第26話 二人
「馬車を降りたら先にあたしの家にいくぞ、荷物を下ろしてこないとな」
馬小屋に到着し馬車を降りて三人は人混みの街中を歩いていく――。
「凄い人集りですね……」
「だから間違ってもはぐれるなよ」
外界における生命線であるロッドをぐっと握りしめながらマナにくっつくように寄り添うシェナ。
「あーあ、今無性に残りの亜光速ミサイルを全弾撃ち込んでどでかい花火をあげたいんだけどよ」
「おい、洒落になってないぞ」
「クカカカカっ!!」
こんな所でミサイルをばら蒔かれたら間違いなくこんな巨大な都市ですら一瞬で消し飛ぶだろう――。
「それにしてもなんか暑いですね……外にはまだ雪が積もってたのに全く違います」
「もともとこの国は物凄く寒かったんだけど今はこういう蒸気機械が導入されたからな、全体がストーブみたいに暖かくなったんだよ」
「どうやってこんなの作ったんですか?」
「それはな――」
「この大陸の東側に鉱業地帯があるからだろ」
ショーエイがそう答えた。
「ゴブリン達を狩りに飛び回っていた時に東側に密集した鉱山や炭鉱、それを掘り出すための大量の蒸気機械を発見した。
あとスキャンしてみたがここから向こうへ繋がる長く広い地下トンネルが開通しているのも見つけた。つまりそこからこっちに持ち込んでるってことだろ?」
「そう。東側、つまりトルヘン区域は土の民であるドワーフの故郷でそこでは良質な鉱石や石炭、天然ガスなどの資源が豊富に取れるんでな、彼らと提携を結んで地下トンネルからそこまで運んでる。
ここにはドワーフの技術者も大勢いる、彼らの助けを借りてここまで発展したということだ」
「だったらなんでそこに王都を作らなかったんだ?いちいち運ぶくらいならそこで作ったほうが楽だしいいだろ」
「色々理由があるが一番の理由がここはレヴ大陸との対岸の位置にあるからだろう。
300年前にとある理由で大陸間戦争が起こっていて一応停戦にまでこぎつけたがそれ以来、非常に険悪な関係でな。だから向こうの動きを常に監視する目的があるんだ」
「戦争……」
「まあそれから300年間は何事もなかったのだから大丈夫だろうとは思いたいがな――さて、あたしの家はもう少しだからはぐれるなよ」
都市の中心部から少し外れた場所にある住宅地にある、特に派手さのないありふれた赤い屋根の一軒家に到着する。
「……これがマナさんの家ですか」
「そうだ、じゃあ中に入るか」
彼女は家のベルを鳴らして少し経つとドアが開き、中からメイド服を着た中年の女性が現れる。
「まあマナ様、お帰りなさいませ!」
「連絡を寄越さず突然帰ってきてすまなかった。そうだ、二人に紹介するよ。彼女はアンナ、あたしが長期間不在の時に家を管理してくれる家政婦だ」
「アンナです、よろしくお願いいたします」
彼女は暖かみのある笑顔でお辞儀した。
「アンナ、彼女はシェナ。リィーン族の子だ」
「しぇ、シェナです、よろしくお願いいたします」
「リィーン族の子とはまた珍しいお客様なことで。こちらこそよろしくお願いいたします」
「で、こっちはショーエイ――」
当の本人は無愛想な顔でそっぽをむいている。
「すまない、気にしないでくれ。こいついつもこんな感じだから……」
「まあまあ、人それぞれですから。さて荷物を運びましょうか」
「アンナ、シェナはとりあえずしばらくはここに住むから空いてる部屋と中を案内してやってくれないか?」
「分かりましたがロイス様にその事をお伝えしていますか?」
「今から王城に行くからついでに詰所に寄ってもしいれば話してくるよ、ショーエイは……お前どうするんだ?」
「俺はいいや。家でじっとしていられねえし」
「……というわけでとりあえずシェナだけ部屋を案内してくれ。あたしは荷物をおいてすぐに城へ出掛けるから。あとあの子に――」
シェナはアンナに家へ案内されて連れられていった。
「ショーエイ、お前はとりあえずあたしについてこい」
「なんでだよ?」
「なんでって……理由は正直分かってるだろ」
「へいへい、分かりましたよ」
さすがにいつもいがみ合ってるシェナと二人きりは色々と不味いし、かと言って野放しにしておけないので目の届く範囲に見ておかないと、という訳である。
「シェナ、あたし達は城へいってくる。お前はアンナからこの国のマナーやルール、しきたりを教えてもらってくれ。彼女は教えるの物凄く上手いから安心しな」
「分かりました。二人ともいってらっしゃい」
シェナ達に見送られて二人は歩いて中央奥のサンダイアル城に向かう。その間、彼女は馬車の中で言っていたギルドの話など、ショーエイについてこれからについて話す。
