第27話 常闇の宝玉
話をしているうちに二人は目的地である、都市の中央部の少し奥にどっしり建ち構える機械仕掛けの蒸気を四方に吹き出す巨大な建造物、サンダイアル城に到着する。
「ついたぞ、あたしの後からついてこい」
二人は巨大な城門に向かうと門番に止められるも、
「マナ様、もうお帰りになられましたのですか!」
「至急、王に伝えたいことがあるから早めに仕事を切り上げて帰ってきた――」
「分かりましたが、チェックだけお願いいたします」
「ちなみに後ろの男はあたしのボディガードで雇った者だ、怪しい奴じゃない……」
「お前、顔がひきつっているぞ」
「うるさい……!」
やはりスパイの件もあり、本人であるにも関わらず二人は外見と持ち物のチェックが行われる。
マナの場合は厳重な本人確認ということでその場で掌から丸い火球を出すと長剣に刻まれた刻印が浮かび上がり本人だと確認、二人とも異常なしと見なされると門が開門する。
「改めてマナ様、お疲れ様でした。中へどうぞ――」
チェックをパスし二人は中に入っていく。
「ホントめんどくせえチェックばっかだな」
「昔は市民にも開放的だったんだが今のご時世を考えるとしょうがないんだよ」
中は意外にも中世のようなクラシック感溢れる内装であり、巨大なシャンデリアが吊るされた謁見の間へ続く巨大な階段がある広間へ到着する。
「あたしはこれから王に会ってくるからお前は立ち入り禁止エリア以外の場所を自由に見回っていてくれ。そんなに時間をかけないから大人しくしておけよ」
「へいへい、多分」
「おい、ここは冗談なしでふざける場所じゃないんだからな!」
「分かったからはよ行けや」
「……………」
……彼女は一抹の不安を残したまま謁見の間への大階段を上がっていった――。
「さて、あいつが戻ってくるまで暇を潰すか」
そして彼は城の中を探検する。クラシックで上品な内装、展示用の鎧や絵画や陶器などのアンティーク品が飾られていて確かに新鮮味はあるのだが、
(人間ってのはどうしてこんなもんに価値を見いだすのか全く理解できんな)
人間の美意識を理解できるはずもなく本当に退屈そうである。退屈で仕方ないのて暇潰しに彼はこの城の構造をスキャンをして面白いところがないか探してみる。すると――。
「………………あ?」
彼は何かを発見した。それは城の中ではなく――。
(ここから直下約600メートル地点に謎の空間があるな。しかもそこに行くルートが1つもない……どうなってんだこりゃ?)
地上から断絶された遥か地底の不可解な空間に疑問を持つと共に、かつてないほどに好奇心が沸き立つショーエイ――そして。
「行くっきゃねえよなあ!」
そう決まればやるべきなのはただ1つ――どうやってそこまで行くかだった。
彼はとりあえずスキャンした城の構造を確認し、城の最下層へ行こうとする。
衛兵の目を盗み、素早く降り階段を降りていくと地下牢に到着する。看守は誰もおらずどうやら誰も牢には入っていないようである。
しめしめと言わんばかりに謎の地下空間の真上の位置に立つと彼は、地面に向けて腹部を突き出すと中央部から発射口が開き、赤いレンズが表れる。
【腹部プラズマ・ブラスター、プラズマエネルギー出力約40%――発射】
レンズから懐中電灯を地面に当てるかのように光線を照射するとプラズマ超高熱で地面が円を描くように穴ができ、まるで氷が融解するかの如く遥か下までドロドロに溶けていく――そのまま数分後間休まず当て続けると目標の空間の所まで到達した。
「ではいきますか!」
大人一人くらい入れる大きさの穴の中に飛び降りてそのまま謎の空間の所まで垂直に落下していくショーエイ。しばらく落ち続けてようやく目的の空間に華麗に着地する。
「んで、ここは……ん?」
四角い部屋みたいな空間のど真ん中には大理石でできた謎の台座があり、その上には拳大程の、見るもの全てを一瞬で魅了しそうな黒真珠のような宝石が置かれている――。
「なんだこりゃ?」
彼は台座の手前に行き、ジーっと観察する。本当に美しいほどの鈍い光を放つが同時に何か禍々しい邪悪なオーラを放っているようにも思える……。
彼は何の考えもなしに触ろうと手を伸ばした瞬間、「バチィィ!!」と電気に触れたような衝撃と共に弾かれてしまった。
「は?バリア張ってんのかこれ」
何度も手を伸ばしてもバリアのような障壁に手が弾かれるだけだった――。
「くそ、流石の俺でも取れねえな。ぶっ飛ばしてみるか――」
