第28話 守護騎士団、アルビオン①

――地下牢にて。グラグラと更に揺れが酷くなり、しばらくするとショーエイの作った遥か地底へ続く穴から凄まじいプラズマエネルギーが間欠泉のように噴射して「ズドオ!!」と爆音と共に天井を破壊した。


「な、何事だあ!!」


轟音を聞きつけた多数の衛兵が慌ててそこに駆けつけると、


「な、なんだこの穴は……!」


地下牢の突き当たりに謎の穴が開いており、ぞろぞろと野次馬が穴を囲むように集まる。

そっと覗くとまるで奈落のような深い闇しか見えず、落ちたら間違いないなく生きて戻ってはこれまいと悟る。それに何か得体の知れない邪な気も感じられて下手に手出しできず注意深く観察するして、しばらくすると……。


「いやあ、酷い目にあったぜ!」


「う、うわあ!!」


穴からひょこっとショーエイが顔を出した――そこには。


「あ?」


彼の視線の先には自身を囲い、これでもかというほどに注目してくる衛兵達の姿が……。


「き、貴様は一体何者だ!!」


「ちょっと待て、こいつは確かマナ様と一緒にいたボディガードの男じゃないか?」


すると一人の衛兵が携えている剣を抜き、ショーエイへ向ける。


「今すぐそこから出てこい……!」


穴から出るよう催促すると彼は「分かってるって!」と穴からぴょんと飛び出て案の定、彼は全く物怖じせず仁王立ちする。


「で、その抜いた剣で何する気だ?」


「そ、それは…………………」


「それは俺への宣戦布告って意味で捉えていいんだな?」


「………………」


身長190センチで筋骨隆々の大男が指間接をバキバキに鳴らして、その圧倒的な威圧感と殺気を見せつけると衛兵達は逃げ腰になり少しずつ後退りしていく――その時。


「しょ、ショーエイ!!」


ちょうどそこにマナも駆けつけて衛兵達を押し退けて対面する。


「よお、謁見は終わったんか?」


「それよりもお前、今度は一体何やらかしたんだ!?」


「ちいと気になったことあってな。ここに穴開けて遥か地底まで行ってきたんだが――」


「何をしておる!」


すると今度はカーマインまで地下牢に現れると衛兵達は慌てて「陛下、いけません!」と彼をこの謎の男の元に行かすまいと立ち塞がるが、


「彼から直接話を聞きたい、どいてくれ」


と、威厳のある口調で促すと衛兵はすんととなり道を開いた。


「カーマイン王……」


彼女の横に立ち、彼もショーエイとついに対面する――。


「そなたがマナの言っていた例のボディガードか」


そう聞かれ、彼は「へっ」と微笑する。


「厳密に言えばボディガードではないがな。まあそういうことにしといてくれや」


「おい貴様、陛下に対して無礼だぞ!」


自身の君主に初対面の男にタメ口を吐かれて、当然激昂する衛兵達だが、当の本人は手を差し出して制止させる。


「いやいい。それよりも聞きたいことがある、この大穴を開けたのはそなたか?」


「如何にも、この俺だ」


と、ふざけた様子で元気よく答えるショーエイに対して、マナは「恐れていたことになった…………」と気が気でならなかった。


「なぜそのようなことを?よければぜひ理由を聞かせてくれないか?」


「おうよ!」


――彼は一部始終を全て洗いざらいに話すとその場の全員が騒然となった……。


「な、なんと……まことか……!」


「まことじゃっ」


「ショーエイ…………それは本当なのか……!?」


「信じられねえのなら今すぐ穴に落ちてその目で確かめてこいよ。最も、お前らは確実に助からねえがな」


先ほどまで常闇の宝玉について話していたカーマインとマナは誰の目から見て分かるほどに驚愕している。


「……そなたは確か、ショーエイと言ったな。もう一度聞かせてほしい、その宝石とはどの様であったか?」


「黒く鈍い光を放つ宝玉で、触ろうとしたらバリアみたいなのが張られていたな。で、ムカついて破壊しようとしたらいきなりその玉がいきなり語り出してな。『見たら魔界に魂を吸いとられる』やら『今はまだその時でない』とかほざいてたな。

