王都サンダイアル編

第24話 旅路

――シェナを加えた三人は王都サンダイアルのある遥か北へ向かっている。エニル村の一件で彼女が深く気を落としているのかと思えば――。


「キャーー!!何あれ、欲しい欲しい!!マナさん、あれは何ですか、教えてください!!」


思っていたこととは逆に、生まれてからずっとエニル村に閉じこもっていた鬱屈を晴らすかの如く、行く先々の村や街でこれでもかというくらいにはしゃぎまくるシェナに困惑するマナだった。


「こらこらシェナ、落ち着け!」


「あ、すいません……」


ただの村や街でこれだけ驚いていると大都市であるサンダイアルへ到着したら一体どうなるやらと不安になってしまう。


(……しかしまあ見る限り、落ち込んでなさそうで良かった)


村の件に関しては、あまり気落ちしてなさそうではありそこは幸いである――また、


「コラ、ショーエイ!マナさんの言うことをちゃんと聞きなさい!」


「うるせえな!なんなんだてめえは!?」


ことある事にマナではなくシェナが彼を叱りつけることが多くなった。まるで姉が色々やらかす弟を怒るように……と言えばいいのかわからないが。マナもそんな彼女に対して、


「シェナってこんな子だったのか……」


そう驚いたにちがいない。


「けっ、マナ以上にうるせえ奴がきやがって……!」


かなり不機嫌になるショーエイに対して、


「あたしも一緒に行動を共にするからにはマナさんばかり負担はかけさせたくないので心を鬼にしてショーエイ、あなたがまともになるまで徹底的に教育しますからね!」


「あー無理無理。諦めな」


「イヤです!」


しっかり者の彼女だからこそなのだろうがお節介すぎではある――。


「なあシェナ、あんまりやりすぎるとショーエイが――」


「マナさん、ショーエイを甘やかせたらダメですよ!だからこうやってつけ上がるんです!」


「けっ、まだガキのくせに大人ぶりやがってよ」


「そういうあなたは一体何歳なのよ?」


「へ、俺は生まれてからまだ一年も経ってねえよ!」


「一年!?じゃあまだ赤ん坊みたいなものじゃない!だからこんなに図体でかいクセにやることなすこと子供っぽいんだわ!」


「けっ、子供っぽくて何がワリィんだよ?このペチャパイクソ芋女が」


「な、なんですってえ!!」


「だああ!!お前らもうやめろおーー!!」


互いに火花を散らすショーエイとシェナの間に挟まれるマナは正直、頭が痛くなってくるのであった。


(はあ……しかしまあ賑やかになったもんだな。ショーエイは相変わらずだけどシェナが元気そうで何よりだ)


彼女は村長から太鼓判を押されていただけに、お手伝いや頼みごとなどは率先してやってくれて本当に助かっているのは事実である。


「うん、シェナの作るスープは本当に美味しいな。焼き魚も焼き加減が絶妙だし」


「えへへ……あたし、今度、またキャンプする時材料があったら焼きたてのブレッドも作ってあげましょうか?」


「え……そういうのもできるのか?」


「料理に関してはあたしに任せてください!」


野宿で夜営をする時も炊事や洗濯なども家事全般は彼女の独壇場であり、本当にテキパキと器用よく動いてくれる。そんな彼女にマナは凄く感心する。


(村長が言っていた通り、お節介な面もあるけど本当に良い子だ。この子を旅に連れていって正解だったかもな。だが……)


ある晩、夜空が綺麗に見える森の中でキャンプをしている時、キャンプファイヤーを囲む女性陣二人は仲良く話をしている。


「なあシェナ、村から出てしばらく経ったが待ち焦がれていた外の世界はどうだ?」


「いやあ……全て目に映る光景が新鮮で目まぐるしいぐらいです。旅に出て本当によかったと思います!」


「そうか、それならあたしも安心したよ」


パチパチと火花が飛び散る焚き火、どこかで「ホォ、ホォ」と鳴くフクロウ……溢れたいつも通りの夜営である。


「ところでショーエイは今、なにしてるんですか?」


「暇だから魔物や野生動物を探して一匹残らず狩ってくるって言ってたよ」


「……ショーエイって本当に血を見るのが好きですよね。一昨日も3日前もその前も、熊とかの動物を血祭りに上げて高笑いしてましたし……ホント、ドン引きしましたよ」


「まあ、少なくとも今はショーエイのおかげであたし達は魔物や野生動物からの脅威に守られているわけだしな。あのまま暴走せず大人しくしていればボディガードとしてはこの上ないんだが」