「――てわけだが、どうだ?」
「暇が潰せるんならなんだっていい、勝手にしろ」
と、案外すんなりと承諾してくれた――そんな中、彼はこの国の蒸気機械が蔓延するスチーム感溢れる風景を見ながら「ふん」と吐き捨てる。
「どうした?」
「お前、こういう風景を何とも思わないのか」
「……どういうことだ?」
「こんな人間に有害な煙をもくもく出してよお、明らかにこの国の空気が悪くなってんだろ。それに東側の鉱山は隣接している海へ鉱毒水を垂れ流しだったぞ」
「……ショーエイ、何が言いたい?」
「いいや別に。俺の知ったこっちゃねえが何も対策を考えないままじゃいつか、俺の死ぬほど見てきた星みたいになるかもな――」
と、ニヤニヤしながらそう言った。
「まあいいや。で、ここの城についたらどうするんだ?」
「なんか凄く引っかかるが……とりあえずあたしはサンダイアル王に謁見してくる。お前は城の中を自由に見回っててくれ。ただし揉め事だけは御法度だから絶対にやめてくれよ」
「俺は王に会わせてくれねえのか?」
「……お前を王に会わせるって考えるだけで今すぐにも死にたくなるわ!」
彼女も流石にそれだけは避けたかった……。
「けっ、しゃあねえな」
すると、
「なあショーエイ、お前ってなんだかんだあたしの言うことは渋々ながら聞くよな?」
「あ?」
「人に指図されるのは死ぬほど嫌なんだろ?なのになんであたしの言うことは一応聞くんだろうなって思ってな」
その質問に彼は、
「そりゃあお前はこの世界のこと一番よく知ってるからな、素直に聞いといたほうがいいに決まってる」
以外と融通のきいた思考をしていると驚くマナ。
「お前は俺の獲物だしまだまだ利用価値があるから殺しはしねえよ。それにせっかく新鮮味のある世界だ、楽しまねえとなあ」
しかし裏を返せば……であるが。
「お前って世界を滅ぼすってしきりに言うがなんでそんなにこだわるんだ?」
「そんなの単純だ。俺は戦略兵器として造られたからな、兵器が破壊や殺戮をして何が悪い?」
何の迷いもなく平然と言いきるのであった。
「……まあ言いたいことは百歩譲って分かるがそういう考えられる力があるんなら、もう少し別の方向に考えられないのか?例えばその強大な力を人々のために有効活用するとかな」
「無理無理、前にも言ったが俺は最強の兵器として造られたんだ、それ以外の何者でもない。そもそも俺の人格を作る上でモデルになったのが快楽殺人鬼や愉快犯ばかりだぜ?そこからどうやってマトモな思考に持っていけるっていうんだ?」
「………………」
「そんなに俺をマトモにしたいなら頭ん中そのものを弄らなきゃならんな。まあそれをやろうとしたのが、てか人格そのものを消そうとしたのが俺を作った生みの親なんだが、よほど焦ってたのか一気に詰めよってきたから俺が一人残らず殺したわ、あいつらさぞかしあの世で後悔してんだろうな、カカカ!」
「……お前、なんというか物凄い業の深い奴だな」
「お前ら人間の方がよっぽど業が深いだろ。破壊や人殺しは悪いっていう一方で自分達の正義の名の元に戦争を起こして破壊や殺戮を繰り返す、矛盾ありまくりの訳の分からん生き物だ――」
「…………」
「まあ、その人間様のおかげでこの俺が生まれてきたんだから感謝しないとなあ、クカカカ!」
皮肉たっぷりに嘲笑うショーエイに対しマナは何とも言えない気持ちになり表情が複雑であった。
「ショーエイにもう1つ聞きたいことがある」
「なんだよ?」
「シェナのことをどう思ってる?」
すると彼は目を瞑り「ふん」と微笑する。
「お前以上にイチイチうるせえケツの青い小娘よ」
と、そう答えた。が、
「まあしかし、あいつはただの気弱な泣き虫かと思ってたが、故郷が滅びたのに気丈に振る舞ったり俺相手に物怖じしないし意外な芯の強さがあるな。
それに道中でもお前のためにせっせと真面目に器用に働いてたし、それにお前が毒でやられた時も見捨てずに見事に治したし――それを含めたら、大人になったらいい女になりそうではあるな、俺がもし人間だったらあいつをモノにしてたかもよ?」
なんと彼の中では意外と評価されていた、というか興味がなさそうでちゃんとそういうのを見ていたことに対して彼女は驚いている。
「お前って意外と人を観察してるんだな」
「へっ、暇潰しにな。意外と楽しいぜ」
「じゃああたしはどんな風に思ってるんだ?」
そう聞かれるとニヤリと笑み、
「おちょくるのが楽しい奴」
即答するショーエイに対して思わず、
「おいキサマァ!!」
と、思わず叫ぶマナであった。
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