第34話 セント・エリアス山へ③
テラリアの空を覆い尽くす亜光速ミサイルの爆発がおさまった後、頂上は焦土とかしており当然トロール達は全て塵一つなく消し飛んでおりそれだけの破壊力と衝撃が凄まじかったことを物語っている。そして発射元のショーエイは何の傷一つついておらずニヤリ顔で仁王立ちしていた。
「ミサイル全弾使っちまったがまあいいか!さてと、レフィアを探しにいくか」
彼女の物と思われる槍をとりあえず地面にグサッと突き立てると直ぐ様、頂上からぴょんと飛び降りて生体反応ソナーの示した標高9100メートル付近まで一気に落下する。10000メートルを切った辺りからやはり猛烈な猛吹雪に見舞われているが彼は全く影響を受けずに落ちていく――。
「この辺りだが……雪ばっかで何もねえな」
示した場所に到着するもレフィアどころか生き物の姿はどこにもない。
「――てことは雪ん中か」
彼は透視スキャンモードをして雪の中を調べる、すると――。
(お、死にかけてる奴がいるな。あいつがレフィアだな?)
地上から10メートル下の雪の中で埋もれてまま倒れている女性を発見するショーエイ。しかもミルフィーネの言っていた特徴が全て一致しているのが確認できる。
彼はグラストラ核融合炉の出力を上げて同時に凄まじく熱量を体外に放射しながら雪の中に突撃して雪を融かしながら下へ降りていく。
(奴の足が見えた――)
ついに倒れている人物の元にたどり着き、雪から身体を起こしてやると、すぐに持ち上げてそのまま地上へ飛び出してそのまま頂上に戻り降り立つと彼女を雑に下ろして寝かしつけて確認する。
――ミルフィーネの言っていた通り、皮膚はまるで恐竜のような固い鱗で覆われているがそれ以外はリンカ族にほとんど同じで、シェナ達リィーン族とかなり酷似している。
所謂ドレッドヘアーと呼ばれる束ねられた黒髪と、顔は見る限りシェナとほぼ同年代とも思えるぐらいの若さである。
そしてなんと言ってもその服装で白いヴェールのような凄い薄い布を纒い、その下はなんと白のビキニブラ、パンツ、皮のブーツだけという、同じビキニでもパンツの上に装甲をつけて胸やアーマーや肩と肘にプロテクターを着用していたマナ以上に露出度の高くほぼ全裸に近い。
そして幼児体型のシェナとは違い、ちゃんとふくよかな胸といい具合の腰の括れはその服装と相まって凄まじくセクシーに感じさせられる。ただその格好でこの魔の山を登りきった彼女は一体何者なのだろうかと思えるほどだ。
しかし彼女は顔色が悪くぐったりとしており、息も絶え絶えでエニル村にてゴブリンの毒を食らったマナのように虫の息になっているのは誰からの目を見ても明らかだ。
(生体反応が消えかかってるな。ロイスからもらった例の薬を飲ませるか――)
銀色の胸のアーマー中央の収納スペースに放り込んだ袋を取り出し、中を開くとビー玉サイズの黒い丸薬が2個入っていたので、一個取り出して、彼女の口を強引にこじ開けて丸薬を放り込んだ――。ゴクンと飲み込み、約1分ほど待つと即効性なのか顔色も急に良くなっていく――。
(お、生体反応が活性化した。もう一個飲ませてみるか!)
続けてもう一つ取り出して彼女の口に無理やり押し込み飲ませる。
「ほら、起きろ!」
彼女の頬をペチペチ叩くと、丸薬のあまりの効能ぶりに全快……いや滋養効果があると言っていたのでその興奮からか目をカッと開いて飛び起き、反射からか咄嗟にとんぼ返りをして後退する。
「………………?」
「おお、やっと起きたか」
彼女は状況が理解できないのか、挙動不審のようにキョロキョロしているも束の間、
「……貴様、何奴だ!」
彼を魔物かなにかと勘違いしているのか敵意を剥き出して彼を睨みつけている。
「あたしを頂上から落とした魔物の仲間だな、覚悟しろ!」
……やはり勘違いしているようだが、彼は弁解する素振りも見せず無表情で彼女を見ている。
「どうした、かかってこい。あの時は油断したが今度はそうはいかないぞ!」
ぐっと構え戦闘態勢に入る彼女に彼は先ほど突き立てた槍を引き抜き、彼女の前に放り込んだ。
「で、お前がレフィアって奴か?」
そうすると、彼女は「えっ?」と驚く。
「な、なんで私の名前を知ってる!?」
「さあ、なんでだろうな?」
意地悪に仄めかすショーエイは指でクイクイと彼女へ挑発をし出す。
「さあこいよ。お前、よほど自信があるみたいだな。どれほどの強さを見てみたいんだが――?」
「は…………?」
「どうした、戦うんだろ?早く来いよ、怖じけついてるのか?なあ?」
神経を逆撫でするような鼻の抜けた声で挑発をかましてくるショーエイに彼女は「なんだこいつ……?」と思いながらも売られた喧嘩は買う主義であり、目の前の槍を拾い上げてぐっと構える。
「……何者かは知らないがそんなにあたしにやられたいのなら喜んでこのアルタイオスの錆びにしてくれる!あたしはサンダイアルを守護するアルビオンの1人、レフィアだ!」
レフィア・アルフィ・オストラヴァ。アルビオン最後の一人で、サンダイアルの南側を守護するセイヴン部隊隊長を務める通称、『豪雷の竜人姫』。アルビオンで弱冠19歳の最年少でありながらその戦闘力はメンバー内最強を誇るサラマンダーの女性である――。
「行くぞ!」
名乗りを上げて先手を取り仕掛けたのはレフィア、その瞬足で一気に距離を詰めこみ身体を貫通させようと素早く槍を全力で腹部目掛けて突き刺す。が、
「!?」
分厚い金属に突いたような強い衝撃が槍の柄を伝って手がジーンと痺れてしまい案の定、槍の刃は少しも彼の身体を貫くことはなかった――。
(な、なんだこいつの身体は……!)
