第21話 襲撃②

「うああっっ!!!」


彼女は長剣を振るい、こん棒、ナイフ、骨や黒曜石を削って作成したショートソードを振り上げて木を掻い潜り、迫りくるゴブリン達を軽い身のこなしで踊るように次々とバッサリ斬り捨てていく――。


「炎達よ、絶対にこいつらを村に通すな!」


パチンと指を鳴らすとあちこちに配置した火球がトラップの役目を果たし、彼女を突破して村へ走っていくゴブリンに反応して小さい火球を放射、たちまち燃え上がらせる。


「これでもくらいな!」


彼女は左掌からドッヂボールほどの火球を形成して宙に浮かせると分裂して自分の周りに10本の矢状の炎へと変形して、手を振るとそれを合図に急加速して一斉にゴブリン達へ真っ直ぐ飛んでいき身体を貫通していく――。


「まとめて吹き飛ばす!」


マナは剣を地面に突き刺して、両掌ほどのこれまで以上の巨大火球を形成させ、それを地面に叩きつける。


「炎の嵐よ、悪しき者達を全て焼き尽くせ!」


次の瞬間、「ゴオオオッ!!」と前方一帯が巨大な火柱が立ち上がり、まるで津波の如く森林もろともゴブリンの大群を呑み込んだ――炎が止むと前方広範囲がゴブリン諸とも焦土と化した。


(森よすまない、本当にここで火は使いたくないのだが――できるだけ被害を最小限にしなくては……!)


それから彼女の剣技と数々の炎の魔法を駆使して10、20、30、40匹という凄まじい速さでゴブリンを撃破するも流石やはり彼女一人では多勢に無勢、圧倒的な人海に段々と押し込まれていく――。


(くそ……わかっていたが向こうの数が凄まじい。一体奴らはどれだけ引き連れてきたんだ……!)


火柱も含めて100匹は狩ったはずなのに後方からまだまだウジ虫の如く涌いてくるゴブリン達に彼女はもはや恐怖すら感じているがそれでも村に一匹でもいれたら終わりだと、彼女は火球トラップを定期的に形成しながらゴブリンをバッサリ倒していく。


「ぐっ!」


仕留め損ねた一匹が横に振り切った骨のナイフが彼女の露出した腹部をかすり、血がタラリと流れるも怯むことなく次は突き刺して確実に息の根を止める。


「はあ……はあ……ちくしょう……!」


流石に魔力も体力も尽きかけて膝をついてしまうが諦めるわけにも行かず、持てる力を奮い再び立ち上がり立ち向かっていくマナは果たして大丈夫なのだろうか――。


◆ ◆ ◆


一方、扉が厳重に閉められて静まりかえる村では各々の家では、村の外から聞こえる、マナとゴブリン達の死闘の轟音が聞こえてきており家族が互いに寄り添ってただひたすら村に何も起こらないように祈り続けている。

運命を受け入れると承知している村の者もやはり怖いに違いない、それすらまだ分からない子供なら尚更である。


「お母さんこわいよぉ……」


「大丈夫よ、水神様やマナさんが守ってくれるから――」


怖がる子供を宥める母子、掟を破ってまで家にある木の棒や包丁やナイフ、身近にある武器に手に取りゴブリンの侵入してくるのを待ち構える男性達。


そんな緊張と不安、恐怖が渦巻く村に突然――。


「ギギィアーー!!」


何と村の後ろを守る断崖の山の滝の上から雨のように村めがけて落ちてくる無数のゴブリン達。まさかマナもそこから来るとは思っておらず瞬く間にゴブリンに呆気なく侵入されてしまう――。


「―――――――!!」


地上へ降り立つとリーダーと思われる一匹から指示を出されて一斉に各家に襲いかかる――。


こん棒やナイフ、剣で家を力ずくで叩き壊そうとしたり、ドアを数人で体当たりして侵入しようとし、持ってきた松明に火をつけて家に投げ込んで放火したり……もはややりたい放題の極致であった。


「うわあ!!」


「助けてえ!!」


ゴブリン達の牙がついにリィーン族に襲いかかり女子供もろとも次々と武器で撲殺、刺殺、斬殺、噛み殺していく。放火された家では逃げ場を失い、絶望と恐怖に染まったまま火の中に消えていく家族も。

男性達も家族を守るためにただではやられまいと応戦するもやはり元々争いをしない種族であることが災いし、戦いの練度が圧倒的に上のゴブリンになす術なくやられてしまうのであった――。


「――――な、何だとお!?」


森の外で必死に戦うマナはなんと村がゴブリンの別部隊に襲撃されている騒音と悲鳴が聞こえ、仰天した彼女はまだまだ迫りくる奴らを無視し急いでその疲弊した身体を鞭打って村へ戻っていった。


(後方にも沢山潜んでいたとは……くそお!!)


