第31話 守護騎士団、アルビオン④

――あの後、とりあえずアルビオンの面々とそして一部の関係者達は城内の広々しい会議室に集まりマナとショーエイからことの経緯を全て話すと周りは驚愕する者、懐疑的な者、様々であった。


「このテラリアとは別の世界からやって来た、人格を持った兵器だと……?」


「到底信じられませんわ……そんな話は今まで聞いたことはないですから」


ダッカとミルフィーネは困惑する一方、黙って聞いて腕組みをして目を瞑っているロイスがついに口を開く。


「なあショーエイ、全員に何か納得させられるような証拠はあるか?」


「分かった見せてやるよ、ほれ」


その場で「ガシャア!!」と身体を折り曲げてビークル形態になるとマナ以外のその場の全員が目玉が飛び出るほど仰天した。


「こりゃあたまげた……なんちゅう身体の構造しとるんだお前は……!?」


ダッカとミルフィーネは興味津々と近づきペタペタとビークルと化した彼に触れた。


「感触は……金属みたいだけどどうしてあそこまで人間のように滑らかに動けるのかしら……?」


「俺の身体は形状記憶性金属と液体金属の超合金製だからな、まだまだいろんな形態に変形できるんだがもう1つの動力炉が修復しないと出来ねえんだわ、見せてやりたかったよ」


その場からタイヤをゆっくり走り出してくるくる周りを走り、見る者全員を大注目させた後、変形解除して人間態に戻る。


「……確かにお前の言っていることは本当みたいだな、疑ってすまなかった」


「まあいいってことよ、気にすんな」


「しかし、ではなぜ彼がこの世界に?」


「さあな、それは俺が聞きてえくらいだわ」


と、やっと彼の素性に納得する。が、


「だからといってこれからどうするんだ?ショーエイは何人も衛兵を殺めているんだぞ」


と、彼がここで殺人を犯した事実には変わりなく本来なら死刑は確定であるが問題は彼は現状の戦力ではどうやっても殺せない、これが問題である。


「……あたしが恐れていたことを本当に実行しやがってこいつ……!!」


と、頭を抱えるマナにショーエイはニカッと笑い、


「いいじゃねえか、たかが数人を殺したぐらいで」


「お前のその倫理観のなさが凄く問題なんだよ!!」


平然とその言葉が出る辺り、本当に彼は悪い意味で人間ではないのがよく分かる――。


「なあショーエイ、お前は最終的に一体何がしたいんだ?」


ダッカからの質問に彼は、


「第一は俺の生まれたバィアスの本拠地に戻って俺を裏切った報いを受けさせる、その前に……この世界を徹底的に破壊し尽くしてやるんだよ」


それを聞いたマナ以外の全員が愕然となる。


「な、なんだと!?」


「俺は決戦兵器として作られたからな、世界を滅ぼして何が悪い?」


「き、貴様…………!!」


当然、彼に対する反感と敵視が一気に集まる。


「やっぱり今のうちにこいつを始末したほうがいいですよ!」


「俺達の世界をこんな奴に壊されてたまるか!」


衛兵達から当然、ブーイングが飛び交うがショーエイは「けっ」と吐き捨てる。


「俺に傷一つもつけれない負け犬どもが何をほざいてるんだか」


「なんだとおーー!!」


「俺達はたとえ死んでも絶対にこのクソ野郎を許さんぞ!」


するとショーエイは、衛兵達に向けて指関節をバキバキに鳴らして衛兵達へ向かっていく。


「おもしれえ、ならやるか?今度こそ全員、朝日拝めねえようにしてやるぜ」


「来い!俺達はお前に屈する気はないぞ」


「そうだそうだ、でなければ殺された仲間の無念は決して消えないからな!」


一触即発の空気になり緊張が走る――。


「全員、落ち着け!!」


普段は冷静で大人しいロイスが威圧感のある声を張り上げて仲裁に入った。


「お前達の気持ちは物凄く分かるがここは会議室だ、戦う場じゃない。それにショーエイの戦闘力は正直未知数だ、ここで戦うと無駄死するだけだぞ」


「し、しかしロイス様――!」


「私からもショーエイに言い聞かせるからここは抑えてくれ、頼む」


衛兵達を抑え、今度は彼に視線を向けるロイス。


「なあショーエイ、理解は全くできないがお前は世界を滅ぼしたいという考えなのはよく分かった。だが先ほどは私の勇気を称えて暴走をやめてくれたんだろ?今回もここは私に免じて大人しく引き下がってくれないか?」


