第30話 守護騎士団、アルビオン③

「おいおい、そんなんで俺が止められるのかよォ!!」


脱獄したショーエイは、惨殺した衛兵二人の死体を両手で引きずり持ち、立ちはだかる衛兵達を蹴散らして城内を血塗れにしながら闊歩する。


「ひいいいい!!化け物かあいつは――!!」


完全武装した衛兵達が固まって対峙するも、どんなに剣で斬りつけても、槍で突いても傷一つもつかず、さらに各属性魔法を撃ち合うも一切かき消されてしまい、そして彼の圧倒的な力を前に全く歯が立たずジリジリと後退る一方だった。


「やっぱり楽しいねえ、人を殺すのは――やっぱり俺はこうでなくっちゃ」


相当溜まっていた鬱屈を晴らすかの如く、楽しそうに大暴れするショーエイ。


「い、今すぐ止まれ、さもないと――!」


「さもないとどうするんだ?」


彼は素早く飛び込み近くの衛兵の前に立つと全力で脳天から右拳を叩きつけ、「ドゴォ!!」と文字通り紙のようにぺしゃんこに潰れてしまい血と内臓が辺りに飛散した――。


「う、うわああああ!!!?」


「つ、強すぎる!!なんなんだこいつは!!」


こんな馬鹿力を今まで持った人間は見たことない衛兵達にとって、人の姿をした魔物なのではないかと疑ってしまう。


「ほれ、早く止めねえと更に死体が増えるぜ?」


 ショーエイになす術なく段々と押される衛兵達――すると。


「衛兵よ、ここは私に任せて下がりなさい」


「み、ミルフィーネ様!」


彼らの元に1人の女性が優雅に歩きながら到着する。身長180センチはあり白銀の軽装鎧を全身に身に付けて背中には身の丈はある、白銀の長、短弓を背負った戦乙女。

しかし彼女はリンカ族ではなく、全身にさらりと美しく真っ白い毛並みを持つ気高いその姿、まるで狼をそのまま人間にしたような姿の亜人、オルレア族の女性。


彼女はミルフィーネ・エリューシヴ。守護騎士団アルビオンの1人でサンダイアルの北側を守護するスヴェーン部隊隊長を務める通称、『氷結の狩人』――。


彼女は衛兵をどかして前に出るとショーエイに立ちはだかった。


「そこに直りなさい大罪人!」


彼女の勇々しい叫びがショーエイの足を止めた。


「あ?なんだお前は?」


「警告する、直ちに制止しその場で膝をつけて伏せなさい。それ以上狼藉を働くのなら、私が直々にあなたに裁きを下します!」


「ほう、それはおもしれえ。やってみやがれ」


全く聞く耳を持たない彼に対して、ミルフィーネは「はあ……」と酷く落胆する。


「……この愚か者が、慈悲深き私の警告を無視するとは。ではお望み通り私自らがあなたを処分致しましょう」


彼女は背負う短弓を右手で取り出し、左掌を上に向ける、すると。


「オルド・レムアーラ・セイクリック・フテイスティ、万物を凍てつかせる絶対零度の矢よ、我に力を――!!」


呪文を唱えると彼女の身の回りの気温が急激に下がり、吐息か白く見えるようになる。彼女の左手に冷気が集結し、矢を模した氷の塊を形成する。


「ほう、それも魔法ってやつの類いか」


彼女は氷の矢を弓にかけてグッと引き込み、力強く放つと一瞬でショーエイの足指の寸での位置の床にぶっ刺さった。


「………………」


もしかして外したのか……ショーエイはそれを見るなり「この下手くそが!」と高笑いする――。


「あら、油断は禁物でしてよ?」


「は?」


「視界内の物なら百発百中の命中精度を持つこの私がたかだか2、3メートルの距離で外すと思いですか?」


「……何が言いてんだお前?」


その時、彼は足に何か違和感を覚え、すぐに下を見ると、


「…………あ?」


なんと氷の矢から彼の足がビキビキと氷結させている。足が完全に凍りついてしまい全く動けずに徐々に下半身から上半身にまで広がっていく。


「な、なに…………?」


「私の潜在属性は『氷』。私に狙われた者は否応なしに氷の棺で眠ることになりますの、永久にね」


「やべえ……マジで動けねえ。どうするか――」


さすがの彼も焦っている様子だが脱出する方法を考えている間もなくすぐに上半身も氷柱に閉じこめられていく。


(く、くそお、こんな氷ごときに俺は――!!)


そして凄まじい速さでショーエイの全身が氷柱に閉じ込められてまるで氷像と化してしまった――。


「せめてもの慈悲に、苦しむ間もなく一瞬で砕いてあげましょう――」


短弓をしまい、今度は長弓を取り出して呪文を唱えると先ほどの矢とは一回りほど大きい氷の矢を形成し、すぐに弓にかけて氷づけのショーエイへ向けてぐっと引き込む――その時、


「ミル!!」


マナとダッカがようやく駆けつけて、彼女は引くのを止めて二人に視線を向けた。


「あら、マナにダッカ。二人共お帰りになられたのですか、ご苦労様です」


「あいつは、ショーエイは?」


「ショーエイ?それがこの男の名ですか?!


