったトロールの仲間だと勘違いしてショーエイを攻撃したし、ただ……」
「ただ……?」
「あいつに頂上の崖から投げ飛ばされたり空中で散々振り回されたのはこの際まだ許せる。だが、あいつはロイスとマナに対してなんて言ったと思う?」
「さ、さあ……………」
少し言い渋った後、彼女は顔を真っ赤にしてこうボソッと言った。
「『あいつら毎晩セックスしてんのか』とかあたしには『早く男を作ってヤって子供作れ』とかニヤニヤしながら言いやがったんだよ…………!」
「え………………っ」
……正しくセクハラのそれを聞いた彼も流石にドン引きした。
「こんなこと言われてどう思う?」
「………………………………」
本当に返答に困り言葉が詰まるロイス。多分、本人はいつものおちょくるつもりで言ったのだろうが彼ら、特にマナからすれば不快感極まりないだろう。
「…………ま、まあショーエイらしいと言えばらしいがマナがそれを今聞いたら間違いなくぶちギレて一生あいつとは口聞かないだろうなあ…………」
「あたしとマナもそうだけど、もしミルもここにいて聞いたら間違いなく烈火の如く怒るぞ。ああいう下品な話は大嫌いだからな――――」
もしミルフィーネが今の話を聞いたら、「何と破廉恥な!女性を何だと思ってるんだ!」と怒り狂ったに違いない。まさにあの二人が今いなくて正解である――。
「――とりあえずレフィア、ショーエイはああいう奴だから本当に気にするなよ。それに無理して接しなくてもいいからな」
「ありがとうロイス。でも――」
「でも、なんだ?」
「あ、いや……なんでもない。あたしそろそろいくよ、ありがとうな」
と、そそくさと去っていくレフィアにポカーンとなるロイス。ちなみに彼女が言いたかったこととは――。
(……ロイスとマナってやっぱりそういうことを何回もしてるのかな……ってちょっと気になってたりして――――なに考えてんだあたし……!)
実は興味津々な彼女であった――。
◆ ◆ ◆
「フフ、アンタ達がショーエイちゃんを仲間に引き入れようとしてるけど残念、そうはいかないわ♪︎」
一方、レヴ大陸の王都バルフレアの地下。王直属の特殊任務部隊『ベルクラス』の会議場。中央の巨大な水晶型モニターを見つめる女性、ミディアは妖美な笑みを浮かべて今までのショーエイ達の行動を追って見ていた――。
「ショーエイちゃんはあたし達ベルクラスのモノよ?絶対にアタシの奴隷(ペット)にしてみせるんだから♪︎」
すると、画面が切り替わりそこに映し出されるのは……。
「とは言え、流石にアタシ自ら赴いても下手をすれば返り討ちにされかねない。だから――リィーン族のシェナちゃん?」
そこに映るは、マナの家でアンナから手ほどきを受けている彼女の姿が……。
「悪いけど近い内、ショーエイちゃんを誘き寄せるエサになってもらうわ。だから楽しみにしててね♪︎」
「キャハハハハハハ!!」とその下卑た甲高い高笑いが会議室に響き渡っていた……。
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