彼はショーエイにそう優しく諭そうとする――。


「それにお前程の実力者ならこの世界に来た時点から既に実行していてもおかしくないのに今までそうしなかったのは何か理由があるんじゃないのか?」


「そりゃあまだ俺は身体が全快じゃねえからな、やるなら万全な状態でしたいんだよ」


「そうか。なら戦うのが好きか?」


「まあ、本当は殺すほうが一番好きだけど戦うのも凄く好きだな。最近まともな相手がいなさすぎてイライラしてるんだよ」


そう彼は答えると少し間を置いてロイスは彼に、


「私達はお前の身体の構造は全く分からないから今すぐ全快にはさせてやれないが、もし治ったら私達が直々に全力で相手になろう。私達だって自身の住む世界を守りたいしな」


「――ほお?」


「だからそれまで辛抱して待て、お前は人の話を聞かずに闇雲に暴れるような馬鹿ではないだろ?」


「お前らにこの俺の相手が務まるってのか?」


「なるさ、我々アルビオンはアルバーナ大陸の選りすぐりの精鋭だ。私やミル、ダッカ、ここにいないがレフィアはその気になれば天変地異を起こせるほどの魔法と戦闘能力を持つ実力者だ、相手にとって不足ではないだろう――だからここは本当に抑えてくれ」


「………………」


するとショーエイに目を閉じて「ふん」と微笑する。


「……しゃあねえな、分かったよ。お前の言うとおり全快になるまで大人しくしとくぜ。楽しみは最後までとっておかなくちゃな」


なんと彼の一時的であるが大人しくするように説得に応じるショーエイにマナ達全員は驚いている。


「だがそのセリフを忘れるんじゃねえぞ。全快したらその時は俺は本気でやらせてもらうからな、多分、いや確実にこの世界は消し飛ぶかもなあ」


「ショーエイ、お前が全力で世界を滅ぼしにくるなら私達もお前に全力で立ち向かうからな、お前こそ油断するなよ?」


二人は自信満々と互いに睨み合う……というかライバル意識が芽生えたような熱い雰囲気になっている。そしてショーエイは衛兵達に背を向けて後ろの椅子にドサッと座り込んだ。


「お前達もよく耐えてくれて助かった。本当にありがとう――」


「ロイス様、我々は寧ろ取り乱して申し訳ありませんでした……」


「大事になる前に制止していただき本当にありがとうございます」


衛兵達に感謝を述べてロイスはミルフィーネとダッカ、マナの元に向かうと申し訳なさそうに頭を下げた。


「みんな、本当に勝手なことを言ってすまなかった……」


「いいってことだ、俺達の本業は世界を守ることだしな!」


「ロイスは寧ろ、よく彼らを抑えてくれましたね。本当に助かりましたわ」


ダッカ達はさして気にしていない様子である。


「それにしてもロイス、よくショーエイを抑えられたな。あたしでさえ渋々聞く感じなのに」


「……正直、私もここまで上手く説得できるとは思わなかった。あいつは気まぐれっぽい雰囲気があるからある意味賭けだったのは認める――」


彼は実は不安だったことを正直に話す。


「まあとりあえずこの場は治まったことで安心しましょうか」


「それにしてもここにレフィアがいなくて良かったな、あいつは苛烈だから間違いなくショーエイの喧嘩を買ってただろうしな」


「そうですわね、確かに彼女がいたら……………?」


一瞬の沈黙の後、ダッカ達は「あーーーー!!」と叫び出した。


「そ、そういえばレフィアは今どこにいらっしゃるの?行方不明って聞きましたが!」


「あいつ修行に行くときは基本的に1人で行き先いわないからな――」


「誰か、彼女の居場所が分かる者はいないか!」


衛兵達全員は「私は全く何も存じません」と答える中、ロイスは「もしかして……」と呟いた。


「そういえばレフィアがいなくなる前に一緒に話をした時、『セント・エリアス山の頂上に行こうかな――』みたいなことを言っていたような気が……」


「……セント・エリアス山だと?ちょっと待て、まさかあの格好のままでいったのか!?」


「だとしたら……彼女は今かなり危険な状況なのでは!?助けにいかないと!」


「だが、あの山の登山は凄まじく過酷なんだぞ。魔物もうようよしていて死人を多数出してる魔境みたいなものだ――いくらアルビオン最強の彼女も流石に――」


「だからといって、手がかりがそれ以外にないとなると行かないわけにはいかないだろ!」


……何か深刻な話をしている4人の蚊帳の外で暇そうにしているショーエイ。そんな中、会議室の扉が開き、カーマインが姿を現した。


「あ、陛下!」


ショーエイ以外はすぐにビシッと起立し彼に注視する。


「いや全員楽にしていてくれ、それにしてもショーエイ、貴様よくもやってくれたな」


気だるそうに足を組ながら椅子に座り込む彼をぐっと睨み付ける。マナ達は「一体どうなることやら……」とビクビクしながら立ち尽くすしかなかった――。

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