彼は腹を突き出して再びプラズマ・ブラスターの発射態勢に入る。その時――。
『……その者、なぜだ……?』
どこからか声が聞こえる。耳からではなく心に語りかけてくるような感覚である。
「あ?誰だ?」
『……なぜ無事なのかと聞いている』
「……どういうことだよ?」
『――我は常闇の宝玉。我をこの目で見た定命の者は魔界に魂を吸い取られるのになぜ無事なのか。まさか魔族の者か?』
「……さっきから何いってんだお前?」
『その者、一体何者だ?』
「俺?『メルカーヴァ戦略機甲生体兵器XTU‐001』、ショーエイだ」
『…………………』
「どうした、何か言えよ」
『……とりあえずお前はどうやら魔族ではなさそうだ。まだその時ではない、暫し眠りにつくとしよう――』
それを最後に語りかけてきた謎の声が聞こえなくなるが、宝玉は相変わらず邪悪なオーラを放ちながら台座に鎮座している――が、
「ワケのわかんねえこと言ってんじゃねえ!!」
痺れを切らしたショーエイは再度、プラズマ・ブラスターの発射態勢に入った――。
◆ ◆ ◆
一方、謁見の間にて。王座に座る厳格な雰囲気を漂わせる聡明そうな中年男性、現サンダイアル王であるカーマイン26世。彼と対面するマナはハーヴェルで起きた出来事についての報告をしている。
「――そうか。やはりレヴ大陸の、バルフレアの目的は常闇の宝玉の奪還だったか。300年前の悲劇は再び繰り返されるというのか……」
彼は深いため息をついて表情を暗く落としてしまう。
「前に忍びこんだレヴ大陸からのスパイの目的は宝玉の在りかを探すためだったのでしょう」
「恐らくはな。ただ宝玉の在りかは正直に言うと私にも分からない――当時のサンダイアル王がこれ以上の悲劇を繰り返さないために宝玉を極秘に隠し、その場所は身内にすら教えなかったと言われているからな――」
「……しかし、レヴ大陸はなぜ今更になって常闇の宝玉を?」
「……私も宝玉について様々な文献を読み漁ったが決定的な情報は掴めなかった。だが、私は魔界について何かしら関連していると睨んでおる」
「魔界……ですか?」
彼はコクッと頷く。
「……伝説によれば数千年も前にこの世界と我々を創造した神々は、同志でありながら突如裏切り、自身が創造した魔界と闇の力を源にする魔族と魔物を率いて反乱を起こした邪神ベルクラスと永きに渡る光と闇の大戦争の末、ベルクラスを魔界ごと全て別次元に追放することに成功した。
その時に別次元へ追放する際に使用されたのが皮肉にもベルクラス自身が魔界への扉として創造した常闇の宝玉である、とそう伝えられている」
「つまり宝玉は魔界の――」
「そうだ。常闇の宝玉に魔界そのものを封じ込めた、すなわち魔界への扉そのものである可能性が高い――」
「ではレヴ大陸が宝玉を奪還する理由は……まさか!?」
「レヴ大陸の者に邪神崇拝者、リンカ族至上主義者ばかりなのは我々リンカ族を創造したのは何を隠そう邪神ベルクラス。つまり奴らは魔界を復活させて亜人達全てを一掃する気だとしたら?」
彼女は緊張のあまりゴクッと唾を飲み込む。
「しかしこれはあくまで憶測の域だ。宝玉は元々、向こうの所有物だったのだから単に奪い返したいだけかもしれない――だがこれでレヴ大陸が攻めてくる大義名分が生まれるわけだな。こちらの外交官も必死で侵略戦争を避けようと頑張ってはいるが恐らく攻めてくる可能性は極めて高い」
「カーマイン王、手遅れにならない今のうちに王都防衛の準備をした方がよろしいかと――」
「うむ。近い内にアルビオンの面々を召集して対策会議を開こう。それにこの国、いや大陸の人々の生活を脅かされないように安全も保証しないとな――」
「しかし奴らの情報網は我々の一歩先を行っています。恐らくこちらの情報も何もかも、向こうに筒抜けかと――」
「だがそれでもやらねばならん。でなければ300年以来の大厄災が勃発しかねない。マナはとりあえず王城に留まり普段の本業通りこれから向こうの動きを探って情報を常に報告してほしい」
「仰せのままに!」
すると王は厳格な雰囲気から一転して顔が和らぎ、彼女に優しい表情を見せる。
「それはそうとセイヴン区域の巡察、まことにご苦労であったな。人手不足の中、わざわざ名乗り出てくれてな」
「いえいえ、誰かかやらねばならないのですから。それにセイヴン区域の巡察は割りと好きなので――ただ」
……彼女はなぜか深く顔を落とす。
「……マナ、突然どうした?」
「実は王に心してお伝えしたいことがあります。それはリィーン族の村、エニル村についてです」
