第15話 謎
両肘、両踵のブースターを噴かしながら約200メートルの高さを時速100キロで維持して空中航行するショーエイと腕を彼の首に回して必死にしがみつくマナ。
「ショーエイ、街の様子はっ?」
「……俺が破壊する前の状態のままだ。未だに信じられねえがな」
一体どういうことが起こっているのか……マナは彼が嘘をついているのかとも思えてしまうが、とりあえず帰れば分かることだと。
「ショーエイ、もう少し早く速度を上げても大丈夫だぞ」
と、彼女がそう言うとショーエイはニィと笑い、
「そうかい!」
次の瞬間、両脚の膝窩から新たなブースターを展開させて点火、時速100キロ近くから一気に300キロに上げて彼女はまるで暴風に晒されて吹き飛ばされそうになる。
「しょ、ショーエイ!そんなに上げろとは言ってないぞ――!!」
焦りに焦るマナに「クカカカカ!」とからかうように笑った。それにしてもこの男、凄まじい火力を持っていながら空も飛べて、さらにビークルという変な姿になれる彼にできないものはあるのかと彼女は思った。
……なんやかんやで二人はハーヴェル上空に到着すると。
「……やはり何事もなかったかのように街が元通りになってやがる」
「……………」
彼は街の門の手前に着地し、彼女を降ろすと二人は横に並んで前を見る。
彼の放ったプラズマ・ブラスターによる大クレーターが綺麗さっぱりなくなっておりそれどころか街は普段の夜の通り、ちょこちょこと街灯の魔法のランプからの淡い光と家の中からの光、出入り門にはちゃんと衛兵が松明を持ちながら守っている。
「とりあえず街に戻ろう」
二人は急いで門の前に行くと衛兵に止められるが、
「ま、マナ様!?今までどこに行かれてたのですか!?皆が血眼で探してましたぞ!」
「す、すまない。ちょっとワケがあってな……このショーエイが私を探しにきてくれたんだ」
「そうでしたか、詳しい話は後ほどにして今は保安官達に無事を知らせてください!」
二人はすぐに街中に入り、保安所に行くと待機していた保安官達が無事に戻ってきた彼女に仰天し、歓喜しながら寄り添った。
「よくご無事で、私達は心配しましたぞ!」
「いやあすまなかった……ところで皆のほうは大丈夫だったのか?街が破壊されたと聞いたが」
「街が破壊……はて?そんなことは起こってませんが……?」
……保安官達から話を聞く限り、どうやらショーエイがライルの部下達、ゴーレムと戦いショーエイが街を破壊したという記憶が全くないようだ。
つまり保安官の一人がショーエイの元に訪ねて憤慨して帰っていった時の記憶までしかなかった。
「あんた、何だかんだやっぱりやるじゃないか!見直したよ!」
例の保安官からご機嫌でバンバンと背中を叩かれながら褒められるショーエイは相変わらず「けっ」と吐き捨てて保安所からそそくさと出ていく。ちなみに、
「ところでマナ様はどこに行かれてたのですか?」という問いに、
「ちょっと街の外に気になったものがあってな……探索していたが怪しいものが全くなかったが思ったより時間を食ってしまってショーエイが探しにきてくれた」
と、即興で言い訳する。
保安官達は「こんな夜更けで門を通った形跡がなくどうやって外に出たのか?」とふと疑問になったが彼女がとにかく無事だったということ、これ以上の深追いをすることはなかった――。
……夜が開けて、その日は酔っぱらいの喧嘩の仲裁や保護、迷子などの日常でも起こりそうな小さな事件があったばかりで昨夜ののような大したこともなくいつも通りの今日だった。ただ、マナと特にショーエイは、
「一体、街に何が起きたんだ?」
不可解な現象に頭を悩ませることになった……。
◆ ◆ ◆
ここはレヴ大陸最北に位置する標高7800メートルのあるドゥオド山地。
厳しい環境ばかりのこの大陸でも、一年中マイナス100度以下という一番過酷な環境下に晒されており入ってた者は誰一人帰ってきたものはいない『不可侵域』。
雲を突き抜けたその頂上は清々しく晴れ切っており静寂に包まれて不気味なくらいである。そんな頂上の末端では二足歩行で立つ巨大な生物が下界を眺めている。
「…………………」
左右にそれぞれ3羽が展開された、見事に正六角形の神々しい6羽の黒い翼、恐竜のような怖くも勇ましさを感じさせられる硬い鱗を持つ爬虫類の姿。
その全長、全高共に裕に100メートルは越え、人のように二足歩行で堂々と仁王立ちするその威圧感、この世界にて遥か太古から生きていると言われる『竜(ドラゴン)』と呼ばれる伝説の生物だ。
「下界は不安と恐怖からの暗黒に満ちている――」
重低音の響くその声……人語を解すところを見ると相当の知性を持っていることが分かる。
「近い内、この世界はかつてない厄災に包まれる。300年前、魔界を復活させようとしたこの国が長き眠りの末再び活発化している……」
竜は長い年月を経てその再来が訪れるかもしれないと懸念しているのか――。
「我もその時に備えて力を蓄えておかねば……それにしてもあの男――」
竜の視線はショーエイの姿をしっかり捉えていた。
「今回は特例だ。何者かは知らんがこれ以上目に余る暴虐を繰り返すようなら我が直々に――」
と、明らかに敵対視するその鋭い眼をショーエイに向けていた。
◆ ◆ ◆
「………………」
宿の部屋でショーエイは何か考えている――街が復活したという事実がまだ受け入れられないのか……と思いきや。
「街が復活したってことは何回ぶっ壊してもいいんじゃねえか!!」
と目を輝かせて大歓喜していた。ちなみに後でマナにそのことを話したら「命と物を粗末に扱うな!!」とこっぴどく叱られたことは言うまでもなかった。
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