図体はでかく見たことのない服装を着ている以外は外見は人間と変わらないように見えるが、あのゴーレムですら容易く貫通するこの鋭利な黄金刃が全く立たないのは明らかにおかしい。
「どうした、まさか当てが外れたのか?」
「……まだだ!!」
軽いフットワークで横に素早くステップしてすぐに高く飛び上がると「てええい!!」とキレのあるソバットを繰り出してショーエイの顔目掛けて振り込む。彼の頬に踵が見事に直撃して「バキ!」と、鈍い打撃音が響くも彼は痛がる様子もなくただニヤニヤと笑っている。
「ほう、俺じゃなくただの人間なら骨ごと粉砕してるレベルなんだがなあ、俺じゃなければな?」
「……………!」
彼女は再び飛び上がり、槍を振り上げて彼の脳天目掛けて振り下ろす。しかし咄嗟に刃を受け止められてしまう。
「おい、芸がねえぞ。お前はあの時のゴブリンか?」
「甘い!」
彼女は槍を放すと右手を天に突き上げ、
「リラルク・ラルルク・サンガレーア!雷神よ、悪しき者に裁きの雷を!」
「ん?」
すると突然、快晴だった天が暗くなり二人の真天井から雷鳴が鳴り響き、
「焼け焦げろ化け物!!」
《大落雷(ライトニング・ボルト)!!》
上げた右手を彼へ振り下ろすと槍が避雷針代わりになり彼の真上から《ズドォオオオ!》と轟音と共に落雷し――地上からでも確認できるほど大爆発が巻き起こる。
ちなみにサンダイアルでも当然、亜光速ミサイルの爆発も今起きている光景も全て見られており、マナ達は城の砦から「あいつ一体なにやってんだ!?」と心配していた。
彼女はバク転で後退しかろうじて爆発から逃れると「どうだ!」と啖呵を切る。それにしてもこんな空気の薄く凍える寒さの場所を難なく動けるのは彼女は本当に強靭な身体であることを物語っている。
「流石の奴も至近距離であたしの雷を食らえばただじゃ済まないはず…………ん?」
爆発の煙が治まり中心を注目すると、そこには――。
「よう、手品は終わりか?」
「!?」
そこには一切傷一つも焼け焦げてない、相変わらず無事にニヤニヤしている彼の姿が現れる。
「雷の直撃を受けたのに……なんで……?」
流石のレフィアも唖然としている。
「残念だったな!」
一方の彼も反撃開始と言わんばかりに腕をブンブン振り回している。
「さあて、なら俺も攻めるかな」
彼はその場で身体を折り畳みビークル形態になり、一気に加速して彼女目掛けて突撃した。
「う、うわあっ!?」
彼女は咄嗟に避けると彼はスピードを緩めずそのまま崖から遥か奈落へ落下していった。「ええ……っ」と狼狽する彼女は急いで崖の下を覗くと、
「!?」
人間形態に戻り、全身のブースターを噴かしながら瞬時に頂上まで戻ってくるショーエイ。
「浮いてる………っ」
「ほれ、さっきみたいに雷を当ててみろよ」
「な、ナメるなあ!!」
レフィアは右手にバチバチと電気が迸るバスケットボールほどの電光球を形成し、それを頭上に掲げる。
「はああああっ!!」
彼女を中心とした一帯に稲妻を拡散させるも彼は直ぐ様上に急発進し回避する。
「音速を越えた空中ショーを見せてやらあ!」
ブースターを駆使した急制動、急発進、急旋回を駆使しまるで『UFO』を彷彿とさせる幾科学的な空中機動で撹乱するショーエイに彼女はあたふたしている。
「さて、茶番はここまでにしてっと――!」
急停止し、右手を彼女に向けて突き出すとなんと右手そのものがポロッと腕から離れるとブースター推進で発射され、猛スピードで彼女の首に飛び込みぐっと掴んだ。
「ぐあ!!」
握力をさらに強めてレフィアの首を締め上げる――。
(な、なんだこいつは……!!)
すぐに抜け出そうと力いっぱい引き外そうとするが彼の握力が尋常ではなく全然抜け出せない。
「おいレフィア、ロイス達がお前の帰りを待ってるんだが死にたけりゃ俺は別に構わんぞ、そのまま絞め殺してやる」
「…………え、ロイス達が?お前、彼らのことを知っているのか?」
「おうよ!」
彼の右手はやっと彼女の首を離し、そのまま逆噴射で彼の腕に戻り、「ガシャ!!」と連結した。
「どうする?俺の話を聞くか、魔物と勘違いしたまままだ戦うか?」
「…………分かった、話を聞くから!」
「分かればよろしい、クカカカカ!」
彼の高笑う声がこの10200メートルという風もなにもない無音の領域に響き渡った――。
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