第35話 セント・エリアス山へ④

……ショーエイから、自分がセント・エリアス山で行方不明になっているかもしれないからロイスに頼まれてこんな危険な場所まで探しに来たと聞かされ、彼女はやはり申し訳なさそうな表情だ。


「――そうだったのか。あたしは早とちりをしてつい攻撃してしまった、本当にすまなかった……っ」


頭を下げるレフィアに対して彼は、


「けっ、俺に謝るくらいならあいつらに謝んな」


意外にショーエイらしくもないフォローを入れる。


「ちなみになんでお前はあんな雪の中に埋まってたんだ?」


「それは――――」


レフィア曰く、食料は現地調達しながらセント・エリアス山の過酷な登山の末に踏破という誰も成し遂げられなかった偉業を成し遂げて有頂天になっていた所、フロスト・トロールの群れの不意打ちに遭い、殴り飛ばされて崖から落下して雪の中に埋まったまま気を失ったという、所謂『若さ故の過ち』である。


「いやあ、まさかこの私がトロールごときに不意打ちをくらい、挙げ句に殴り飛ばされて遭難するとは……まだまだ未熟だな、もっと修行せねば――」


「で、これからどうすんだ?」


「目的は達成できたから勿論、一刻も早く帰って陛下とロイス達に無事を言わなければな――」


彼女は避雷針として使用したアルタイオスを拾い上げる。しかしあれほどの雷の直撃と大爆発をモロに受けたにも関わらず、焦げた煤がついているくらいで刃こぼれすらついておらず無事であったのは驚きだ。


「お前の槍、すごく頑丈なんだな」


「このアルタイオスは私達サラマンダーの故郷であるドゥオド山でしか取れない魔法鉱石『オリハルコン』に竜族の血を混ぜて造られているからちっとやそっとじゃ壊れないんだよ。しかしアンタに全く通用しないのは正直絶望したよ、しかも変な形の車になったり宙に浮いたりしてその身体は一体どうなってるんだよ?」


「俺は特殊形状記憶超合金『リベージュダース』製だからな。最低でも惑星破壊できるくらいの破壊力を持つ兵器がなけりゃあ倒せねえぐらいの頑丈さと沢山の可変形態を持っているんだよ」


「り、リベ……ダス?何それ……?」


「まあ頑丈さと柔軟性を併せ持つ身体ってことよ、それよりもさっさと帰るぞ」


「この高さから下山するのに流石にかなり時間がかかるが――?」


「だったらこうするんだよ!」


するとショーエイは突然、彼女を持ち上げる。


「な、何をする!?」


「一気に下まで降りるにはこうするしかないよなあ!」


次の瞬間、彼は「おぅるああああ!!」と掛け声と共に全力で彼女を崖から投げ飛ばして遥か地上まで急落下していった。


豪速球のように凄まじいスピードで弧を描き、クルクル回りながら「きゃあああああ!!!!」と乙女のような甲高い叫び声で落下していく――しかし、彼女の目の前には傾斜から突き出た尖った岩が待ち構えていた……。


衝突まであと数メートル迫った時――ブースターのジェット噴射で一気に追い付いたショーエイによって間一髪にお姫様のように抱き抱えられて串刺しになるのを免れた。


「はあ……はあ……っ」


初めてジェットコースターを乗ったような、死ぬ思いをして恐怖でブルブル震えている彼女は勇ましさを持ちながらもやはり年相応の女の子だと思わせる。


「どうだ、楽しかったろ?」


「お前はあたしを助けにきたんじゃないのか!死ぬかと思ったぞ!!」


「ワハハハハ!!」


危険な目に遭わせた張本人は反省するどころかニカッと笑うと彼女はカンカンに怒っている――。


サンダイアルの方向へゆっくり飛ぶショーエイに抱き抱えられているレフィアは彼をじっと見て、


「……そういえばアンタ、名前は?」


「俺はメルカーヴァ戦略機甲生体兵器XTU‐001だ」


「…………………は?なんだって?」


「まあショーエイって呼んでくれ」


「ショーエイ……か。しかしまああたしの攻撃は全く通用しないし空も翔べたりできて本当に凄いね――アンタは本当に人間なのか?」


「人間どころか生き物ですらねえな」


「……生き物じゃないとはどういうことだ?」


「イチから教えるのは面倒くせえからマナ達から聞いてもらってくれ」


「お前、マナも知っているのか?」


「そりゃあ今まで一緒に行動してきたんだからな、それも後であいつから聞いてくれや」


――するとレフィアはおもむろに彼に質問する。


「なあショーエイ、マナに婚約者いるの知ってるか?」


「婚約者?そういえばいるっつってたな、誰なんだ?」


「実はロイスがその婚約者なんだ」


「ロイスが?ふうん、そうなのか。まあお似合いじゃねえのか?」


と、興味なさそうに返すショーエイ。


「あんたってそういうのに興味ないのか?」


「ねえ」


――即答だった。


「レフィアにはそういう相手いないのか?」


「え、あたし……?それは……………っ」


もじもじと口ごもる彼女に察する――するとニヤニヤしながらこう言った。


「なあ、マナとロイスって毎晩ヤってるんかな?」 


「え、ヤってる……?」


「んなもんセックスに決まってんだろうが?」


次の瞬間、「バゴッ!!」と彼女の渾身の拳が彼の頬を捉えて鈍い音が響いた。


「何すんだてめえ!」


「な、何いってんだお前は!?よく恥ずかしげもなくそんなデリカシーのないことを堂々と言えるなあ!!」


「へっ、俺はそういう奴なんでな!お前も早く男見つけてズッコンバッコンヤって子供作るこった!クカカカカ!!」


「………………………」


……もしかして自分は色んな意味でとんでもなくヤバい奴に助けられたのかととてつもなく不安になるレフィア。


「なんかお前みたいな奴に助けられたことに凄く後悔してきたんだが……………」


「へっ、そうかい。ならもっとそう思わせてやろうか?」


次の瞬間、ブースターを最大噴射して超音速で先ほど見せたジグザグなUFO軌道と、空中回転やら木の葉落としやらロールやら様々なマニューバを組み合わせた、常人なら間違いなく耐えられない凄まじい空中機動の応酬を繰り出した……。


「ぎゃあああああ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬヤメロヤメロヤメロオオオオオオオオ!!」


「クカカカカカカカッッ!!!!」


すでに涙目になっている彼女とその悪意に満ちた笑顔をするショーエイであった。


◆ ◆ ◆


「おう、無事に連れて帰ってきたぜ」


そしてサンダイアル城に戻ったショーエイは無事、レフィアを連れてマナ達四人の元に戻ってくる。


「ショーエイ、本当に感謝するぞ!」


「レフィア、大丈夫だったか……………ん?」


笑顔で迎えようと思ったが何故かレフィアの顔が顔面蒼白で老けたようになっており、ヨロヨロと千鳥足になりながらマナ達の元に行くなり、


「オエエエエエエエエ!!!」


その場で盛大に吐いてしまい、ショーエイ以外の全員が「ぎゃあああ!!」とパニックになった。それを見ながらニヤニヤしている彼に対してマナは「まさか」と思い、


「お前、彼女に一体何したんだ!?」


「別に?ただ帰りは仲良く素敵な素敵なフライトをして帰ってきただけよ、ワハハハハ!!」


それを聞いた彼女は帰りに何をされたのか察してドン引きしたのであった――。

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