第25話 サンダイアルへ
エニル村を出発してから約1ヶ月後、三人がいる位置はスヴェーン区域。アルバーナ大陸の北側の区域で暖かいセイヴン区域とは違い、寒気が入りやすく冷えやすい土地であるが、レヴ大陸の王都バルフレアと比べたら遥かにマシである。
大陸中央にどっしりと構える大山、セント・エリアス山の影響を諸に受けやすい区域で、その最北にはマナの本拠地である王都サンダイアルがある。
「もう少しであたしの故郷、サンダイアルに到着するぞ」
「いやあここまで長かったですね。こんなにかかるとは思いませんでした……」
サンダイアルへの街道を馬車で進む中、中で疲れたのか「ふぅ」と息を吐くシェナに「大丈夫か?」と声をかけるマナ。
無理もない、本来なら澄んだ水と綺麗な空気に囲まれながら平和に静かに暮らしてきた種族なのだから初めて外界に触れて疲れないはずなどない、寧ろよくここまで弱音を吐かずに頑張ってこれたものである。
「けっ、俺なら速攻でこれたんだがよお」
愚痴を吐きながら馬車の横でビークル形態で平行して走るショーエイをジーッと見ながらシェナは、
「とことん本当に雰囲気に合わないことばかりするんだから全く……」
「まあ大人しいからまだマシかな。おいショーエイ、サンダイアルについたら――」
「うるせえな、何回も何回も言わすなこのボケ!」
「ショーエイ!!マナさんに向かってボケって言うなこのバカ!」
……正直、「本当に大丈夫なのか」と頭が痛くなってくるマナだった。サンダイアルはこれまで立ち寄った町や村などの比ではないほどの大都市でありアルバーナ大陸の中枢である。
そんな所でもしショーエイが殺人なり破壊なり何かやらかしたら……と思うと悪寒が襲う。
「サンダイアルについたらそれからどうするんですか?」
「私はすぐに王城に入ってサンダイアル王に結果を報告してこないといけない。シェナは空いてる部屋があるからあたしの家に入れ、自分の家のように自由に使っていいからな。色々落ち着いてからサンダイアルの都市を案内しよう」
「本当にありがとうございます!けどショーエイはどうするんですか?」
するとマナは手で頭を押さえて悩んでいる。
「問題はそこなんだよなあ。あたしの家にいれてもいいんだがシェナはどう思う?」
「……マナさんの頼みなら従いますが正直、ショーエイと二人きりはイヤですね……」
「だよなあ、あいつは絶対に大人しくしている奴じゃないし……かといって野放しにしておくわけにはいかないし――あの手でいくか」
「あの手?」
「サンダイアルにはギルドっていう色々な仕事を斡旋してくれる機関があるんだがショーエイを魔物駆除専門のギルドに登録するか。あいつなら間違いなくぶっちぎりでトップレベルにのしあがれるだろうが――」
「どうしたんですか?」
「ただ、あいつは強すぎてギルドの仕事を根こそぎ奪いかねない。間違いなくそれで生計を立ててる者達から反感を買いかねん。あそこはならず者や荒くれ者が多いからな、仕事を奪いすぎるとどうなるか――」
「……下手したら奪われたその腹いせに犯罪を起こされる可能性が?」
「そうだ。そこを懸念しているんだが現状はそこしか考えられん。あいつが本っ当にマトモだったらアルビオンの一員として推薦してやれて間違いなく入れるし、英雄になれるんだが……」
「アルビオン?」
「サンダイアルの東西南北を守護する精鋭の騎士団だ、あたしより遥かに強い実力者ばかりで構成されている」
「ま、マナさんよりもまだ上がいるんですか?」
「そりゃあ王都の防衛の要だからな。実はそのアルビオンの隊長の一人があたしの婚約者なんだ」
「へえ……マナさんの婚約者が………て!?」
思わず「ええーー!?」と仰天して飛び跳ねるシェナだった。
「こ、婚約者いたんですか!?」
