第32話 セント・エリアス山へ①

「特別房で大人しくしていれば何の心配もなく過ごせていたものを……貴様という奴は……!」


「へっ、俺はあんな檻の中でくすぶってるほうがよっほど苦痛だからな!」


王様という身分に関係なく反抗的な態度を貫くショーエイにその場の全員が内心穏やかではいられなくなる。


「それだけではあきたらず、我が城の罪なき衛兵達を惨たらしく殺しおって……っ!」


「俺に歯向かう奴は全て敵じゃ!」


「……………」


そのカーマインの表情から腹が煮えくり返るような気持ちなのは誰の目から見ても明らかである。まあ当然であるが――。


「……今すぐにでも貴様を死刑にしてやりたい気持ちだが、一応、釈明の余地があるか知りたいので暴挙に出た理由を聞きたい――」


するとマナは「私から彼について説明させてください!」と名乗り出る。


「マナよ、どうしてそなたが?」


「彼は特殊な事情の持ち主なのでこの際、一から説明したほうが良いかと――」


と、彼女は全てを洗いざらいに話す。一方で彼は眉一つ動かさず。


「なるほど……まことに信じられない話であるが、マナがそう言うのなら本当なのだろうな。しかしだからと言って許さることではないのも確かだ、寧ろショーエイがそんなに危険な存在なら尚更野放しにはできん――!」


するとロイスも口を開き――、


「彼に関しては私達アルビオンが対処します、ただレフィアだけ不在で、それどころか今現在行方不明のようです」


「……彼女の居場所は誰も分からないのか?」


「一応、セント・エリアス山へ1人、修行に向かったかもしれないという手がかりがありますが確証はありません」


「セント・エリアス山か……あの山は『天界に最も近い場所』と呼ばれる大魔境。あんな場所にまさか1人でいったのか……なんと無謀か」


カーマインは腕比べをして黙り込み、しばらくして何か閃いたのか厳格な顔でショーエイに向けてこう言った。


「ショーエイよ。そなたは直ちにセント・エリアス山へ向かいサンダイアルの精鋭部隊、アルビオンの1人であるレフィア君を探しにいってはくれまいか?」


王からの彼への頼みを聞いた全員がざわざわし出した。


「なんで俺がいかなきゃならねえんだ?俺はそんな身も知らねえ奴を助けるような義理も人情もねえぞ」


「セント・エリアス山は未だに誰も踏破したことのない恐ろしい山だ。アルビオンの面々でも恐らく厳しいだろうが、そなたなら正直余裕だろう。話を聞く限り、数々の星を渡り歩き、世界を破壊できるほどの力を持っているのならな」


「……まあ、確かにな」


「ではそなたが一番適任というわけだ。もし彼女を無事に連れて帰ることができればそなたの罪を不問とし相応の報酬を授けよう。断るなら即刻処刑、または国外永久追放だ」


ショーエイは「へっ!」と笑い返す。


「ほう、ずいぶんと強気な姿勢だな。この俺に対してそんなことが本当にできると思ってんのか?」


「やってやるとも。私とてただ王座でふんぞり返っているわけじゃないからな、また暴れるなら全力で止めてみせよう。たとえ私がやられようと彼らアルビオンが返り討ちにしてくれるだろう。だがそなたも今はまだそういう時ではないのだろう?」


「…………」


「ここは互いに協力しあったほうが良いと思うが――それにそなたはマナのボディガードだろ?彼女をこれ以上困らせるな」


ショーエイは目を瞑り、黙り込む――しばらくして、


「……そのレフィアって奴を探し出せたとしてもそいつが生きてる保障はねえがそれでもいいか?」


「願わくば無事であってほしいが最悪の事態も勿論想定していないわけじゃない、そういう場合は致し方ない。せめてもの彼女の遺体だけはこちらへ戻ってきてほしいと思うばかりだ――」