自身の甘さを実感しつつも、それより今は村の方を何とかしなければならなくなり焦燥感でどうにかなってしまいそうになるマナであった。


◆ ◆ ◆


そして、村長宅でも既に無数のゴブリンに包囲されおり四方八方から攻撃され、破壊、侵入されるのはもはやすぐそこまで迫ってきていた。

村長はシェナにロッドと持てる限りの私物、荷物を持たせて家の端側にある地下の食料貯蔵庫に誘導して中に入れさせる……。


「シェナ、絶対に事が済むまで出てくるんじゃないぞっ!!」


「そ、村長さんはどうするんですかっ!?」


「私もそこに入るとゴブリン達に無人の家だと怪しまれて隅々まで探し回るかもしれない。だから――」


「…………………村長さん……?」


「……シェナ、本当の親ではないが私は今までお前と一緒に暮らせて凄く幸せだった、本当にありがとう。これからは自分のために生きてくれ、よいな!」


「そんな……そんなあ!!」


泣きわめくシェナを安心させようと優しく笑みを見せてすぐに彼は扉を閉めて、そばにあった布をかけて数個の壺を扉の上に置きカモフラージュさせる――。


「ギギャア!!」


その時、ついに家を破壊されて、壊した箇所から次々に侵入していくゴブリン達。そして居間でただ一人ポツンと立っている村長を発見する。


彼は抵抗する様子も見せず、さあこいと言わんばかりに大の字になった――幼いシェナを引き取り、義理の親ながらこれ以上にない愛情をかけてここまで育ててきた日々の記憶が目まぐるしいほどの走馬灯のように流れていきながら……。


「これもまた運命……シェナ、マナ、どうか無事でいてくれよ――」


無慈悲にもゴブリン達が一斉に彼に襲いかかりもう目を背けたくなるくらいに惨たらしく八つ裂きにされてしまうのであった――。


「ギギィ!ニヒィ!」


村長を討ち取り、勝ち誇るゴブリン達。その時、


「――――この外道どもがああああ!!」


ちょうど村長宅に駆けつけてきたマナはその凄惨な光景にこれまでにないほどの怒りを顕にして炎の剣を全力で振り込んで、炎の波動をゴブリン達に浴びせて一瞬で焼き殺し、灰にした。


「はあ……はあ……ちくしょう……っ!!」


息を荒らすマナは深呼吸して我にかえると見るも無惨になった村長の姿に彼女は――。


(私の責任だ…………っ)


村を、村人を、そして村長を守れなかった相当の悔しさ、やりきれない自身の責に押し潰されてしまいそうになるも、


「…………シェナは、シェナはどこだ!!?」


まだ彼女だけは見つけていない――この一握りの希望を胸に彼女はもはや廃屋同然の家の中をくまなく探す。シェナの名を張り上げて、なりふり構わず、そして家の端に置かれた布と壺の下からなにやら声がするのを感じる。布を軽くめぐると固く閉じられた地下食料貯蔵庫の入り口を発見する。


