第33話 セント・エリアス山へ②

――会議室ではマナとロイスの二人だけ残り、シェナについての話をするとやはり彼も深刻そうな顔をしている。


「あのリィーン族がまさか全滅するとは……しかもあのゴブリンによって――」


「幸いにもシェナを保護できたのと、偶然とはいえショーエイが大陸中のゴブリンを全て殲滅したらしいから今後は奴らの脅威はなくなったのは幸いだが……それでもあたしは彼らを守り抜くことはできなかった……」


やはりまだ悔いており表情を落としてしまうマナだった――。


「……気持ちは分かるがそう落ち込むな。遅かれ早かれそうなっていたのかもしれないからこれはマナのせいじゃない。寧ろリィーン族のために最後まで諦めずにはよく頑張ったと思うぞ」


「…………………」


彼なりにフォローを入れるもその複雑な表情をしている。


「しかしそのシェナという子は今どこに?」


「あの子は外界に旅に出たいという気持ちが前々から強くて、あと村長の頼みとか色々あってエニル村からずっと引き連れてあたしの家に連れてきた。今頃アンナから色々教えてもらっているだろうね――」


「――そうか。シェナをこれからどうするつもりだ」


「それなんだが……シェナはあたしに凄く懐いているし、村を滅ぼされたのにも関わらず気丈に振る舞って、ショーエイ相手にも強気で叱れるしっかり者で強い子だ。

それに彼女は水神様の加護で強力な治癒魔法も使えるし水属性使いとしての才能もあると思う――もしあの子が望むなら養子として迎えてやりたいと思っているんだがロイス、あんたはどう思う?」


聞くと彼は平然と、


「俺もマナがそうしたいのなら一向に構わない。寧ろそういう事情があるなら彼女の助けになろう――」


そう答えると彼女も表情が柔らかくなり、


「ロイス……本当にありがとうっ」


「お前は1人じゃないんだからな、自分だけで抱え込もうとするなよ」


「……すまん」


とりあえず彼からの許可をもらい、一安心するマナ。


「ただ問題はあたし達は暇じゃないからシェナにあまり構ってやれないところだ。ずっと1人、家に居させるのもかわいそうだし友達でもできたらないいなと思ってるが……」


するとロイスは、


「なら、彼女を国立の魔法学院に入学させるか?」


――そう提案した。


「私も講師として授業に出るし、校長とも仲が良いからもしシェナが学院に入りたいと言うなら話をしておこう。彼女にも友達も出来るし、努力すれば魔法も上達するし、凄く充実した生活になると思うが」


「分かった。あの子に聞いておくよ。ロイス、本当にすまないな――」


「気にするな、彼女とは一旦落ち着いたら会って話をしよう。今はとりあえずもうレフィアの無事を祈るのみだな」


「ショーエイの奴、彼女を見つけられずにイラついて山を吹き飛ばしたりしなければいいんだがな……」


「それで思ったが、ショーエイってそれほどまでに強いのか?確かに多人数の衛兵達を簡単に蹴散らしたりその見た目といい、絶対的な自信といい、先ほどの車に姿を変える能力といい、ただ者じゃないのは分かるんだが――」


「あたしもあいつの全てを知るわけじゃないからなんともいえない憶測の域だが……アルビオンとあたしも加勢して束になってかかっても恐らく返り討ちにされる可能性が物凄く高い――」


「…………………」


「あいつに対抗できるとしたら……伝説の竜(ドラゴン)、神々か邪神ぐらいしかいないだろうね――」


彼女はそう答えた――。


◆ ◆ ◆


ここは大陸中央に堂々と立ち構えるテラリア最大のセント・エリアス山。標高約10200メートルというレヴ大陸のドゥオド山よりも更に高く人々は『天界に最も近い場所』や『冥界への階段』と恐れられている。山脈からアルドア山にも連なっており、6000メートルを越えた辺りから常に強烈な猛吹雪が吹き荒れて視界が全く見えず、更にその高地にしか住まないが凶暴なフロスト・トロールなどの魔物もひしめく魔境であり、足を踏み込んだ者は1人として帰ってきていないほどだ。