「しかもマナさんが言っていた通り、ご飯を食べないし寝ないしお風呂も入らないしオシッコもウンチもしない……根本的に生き物じゃないのがよく分かりますね」


「……やっぱりあいつはあたし達とは住んでいた世界が違いすぎるんだよ――」


――すると。


「それであたし思ったんですが、ショーエイって何でこの世界にきたんだろうって……」


「……………」


「彼の言っていることはよくわからないですが、要は気がついたらここにいたってことですよね。何でわざわざこの世界に――?」


偶然なのか、それとも何か意味があり彼をここに呼び寄せたのか――それは誰にも分からないままである、本人さえも。


「まあ、これだけは言えるのはあいつは今、全快ではないからこの世界を楽しんでるということだ。それまでに何とかしないと本気で世界を滅ぼしかねん――」


「何か方法はないんですか?」


「……あいつの戦闘力は正直、計り知れない。恐らくテラリアの民全員結集しても勝てるかどうか……」


「そ、そんなにですか……?」


「だから正直そのまま一刻も早く何もせずにここからいなくなってほしい。まああいつがいなくなったところで問題が山積みなんだがな、レヴ大陸のことがあるし――」


「……マナさん?」


「あ、いやなんでもない。それよりもシェナ、大丈夫か?」


「……大丈夫か、とは?」


「あんまり言いたくないんだがあたし、村の件でシェナが気を落としていると思ってな。見る限りはしゃいだり、ショーエイに対して気丈にふるまってるけどもしかしたら無理してるんじゃないかなってね……」


すると彼女は、


「……確かに、村がゴブリン達に滅ぼされてあたし以外全員殺されたことには本当に傷ついてます。今も村長さんや村のみんながゴブリンに殺されていく悪夢を見ては泣いたりします――けど」


「……けど?」


「村長さんが身代わりになってくれたのとマナさん、あと本人はその気はなかったにせよショーエイのおかげであたしは助かりましたし仇は取れました。

三人がいなかったら私も間違いなくやられてリィーン族は本当に全滅してました。

せっかく助かった命なんだから私はみんなの分まで精一杯生きなくちゃとも思えるんです」


シェナは大切なロッドを握りしめ、大事そうき抱き抱える。


「それにあたしにはお父さんが遺してくれたこのロッドがあります。まだ小さかったのであんまり覚えていないですが、感触、匂い、それがお父さんとの『繋がり』が少しでもある限り、私は決して一人じゃない――それに水神様もきっと見守っててくれる、だから寂しくないのかもしれません」


「シェナ……」


「それに今は私が一番尊敬するマナさんも一緒にいます、だから落ち込む気よりも凄く頑張れるんです」


と、ニッコリと満面の笑みを見せる。


「あと……ショーエイがああいう奴だから気落ちしている場合じゃないですからね。弱みを見せるわけにはいきませんよ!」


「ふっ……そうだな。けど無理はするなよ、ほどほどにな」


「はい!」


「さて、もう遅いしシェナはもう寝ろ――ショーエイはいつ帰ってくるか分からんし私がしばらく見張りをするよ」


「すいません」


地面にふかふかな紺色の布を敷き詰めシェナを寝かした。すると、


「マナさん、凄く失礼なお願いがあるんですが――」


「……なんだい?」


「……眠るまで添い寝してくれませんか?」


と、恥ずかしそうに言うシェナ。


「あたし、お母さんと一緒に寝た記憶がないので……ダメですよね?」


しかしマナは優しく微笑み、「かわいいシェナの頼みだ、いいよ」と答えた――そして二人は布の上で密着して横になりもう一つの布をかける。


「寒くないかい?」


「凄く暖かくて安心します……」


まるで幼い子供のように抱きつくシェナにマナは背中をトントンとさわるように叩く。

これまで凄くしっかりしていた彼女もこうして見るとやはり親にちゃんと甘えたかったのかと思える。


(シェナ、お前はあたしが必ず守ってやるから安心しなよ――)


しばらくするとシェナはスゥスゥと健やかに眠りにつく。マナも彼女に寄り添いながら優しく抱擁する――。


(あたしも落ち着いたら結婚するし、シェナがもし望むなら養子にするか。ロイスにもちゃんと事情を話さないといけないけど、あいつもこの子を絶対気に入るだろうから多分そこは心配ないかな――)


これからのことを考えている矢先――。


「お前らなにやってんだ?」


「しょ、ショーエイ――!」


気がついたらショーエイが帰ってきていて彼女は思わずビクッとなる。彼はジーッと見ていると段々と不気味にニヤついていた。


「な、なんだよ……!」


「いやあ邪魔したな、お前らそういう関係だったのか。俺はまた出かけるから気にせず濃厚なレズプレイ楽しんでくれよな、カッカッカ!」


そして彼は再びブースターを展開して二人から去っていった――しばらく静寂な時間が過ぎた後、固まった彼女は思わず、



《ちがあああああああう!!!!》



彼女の雄叫びが夜の森の中でこだました――。

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