「あ、ああ、まあな」
少し照れ気味なマナに興味津々に目を輝かせるシェナ。
「ど、どういう人なんですか?」
「あたしより強いのは言わずもがな、優しい男で頭もいい。シェナもきっと気に入ると思うぞ」
「あたしもぜひ会ってみたいです。その他の方々はどういう人なんですか?」
「アルバーナ大陸は共和制をとっているからアルビオンは基本的にリンカ族と亜人の混合部隊だ。その隊長達はあたしの旧友ばかりでみんないい奴だ。今度シェナにも紹介してあげるよ」
「ありがとうございます!」
「だが問題はショーエイだ、特にミルとレフィアの二人は絶対あいつを嫌うだろうな……」
「え……?」
「あ、いやなんでもない。そろそろサンダイアルに到着するから降りる準備をしろ。あとショーエイ、お前も早く人間の姿に戻れ」
「なんでだよ?俺そのままこの姿で突っ込みたいんだが」
「………………おいっ!」
「へいへい」
人間形態に戻り馬車に飛び乗る彼だが、人に指図されることをもの凄く嫌う割にはマナの言うことは渋々であれ、なんだかんだ従っているのは一応認めているからだろうか、それとも単なる気まぐれか……。
分岐道からサンダイアルへ向かう馬車や徒歩の人達が急に増えだしてくる。サンダイアルへもうすぐそこまで迫っている証拠だ。
「見えたぞ、あれがサンダイアルだ」
街道の先には高層ビルほどの凄まじい高さを誇る巨大な城壁が一体何キロあるのかと思いたくなるぐらいに左右に広がるようにどっしりと君臨する。シェナは顔を出して見て、「うわあ……っ」とその圧巻ぶりに言葉を失っていた。
「シェナ、あれで驚くのは早いぞ。中はそれ以上なんだからな」
「は、はい…………!」
一方、ショーエイは一目見ただけで「ふん」と言い放つだけだった。まあ彼は自身の世界でそれ以上の規模の都市を死ぬほど見てきたため当たり前か。
巨大な城壁の門に沢山並んでいる馬車や牛車や徒歩の人達は検問で危険物チェックや入国手続きをして通す度に門が開いたり閉まったりしている。
「少し時間がかかるがこればかりは仕方ない。待とう――」
するとショーエイは、
「なあお前、この国のエージェントなんだろ?だったら優先的に入れるんじゃねえか?」
「確かにそうだがあたしはそういう特権を使うのがどうもしょうに合わなくてね。それに前にレヴ大陸のスパイが入り込んだって言っただろ、それもあって今はそういう顔パスもできなくなったんだよ」
「けっ」
「す、スパイ……ですか?」
「シェナは気にするな。さあもうすぐだ」
20分程かけてやっと自分の番が来て検問所で衛兵がマナを見かけると、
「あ、マナ様お帰りなさいませ。セイヴン区域の巡察お疲れ様でした!」
「ただいま、そちらこそ調子はどうだ?」
「まずまずといったところですね。さてと、申し訳ないですが後ろがつっかえてますので早速調べさせてもらいますね」
馬車と荷物、三人達の身体をくまなく調べる。初めての経験かシェナは少しおどおどしている一方でショーエイはやはり不機嫌そうだ。
「ショーエイ、もう終わるから耐えろよ……!」
……そして何とか耐え抜き、検査が終わるとサンダイアルの門が轟音を上げて開門する。馬車は中に入ると……。
「う、うわあああああっ…………!!!」
シェナはその光景を見て絶句する。今までの村、街は本当に比ではないビルのような建造物が隙間なく立ち並び、まるで虫が涌いているかのような人集り、そして特筆すべきは蒸気機関ではあるが煙を出す機械が所かしこに使われており、色々な意味でこの国はアルバーナ大陸でもかなり異質の空間だと分かる――。
「ようこそ我が王都サンダイアルへ」
彼女は笑顔で二人を出迎えた――。
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