二人はこの場を凍てつかせるほどの凄まじい冷気を放ちながら氷像と化して全く動かないショーエイに注目する。


「大罪を犯したこの不届き者を今すぐ処刑するところだったのですよ」


「流石はミル、お前に掛かれば海だろうとなんだろうと全てを物体を氷づけと化せれるな!」


「ショーエイ……お前……」


あの男がミルフィーネの氷魔法によってなす術なく敗れたことに……普通は嬉しい限りであるがしかしマナはどこか複雑そうである。


「さて、話は後にして直ちに全てを終わらせましょう」


再び弓を強く引き込み、太い氷の矢を向けた――が。


「……なあ、なんか暑くないか?」


「そういやあ、ミルフィーネ様の氷魔法が発動しているのに……なんだこれ?」


先ほどまでの凍てつく寒さが、急に温度が上がりショーエイの閉じ込めた氷が解けはじめている――。


「私の氷魔法が解けてかかっている……?」


先ほどとはうってかわり今度はこの場が急激に気温が上昇し、氷柱が溶けて滝のように水が溢れている。この不可解な現象にミルフィーネはマナに注目する。


「マナ、これはあなたの仕業ですか!?」


「おい、あたしは何もやってないぞ!」


「しかし、ここで急激な温度上昇できる術を持っているのはあなた以外にいないはず、なのにどうして!」


徐々に氷がなくなり、そこにはニヤニヤと悪魔のような笑みを浮かべるショーエイの姿が……。


「いやあ、一時はどうなるかと思ったがまさかここにきてグッドタイミングだな!!」


一体、それはどういうことか――。



【グラストラ核融合炉、修復完了。一部の武装の使用制限解除、及び一部の武装使用の際にプラズマエネルギーかグラストラ核エネルギーの変換が可能になります――】



なんと彼の動力炉の一つ、グラストラ核融合炉がここに来て完全に修復され最大出力が30%から60%まで引き上げれた――。


「私の氷魔法が……!」


核動力から生み出される凄まじい熱量が体外から発散され氷は完全に融解して水浸しになり、乾いていく。そんな光景を、ミルフィーネは唖然となっていた。


「じゃあ今度は俺が全員に見せてやるよ、俺がなんで殺戮兵器と呼ばれてるのかをな!」


右手を真上に突き上げると、掌中央から発射口が開き――。



【エミル・エズダ発動。超高密度のガンマ放射線(レディエーション)全方位拡散まであと5、4、3、2――】



彼はまさに悪鬼羅刹のような恐ろしい表情と化した――。



《てめえら全員、放射線被曝で醜く苦しんで死ねやあ!!》



その時――。


「そこまでだ」


「おっ?」


咄嗟に右手を引っ込めて彼は振り向くと、そこには見知らぬ男性の携える御神木で作られた杖の先に埋め込まれた赤い宝石が目の前に迫っていた――。


「誰だお前?」


「少しでも動いたら、貴様を一瞬で切り刻む」


翡翠色の魔術師のローブを全身に着込み、とんがり帽子からはみ出た金髪のウェーブのかかった長髪、そのサファイアのような凛とした色の瞳、女性を一瞬で虜にしてしまいそうな凛々しくも優しい雰囲気を持った美形の顔立ちをしたリンカ族の男性。


――ロイス・エルミナティ。守護騎士団、アルビオンの1人で西側を守護するアルドア部隊隊長で通称、『翡翠の大魔導師』。そして、マナの言っていた例の婚約者である。


「手荒なことはしたくないが、無視するなら致し方あるまい。こちらとしては大人しく投降することを願う――」


「ほう、てめえは俺を切り刻めるとでも?」


「ああできるさ、こんな神聖な場所を汚したくないのは山々だがそちらが望むのなら今すぐにでも叶えてやろう」


忽然とした態度で即答で答えるロイスにショーエイは、


「クックック…………ワハハハハハっ!!」


……いきなり馬鹿みたいに急に笑い出すと周りはキョトンとなる。


「おもしれえ奴だなお前!シェナのやつもそうだけどそういう噛みついてくる気の強い奴は好きだよ俺!!」


ロイスの肩をバンバン叩いてゲラゲラ笑うショーエイに対して、本人は困惑している。


そして全員が満場一致で、


「な、なんだこいつ……?」


と思ったことだろう。


「分かった、そういうお前の勇気を称えて今はもう殺すのやめてやるよっ」


と、その場でドサッて胡座をかいて座り込むショーエイにロイスは。


「お前……一体何者なんだ……?」


「何者かといわれたら生き物じゃねえのは確かだ」


「…………は?どういう意味だ?」


その時、マナは二人の前に飛び出して来て、


「みんな、あたしが知っている限りのことを全部説明するからとりあえず一旦落ち着いてくれ――ショーエイ、お前もちゃんと話せよな」


「へいへい」


と、彼の大暴走はやっとここで止まることになった――。

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