第17話 対話

「シェナ……2年ぶりに見たが背が伸びてより綺麗になったな……!」


「私もまたあなたに会えることを凄く楽しみにしておりました……!」


マナも彼女の成長ぶりに凄く感心している。


「………………」


そんな中、ショーエイは相変わらずシェナにギロっとした目付きで見る否や興味なさそうにそっぽを向いてしまう。


「あ……………」


一方の彼女も初対面の彼に視線を向けると、思わず「やけに怖そうな外の男の人……」と感じてしまい緊張から息を飲んだ。


「シェナ、彼はショーエイ。あたしのボディガードをしてくれている」


「ボディ……ガード……ですか」


「まあ……見た目はいかついが……いいヤツ……ではあるから……」


「マナさん……顔ひきつってませんか?」


彼の本性を知っていれば間違いなく「いいヤツ」というは絶対に評価できないし彼女も分かっているが色々な意味で事を荒立てたくからか無理にでも嘘を通してしまうマナであった――


「ところで村長、あたしに話があるそうですが何か?」


「そのことについてなんだが、マナと二人で話をしたい。シェナと……ショーエイさん、二人は席を外してもらえないか?」


「分かりました」と言い彼女は部屋を後にした。


「ショーエイ……」


「おう、部屋から出ていけってんだろ?暇だし外をぶらついてくる」


「お前――!」


「わあってるわい、何もしねえよ。多分」


と、彼も部屋を後にするが彼女は何かしでかさないかと気が気でなかった……そんなやけに心配そうな彼女に村長は怪訝な表情を見せる。


「マナ、ショーエイさんがどうかしたのか?」


「あ、いえ、何もないですが……ところでお願いしたいこととはなんでしょうか?」


「それはな――」


◆ ◆ ◆


村長の家を出て、村を暇そうにぶらつくショーエイ。


「規模でいえば村というよりかは集落だな」


大自然と澄んだ空気、そして透き通る滝の水……ミラトレス銀河内でもこんな所は彼も見たことはなかった。

彼の頭に浮かぶ風景は、大開発が進んでいて高層ビルが立ち並ぶ超高度文明が裏付けされた未来都市、資源採掘用の大量の重機や機械が導入された結果、鉱毒による水質汚染や化学スモッグで大気など環境が破壊された惑星、そして戦火に巻き込まれて地形が変わるほどの大規模な被害や放射線、細菌、化学汚染で誰も住めなくなった惑星、中には惑星そのものが戦略兵器が投入されて消し飛ぶなど――それに比べてこの世界は文明レベルで言えば遥かに劣っているがこのような豊かな自然が溢れ、魔法というまやかし物の類が科学より発達している、とにかく自身のいた世界とは本当に真逆であると再認識する。


(やっぱ俺には似合わねえわな、こんな世界――)


行く先々、やはり村の人々はショーエイに対して子供達は隠れたり、大人はひそひそ話しながらチラチラ見てくるなど凄く警戒しているのがよく分かる。


(けっ、気味のわりい奴らだ)


仕方ない。ただでさえ余所者には排他的であり、さらにショーエイは身長190cm越えで顔も男らしさ抜群の強面であり、殺気と威圧感を持ち合わせた雰囲気を常に漂わせているためリィーン族でなくとも初対面でも相手を怯ませやすい。

それでなお彼の性分を知ってしまえばもはやそれ以降の付き合いはもはや「お察し」である。


彼も正直、こんな世界に居座る気は更々なく早く自身の残りの2基の動力炉を直り次第この世界を破壊して宇宙に上がりたいと考えてるがプラズマ反応炉だけでは、世界を破壊すること自体はともかく宇宙空間航行するにはあまりに役不足過ぎる。


なので大人しく自身の内部を修復するナノマシンの働きに期待するしかないのだ――。


「あ~~あ、誰でもいいから殺してえ……今すぐにでもこの村消してやろうかなあ」


そんなとんでもないことを彼は考えながら村の中央の滝壺に落ちる滝の水をボーッと見ていると、


「あなた、ショーエイさん……でしたっけ?」


「あ?」


後ろを向くとシェナがいた。彼女はびくびくしながらも何か聞き出そうにしている。


「俺に何の用だ?」


と、そっけなさそうに聞くショーエイ。


「村の外から来たんですよね……あたし、実は外の世界に凄く興味あって……マナさんから色々聞いたりしているんですがもし良ければショーエイさんからも話を聞きたくて……」