――彼女はエニル村で起きた惨劇を全て洗いざらにして話すと彼は「なんということだ……」と絶句した。
「……村を守れなかったのは私の全責任です。覚悟はできております、処罰を下すならなんなりと……!」
思い詰めた表情をする彼女に対してカーマインは、
「……リィーン族は本当に全滅してしまったのか?」
「辛うじて村長の義理の娘であるシェナは無事に保護しました、今は色々と事情のため私の家に連れてきています」
「しかし……リィーン族は清らかな水のある場所でしか生きられないのでは?」
彼に、シェナは清流の加護下にある内は外界にいても無事だと伝える。
「なるほど……そういうことか」
「カーマイン王、こんな頼みごとはどうかと思いますが、私はどうなろうとも構いませんがあの娘、シェナの安全の保障だけはどうかお願いいたします!」
と、膝をついて頭を深々と下げるマナに対して彼は「ふぅ」とため息をつく。
「……マナよ、顔を上げなさい。正直に言えば私はそなたに罰を与える気は全くない」
赦免を言われるも彼女は納得しきれてなのか苦虫を噛み潰したような顔だ。
「し、しかし、これではリィーン族の方々に申し訳がありません!」
「確かにリィーン族に人々については心が痛いし深くご冥福をお祈りする次第だ。だがマナ、そなたは危険を省みず彼らのために守ろうとしたのはそなたの優しさと勇気があってこそのものだ。
私はそんなマナの慈悲なる行動を貶すつもりは全くないし、恐らくそのシェナという子もリィーン族の方々はそなたに寧ろ凄く感謝していると思うぞ」
「………………」
「マナよ、そなたは真面目で正義感が強いのは前から知っているがそれが悪いところでもあるぞ。そうやって何から何まで一人で抱え込もうとするといつか限界が来て壊れるぞ、心に余裕を持つように努力しなさい」
――カーマインからそう諭されるマナ。
「それでも処罰を受けたいのならそうだな……では私から直々に下そう。リィーン族の最後の子、シェナを守ってやれ」
「シェナを…………」
「その子はマナ、お前を一番必要としているだろう。彼女の親と思って接して必ず幸せにしてやれ、それを処罰とする。ただし彼女の保障に関しては必ず約束するから安心しなさい」
「カーマイン王……」
「心配するな、私はずっとお前の味方だ。私にとって野犬に襲われそうになってた捨て子のお前を拾ってからは実の娘のように思ってきたからな――それにロイス君という誓いあった相手もいるだろ、何かあって彼を心配させるな」
……マナの目から大粒の涙がポロポロと流れていく。普段はひたすら真面目に仕事をこなして勇敢と忽然とした態度を貫く彼女だが、ここでやっと荷が降りて泣いてしまうのであった。
「マナよ、久しぶりに女らしくなったな。お前は本当にこの国、いやアルバーナ大陸に対して親身にすべからく尽くしてくれている、私から本当に感謝したいほどだ」
「……いえ、あたしは本来は捨てられたあの場所で食い殺される運命だったのをあなたが保護してくれました。だからこの命をあなたに、この国に、アルバーナ大陸のために使いたいのです……!」
彼女は涙を手で拭いそう言った――。
「これからも頼んだぞ、マナよ!」
「…………はい!」
こうしてやっと彼女に笑顔が戻ったのであった。彼の言葉で本当に救われたのだろう。
「それはそうと、話に出てきたマナの雇ったというそのボディガードの方というのは相当の実力者なんだろうな。是非会わせてもらえないか?マナを助けてもらったお礼をしたいのだが――」
「え…………!?」
その瞬間、彼女はまるで吹雪に見舞われたように顔が青ざめていく……そんな彼女に怪訝に見つめるカーマイン。
「…………マナ?どうかしたか?」
「い、いや……彼は……その……会いたくないというかなんというか……物凄く人見知りなものですから……っ」
「そ、そうなのか……無理にとは言わないからまあ、私から感謝の言葉を伝えておいてくれ」
……ショーエイを彼に会わしたら一体どうなるのやらと考えるだけで胃がキリキリと痛み出すマナであった。
そんな時、
「ん……?なんか城が揺れてないか」
「え……………?」
……微かに縦揺れしている感覚がする。地震かと思う二人だが、今地下にショーエイが揺れる原因を行っていることにまだ気づくはずなどなかった。
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