それを聞いて彼はため息をついて、


「しゃあねえな、行ってくるからその場所を教えろやい」


「セント・エリアス山はアルバーナ大陸の中心に立ち構える大山だ、このサンダイアルから南にいけばすぐに見えるぞ」


「オーケー」


「あと、そなたの監視役とは言わないが付き添いとしてミルフィーネ君を連れていくといい。彼女は元々山の民だから山に詳しいし寒さに強い――」


「いらん、はっきり言って足手纏いだ」


「しかし――」


「おいコラ、信用できねえなら俺は降りるぞ」


今度は彼がカーマインに向けてギラッと凄みを効かせた威圧的な睨みを見せて、思わず怯んでしまう。


「わ、わかった。ショーエイ、そなたを信用して任せるぞ」


「へいへい」と気だるそうに手を上げるショーエイと足手まといと言われてかなり複雑そうな顔をするミルフィーネ。


「あと、ショーエイよ」


「あ?」


「協力に感謝するぞ、ありがとう」


カーマインから直々に感謝されるも本人は相変わらず「けっ」とぶっきらぼうに返すのみだった。


「ショーエイが彼女の捜索に行っている間、私含めて他の者は総動員で遺体の回収、及び城内の清掃を行う。アルビオンの面々はレフィア君の安否が確認でき次第、重大な話があるので心しておくように――!」


それを告げて彼は会議室から出ていくと全員がへなへなと力が抜けたようにその場で崩れてしまう。


「はあ……寿命が10年縮んだぞ全く……!」


「ショーエイの野郎……傍若無人すぎるぞ本当に……!」


そしてショーエイも椅子から「やれやれ」と言わんばかりに立ち上がり、出ていこうとするとロイスが寄ってくる。


「ショーエイ、これを――」


彼から何かが入った皮の小袋を渡される。


「なんだこれは?」


「アルドア区域に生息する希少な生物ハイ・ユニコーンの角を煎じた丸薬だ。私達リンカ族には劇薬だがレフィアやミルフィーネのような亜人には強力な滋養、治癒薬になる。もしレフィアを発見して弱っていたらこれを飲ませてほしい、きっと回復するだろう」


「わあったよ」


胸のアーマー中央がスライドするように開くと中は収納スペースになっており、その中に薬袋を放り込んだ。


「ショーエイ、すまないが頼んだぞ、必ずレフィアを見つけてくれ」


「生死に関しては期待はすんなよな」


「わかってる。セント・エリアス山の中腹以降は本当に何が起こるか分からない未知の領域だ。お前も気をつけてな――」


「俺を心配するぐらいならそのレフィアって奴のことを心配しろよ、俺は宇宙空間でも活動できるんだからな」


「…………そうだな、私が悪かった」


「……たくよお、お前らといると調子狂うぜ全く――」


そう言い彼は会議室から出ていった――彼を見送った後、ロイスの元にマナが寄り添った。


「大丈夫かな、ショーエイの奴――」


「…………心配だけど、あいつを信じるしかないよ。過酷な環境のセント・エリアス山で捜索となると恐らくショーエイ以外は務まらないと思うし――」


「レフィア……無事だといいがな」


「彼女なら多分大丈夫だよ、なんせ竜の血脈を持つ『サラマンダー』だし、アルビオンの中でもぶっちぎりの体力もあるしな。とりあえずショーエイを信じて待つしかないのは確かだ」


するとロイスは「フフッ」と軽く笑んだ。


「マナもレーヴェの街からあいつとずっと一緒に行動してきたんだってな。さぞかし大変だっただろうに――」


「大変どころか何回も死にかけたぞあたし……まあ、その度にショーエイに助けてもらったのは有り難かったがそれ以上にもうやりたい放題で大きな赤ん坊のお守りをしているようで本気でしんどかったよ……」


「しかしまあそれでも無事に帰ってこれて良かったよ、本当にお疲れ様っ」


するとマナは「あっ!」と思い立ったように、


「そういえばロイス、実は大事な話があるんだが――」


と、彼女はロイスにシェナについての話をしている一方、ダッカとミルフィーネは城外に出たショーエイの見送りに来ていた。


「こうなったらショーエイ、私はあなたを信用します。彼女のことを頼みましたよ」


「わかってるよ、うるせえな」


「で、どうやってセント・エリアス山まで行く気だ?まさか歩いていくってことはないよな、さっき見せたような姿になるのか?」


「んなもん、飛んでいくに決まってんだろうよ」


「飛ぶってどうやって――――?」


その瞬間、彼は全身に内蔵されたブースターを全て展開するとハイジャンプし、そのままブースターを最大噴射して1000、2000、3000、4000メートルの遥か彼方の空へ猛スピードで飛翔していき全く姿が見えなくなった――――。


「「………………………」」


二人、そして近くで見ていた人々は呆気に取られて目が点になっており、自身の目でしかと見たダッカ達にとって「あいつは色々な意味で別次元すぎる」と強く思ったに違いなかった。

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