で、俺がプラズマ・ブラスターで破壊しようとしたんだけど結局バリアを破るどころか跳ね返されてプラズマエネルギーが逆流して穴を通ってズドォン、だよ」


彼ですら破壊出来なかったところを見るとその宝玉は凄まじい力を秘めているに違いない。最も、本人も正直本気でやらなかったのもあるが。


「いやあまさか俺でも破壊できないものがあるとはねえ、まあまだ全快じゃねえしそんなもんか」


悔しがるどころか割りと冷静に受け入れているショーエイ。


「しかし、その話が本当ならなぜそなたは無事だったのか?その宝玉を見たら魔界に魂を吸いとられてもおかしくないはずが……?」


「そりゃあ、俺は人間どころか生き物じゃねえし」


「生き物じゃないのなら何だと?」


「化け物だ」


それを聞いてその場にいるマナ以外の全員が「…………は?」と思ったに違いない。


「それはそうと、300年間私含めて全員が行方知らずだった宝玉がまさかこの城の遥か地底に眠っていたとはな……実に信じられないが彼の証言の信憑性は確かにある」


「嘘だと思うなら今からこの穴に落としてやろうか?」


と、冗談にもなってないことを言い放つ彼にギョッとなる衛兵達。


「ショーエイ……お前って奴は……っ」


「しょうがねえだろ、暇だったんだからよお。そんな謎の空間を見つけたら行きたくなるのが男の性よ」


「だからって城を破壊していいなんて一言も言ってないぞ!」


「俺は兵器だ、破壊するのが仕事だしな」


「お前なあ!!」


ショーエイとマナの二人で言い争っている時、カーマインは再び厳格な顔に戻り、彼に対して、


「衛兵達よ。この者、ショーエイを直ちに捕らえよ」


「…………え!?」


なんと突然、ショーエイの逮捕を命じその場の全員、特にマナは耳を疑った。


「ショーエイよ、そなたは行方不明だった宝玉を発見してくれたことには感謝するがその一方で城の破壊行為に及んだ挙げ句に悪い意味で宝玉を見つけてしまった。つまりそなたは最重要機密を知ってしまったということだ――」


「あ?」


「常闇の宝玉の在りかを外部に漏らさせないためにも、すまぬが身柄を拘束してもらうぞ。衛兵達よ、彼を捕らえて特別房へ連行せよ!」


彼の威厳ある命令で衛兵達は一斉に彼を取り押さえた。しかし彼は全く抵抗する気を見せなかった。


「か、カーマイン王…………」


「マナよ、せっかくお前が雇ったボディガードだが致し方あるまい。彼は知りすぎてしまった」


「し、しかし………っ」


「こうしている間にもレヴ大陸にこの事を知られるやもしれんのだぞ……!そうなれば間違いなく奴らは全力で王都を陥落させようとするだろう、少しでも被害を最小限にするためだ」


「………………」


「心配するな、命を奪うような野蛮なことはしない。全て事が済むまで身柄を抑えておくだけだ。数人は彼を特別房へ連行し、残りは応援を呼んでこの穴を塞ぎ、誰にも近づけられないように完全に封鎖せよ」


……ちなみに彼女はショーエイが捕まること自体はなんら気にしてない、ハーヴェルの時のように下手に彼を刺激して暴れないかを心配しているのであった。


「ショーエイ!!」


だが彼は暴れるどころか何故か大人しくしている。しかし同時にニヤニヤと不気味に笑んでもいるが。


「おうマナ、ちいとばかり投獄されてくるわ」


「は……ああ!?」


「心配すんな!こういう経験もしてみたかった

しな。楽しんでくるわ」


そう言うと彼は衛兵達に連れられて地下牢から去っていった。


「あいつ一体何を考えてるんだ……?」


もしかして何かを企んでいるのでは、と心配するマナであった――。

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