と緊張しながらそう話すシェナに彼は「けっ」と吐き捨て、


「やだね」


即答だった。


「ど、どうしてですか……?」


「外の世界云々以前に俺、この世界の人間ではないぞ。てか人間ですらないがな」


「え……?この世界の人間じゃないとは……」


「お前、どうやらこの村から一回も出たことないな。そんな世間知らずの箱入り娘に俺のいた世界について話してもあいつ以上に理解できんだろ」


と、冷たく返すショーエイに対して、


「け、けどむしろ凄く興味が湧きました。どうかあなたのいた世界について教えてほしいです、どうかお願いします!」


「………………」


彼女の懇願に負けたのか、彼は「ちっ」と舌打ちしながらも仕方なく全てを話した――。


「どうだ、分かったか?」


「……………………………」


彼女の頭から煙のようなモヤが出ていて混乱している……理解が追い付かずオーバーヒートしているようで「だから言ったろ」と彼は呆れていた。


「……何がなんだか全く理解できないですがとりあえず私達の知るような世界とは全く違うことがよく分かりました……ありがとうございます」


シェナは感謝で頭を下げる。すると、


「そんなに外の世界が気になるなら村から出ていきゃあいいだけの話だろ?なんでしねえんだ?」


その質問に彼女は、


「それはその……何て言うか……あたし達リィーン族は基本的に村から出ること自体ありえません。私達は水が綺麗な場所にしか生きられません……ここと同じような清らかな水がなければ――」


「なら死ぬまでこの村にいるしかねえな、諦めるこった」


……身も蓋もないが確かにその通りである。


「マナさんやショーエイさんが羨ましいです。自由に世界を歩くことができて……あたしも正直外の世界の旅に出てここにはない物を見てみたいし人達と交流してみたいんです」


ショーエイの横に移動し彼女も滝を眺めながら、


「けど、断じて言いますがこの村が嫌いというワケじゃないんです。私だってリィーン族としての誇りがあるし、これからも村長さんのお役に立てればいいと思っています」


「村長さん?あれお前の親じゃねえのか?」


それに対して彼女は、


「あたしをここまで育ててくれたのは村長さんなんですが本当の親ではないんです。実はあたし――親がいないんです」


――ボソッとそう答えた。


「私、両親のことは正直あまり覚えていないんです。物心つく前に外の魔物によって殺されたらしくそれで村長さんが進んで私を引き取ってくれたんです――だからあたし、ここまで無事に育ててくれた村長さんに感謝しかないんです」


自身の過去を打ち明けるシェナに対してショーエイは、


「ふーん」


と、重い話にも関わらず相変わらず興味なさそうに答えている。


「ショーエイさんのご両親は今なにしてるんですか?」


「親?いねえよ」


「え……まさかショーエイさんも……」


「いいや?俺がこの手で全員ぶっ殺した」


どストレートでそう返すと彼女は「え……?」と当然の如く、凍り付けにされたように固まった。


「な、なんで……………?」


「ムカついたから」


――たったその一言だった。


「あなたは一体…………?」


「お前、俺がどんな奴か知らねえようだが俺は人殺しが趣味なんでな。甘く見てると酷い目みるぜ?」


「この人は一体何を言っているの……?」と困惑するシェナに、ニィと歯を見せつけた歪んだ笑みを向ける。


「言っとくが今は俺は不調なんで一応、大人しくしているが俺が全快になったらこの世界もろとも全員皆殺しにしてやる。マナは勿論、お前もこの村全員もな……!!」


とんでもない事実を聞かされたシェナは次第にガタガタと震えている。当然である、マナのボディガードと聞いて安全な人なのかなと思いきや、寧ろとんでもない悪人だったことに――。


「それまでせいぜい短い余生を楽しく過ごしな。いつ全快するか分からねえからよ?クカカカカ!!」


彼女は堪らずそこから一目散に走り去っていった。彼は彼女の後ろ姿を見て「へっ」と吐き捨てた――。

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