「まさか………!」


彼女は布と壺をどかして耳を澄ましてきくと女の子の泣く声が聞こえる……急いで扉を開けると。


「…………シェナ!」


そこには蹲くまりながら泣きじゃくるシェナの姿が――。


「シェナ!あたしだ、マナだ!もう安心しろ!」


マナはそこから降りて彼女を抱き抱えるが気が動転していて泣き止む気配が全くない。


「シェナ、よく頑張ったな。ほら、もう大丈夫だからな――」


まるで子供をあやすように語りかけ、彼女の頭を優しく撫でて抱擁する。しばらくすると――。


「…………マナ……さん……」


と、少しずつ我にかえり正気を取り戻していく。


「シェナ……落ち着いたか……?」


「マナさん……!!」


安心したのかぐっとマナを抱きしめて身体をブルブルと震わせながらまた泣いてしまうシェナ。


「本当によく頑張ったな……シェナ」


……ようやく彼女を落ち着かせた後、ロッドを含めた荷物共々彼女を貯蔵庫から引っ張り出すと、


「ここから避難するぞ。ゴブリン達がまだまだ迫ってきて危ない!」


「そ、村長さんは……村の人達は……?」


「…………………………………っ」


言い渋るマナに察した彼女はまた大粒の涙を浮かべて今にもまた泣き出しそうだ、すると。


「……シェナ、今は命のほうが大事だ。村長もお前が死ぬなんて一番望んでない、いや村のみんなだってだ!」


「…………………」


「行かないなら……私はお前を今ここで気絶させても連れていくぞ……!」


その真剣な目を見て、彼女の意思を感じ取ったシェナは涙をこらえながら「コクッコクッ」と頷いた。


「……強い子だ、早くゴブリン達に囲まれない内に村から脱出するぞ!」


……本当は一番心苦しいであろうシェナにこんな強い言葉はかけたくないのは山々だが身の危険が迫っている以上は仕方なかった。


「絶対に離れるなよ!」


シェナを連れてすぐに、破壊された壁の亀裂から飛び出して外へ。家の角からゴブリン達の行動を確認する。どうやら各家から食糧、金品などの戦利品を中央に集めているようで果てには勲章なのか村の人の生首を持ちながら喜びのダンスをする者まで……。


(くそ、なんて野蛮な奴らだ……………!)


奴らが気づかない内に裏側から脱出しようと回り込む――そのまま見つからずに村の出口に到着して森へ飛び出そうとした時、


「え…………?」


待ち構えていたかのように目の前に立ち塞がるは一匹の焦げ緑色の皮膚を持つ般若のような恐ろしい顔のゴブリン。しかし従来の子供のような大きさではなく身長4メートルを越えるまさに巨人の出で立ちであった。


「な……なんだこいつは!?」


突然、その巨大ゴブリンがマナ目掛けて張り手を放ち、咄嗟に避けれず彼女を突き飛ばしてしまった。


「マナさん!!?」


何度も地面に転がり泥まみれになり、ふらふらとなりながら立ち上がるも度重なる戦闘の疲弊と張り手のダメージが大きかったのか長剣を杖代わりにしないと立てないほどだった。


「生き残り、いたか」


なんとカタコトではあるが人語を解すこのゴブリン……他の奴らとは全く違う、恐らくこいつはこのゴブリン軍団のボスなのだろうか。


「お前、生娘、うまそうだ」


ゴブリンはシェナをその巨大な手で取っつかまえて勝ち誇ったかのように手を上げた――。


「イヤアアアアアアアアっっ!!!!」


「や、やめろおおっっ!!シェナを放せええーーっ!!」


彼女の声を聞き付けてすると村から、巨大ゴブリンの後方からゴブリンの大軍が押し寄せて彼女達を取り囲んでいく――。


「お前、逃げ場ない、死ね!」


すると巨大ゴブリンは息を深く吸い込み、一度止めると……。


「!?」


ゴブリンの口から大量の深緑色のドロドロした液体が噴水のように吹き出してマナに浴びせた。


「うえ……これは………っ」


すぐに噴水が治まるや否や、べったり液体まみれになった彼女自身に異変が……。


「ぐっ…………ああああああああ!!!!」


全身に激痛が走り、更に身体が麻痺したように動かない。その場でドサッと倒れてしまい液体溜まりの上で全身に血管が浮かび上がり「がはぁ」と呻き声を上げることしか出来ない。


(こ、これは……………毒…………!?)


『毒』と思い浮かんだ時、彼女は村長の言葉を思い出した。


『シェナの両親は森の中で毒のような液体を浴びせられて倒れていた』


(まさか……シェナの両親を殺したのは……!)


薄れゆく意識の中、確信した――。


「マ……マナさん……!」


毒溜まりに倒れて瀕死のマナにトドメを刺そうと群がるゴブリン達、自分もゴブリンのボスに捕まりもはや身動き取れないという絶望……シェナは思わず、




《だ………誰か助けてええええーーーー!!!!!》




声が枯れるぐらいに、山が響くぐらいに大声で悲痛の助けを叫んだ―――――――。




その時、


「ギギィ!?」


マナに迫った一匹のゴブリンの脳天から青白い光線……プラズマビームが貫通してその場で倒れ込んだ。


「ギ………?」


間を置かず、空からプラズマビームの雨が降り注ぎ、密集するゴブリンだけに直撃して内部から破裂し粉々にされていき――瞬く間にマナに群がったゴブリン、巨大ゴブリンの後方のゴブリン全ては跡形もなく綺麗さっぱり消し飛んだのだった。


「な、なんだ!?」


巨大ゴブリンとシェナはすぐに空を見上げて刮目すると、


「え………………」


空から流星のような何かがこちらへ落ちてきて地上に綺麗に着地するもの……それは。


「しょ、ショーエイ……さん……!?」


「よっ、帰ってきたぜ」


昼間にマナに啖呵を切ってどこかに消えたあの男、ショーエイが不敵な笑みをして今やっと彼女達の元に現れたのであった――。

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