「さてと、ついたか――にしてもいきなり吹雪いてきやがってよお」


ショーエイは今いる位置は標高8000メートル付近、猛吹雪で四方八方が真っ白の極寒地獄であるが彼にはどんな環境でも視界を明確に映す超高性能のスキャン機能を持つその眼は山の全貌をはっきりと捉えている。

ちなみにこんな極寒で彼はフリーズしないのかと言えば、彼の動力炉であるグラストラ核融合炉の出力を上げて、その凄まじい熱量を帯びているため無事である。


「レフィアって野郎の生体反応は……」


山全体に生体反応ソナーを当ててみるも魔物や野生動物も含まれているせいか、かなり反応がごちゃごちゃとしている。


「まあそうなるわな――」


万が一、レフィアが死んでいたら当然、生体反応は感知されないのでそうなるといくら彼とて探し出すのは至難である。


(一応、ミルフィーネって狼女がレフィアの特徴を言ってたな――)


城から出る際に見送りにきた彼女から、


『レフィアは普段通りの姿で修行に行かれたのなら、彼女は踊り子のような露出の高い服装で肌は灰色の鱗で覆われていて束ねられた黒い髪が特徴です。

あと彼女は常に『アルタイオス』と言う名の金色の槍を携行しています。もし彼女がいなくてもそのアルタイオスを見つけることが出来れば彼女も山に、それも近くにいるということですわ』


と、教えてもらっていた。しかしこんな悪天候の中、彼女の言う例の服装で本当に来たのであれば間違いなく馬鹿としか言いようがない。


「とりあえず頂上に行ってみるか――」


彼は直ぐ様、ブースターを使って頂上へひとっ飛びする。すると吹雪が止んでカラリと晴天であり、そこからの眺めはまさに天国と言わんばかりに壮大な絶景となっている――。


「来たのはいいが、生き物一匹といねえな……ん?」


ふと尖りの頂上付近に何かが突き刺さっているのが見える。彼は近づくとそこには太陽光でキラキラと黄金に輝く何かの細長い柄を発見し、引き抜くとまるで矛のような形の黄金刃が現れる。


(これがあいつの言ってたアルタイオスって槍か。てことは――)


槍がここにあるということはレフィアは見事、頂上に登ったのは確定である。しかし彼女の姿は頂上付近にはどこにもいない――ということはここから落ちたかそれとも……。


彼は直ぐ様生体反応ソナーを標高8000メートルから頂上までの区間に絞り込み確認する。すると、


(……標高9100メートル付近に消えかかった反応があるな、まさか――?)


この反応を頼りに彼はとりあえずそこに向かおうとする――が。


「……あ?」


気づいたら彼の周りに集まる謎の生物達、それは霊長類のような二足歩行で真っ白い体毛で覆われており、身長はショーエイよりも僅かに大きいそれはまさに伝説の『雪男』の出で立ちである。

まるで鬼のような面構えで「グルルル……!」と知性のなさそうに牙を剥き出してショーエイに対して敵意を向けている――奴らはフロスト・トロールと呼ばれる魔物である。


そんなトロールが約20匹、この狭い場所に集まり彼を囲んでいる。


「早速きやがったな。お出迎えご苦労なこった!」


ショーエイは仁王立ちのまま、戦うというような構えを全くしない――。


「十秒だけチャンスをやろう、何でもしていいぞ」


人差し指をクイクイと上げてトロールへ挑発する。


「俺を食いたいんなら好きにしろ。味は放射能とプラズマのスパイス入り機械肉だぜ?」


それに反応し、トロール達は「ギャアアア!!」と雄叫びを上げて一斉に飛びかかり、ショーエイを覆い尽くしてしまう――その十秒後。


「はい時間切れ~~~~っ!」


「!?」


次の瞬間、覆い被ってトロール達の身体から200発の金色の火線……ショーエイの体内に搭載された残りの亜光速ミサイルを全弾ぶっ放しハリネズミの如く全方位に広がるように貫いて遥か空へ突き抜けていき、その数秒後――。


「た~~まや~~!!」


この時、アルバーナ大陸全域からまるで太陽が爆発したかのような凄まじい眩しさは世界の破滅を連想させる光景が見えたことだろう――。

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