第14話 対峙⑤
「そこまでだ!」
「あ?」
背後から男の声がした。振り向くと誰もいないが「ザキィ!」と何か身体に斬られた感覚を味わうショーエイ。しかし全く傷はない。
しかしよく気づいたら首根っこ掴んでいた手からライルの姿がなく周りを見渡すがどこにもいない。あるのは祭壇に縛られた、気絶するマナがいるだけだった。
「なんださっきのは?」
生体反応を探ってもこの遺跡で確認されるのはマナだけでライルの生体反応はきれいさっぱり消えており流石のショーエイもこればかりはどうなっているのか理解できず。
◆ ◆ ◆
レヴ大陸、王都バルフレア地下。まるで瞬間移動の如く、苦しそうなライルを担ぐクリフは仲間の元に帰ってきていた。
「大丈夫か!」
「しっかりしてライル!」
「ゲホゲホっ」と咳き込んで蹲り苦しむライルを介抱するクリフと紅一点のミディア。
「くそ……あのショーエイって野郎、一体何なんだよ……」
「これを見ろ」
やっとの思いで立ち上がるライルはクリフの言われた通りに目の前の水晶の中を覗く。そこにはオール・ゴーレムとの戦いで空を飛びながら圧倒的に戦い、そして街を破壊し、ビークルモードで地上を凄まじいスピードで爆走して遺跡に到着、そしてズゥを灰に変えるまでの一部始終の映像が映されていた。
「………………」
「どうだ、これを見てもまだ信じないか?」
ライルはやっと二人の言ってたことが理解できた。見たことのない兵器と機能で街を消し飛ばし、初めて見る乗り物のようなビークル形態で地上を爆走するショーエイ……そして次第にこう思い始めた。
「こんなふざけたとしか思えない男がなんでこの世界に突然現れたんだ」と。
「アルバーナ大陸を攻める前にこいつをなんとかしないといけない気がする。常闇の宝玉を取り返すどころか俺達全員皆殺しにされるかもな――」
と、クリフは冷静にそう言う。それよりもライルは恐怖よりも苛立ちが勝っていた。突然現れた謎の男にここまでコケにされたことに。
「ち、ちくしょおおおお!!!ふざけやがって!!!!なんなんだよ一体っっ!!!」
地団駄を踏むライルに対して、仲間の一人である謎の人物、アンジがスッと彼らの元に現れる。
「……やはり彼、ショーエイは人間ではありません。正直、今の段階だと素性すら分からない状況。だとしたら彼は最重要危険人物として今後も動向を監視し、強く警戒すべきと思われます」
と、そう進言するアンジ。すると、
「ウフフ……ならそのショーエイちゃんをあたし達の仲間に引き込んでみるってどうかしら?」
そう閃き、妖美で艶やかな笑みを浮かべて言うミディア。
「あれだけ強大な力を無事にこちら側へ持ってこれればあたし達は宝玉を手に入れたも同然。それだけの利用価値は彼には間違いなくあるわ」
「ミディア、できるか?」
「あら、あたしは誘惑と洗脳、操ることに長けた『魔女』。不可能なんてなくてよ?」
と、得意げのミディアにライルは「ちっ」と難色を見せる。
「けっ、ミディアなら確かにできそうだが俺はあいつを仲間にいれるのは反対だぜ、あんなクソ野郎」
「だが確かにヤツをこのまま野放しにしておくよりはこちらの掌握下に置いておいたほうが確かにいいかもしれない。全てが終わった後のショーエイの処遇はそれまでに考えておこう。最も、あいつがこちら側に来る前提の話だが――」
「来なかったらどうするんだよ」
「あいつはこのテラリアの癌になりうる存在だ。どの道消えてもらう」
と、そう告げる冷静沈着なクリフの眼からは凄まじい殺気がこもっていた。
「まあアタシはショーエイちゃんに個人的な興味があるの♪︎下僕にしたらあんなことやこんなこと……ムフフ♪︎」
明らかにイヤらしい考えをしている彼女にライルは「げえ……」と気持ち悪さを感じていた。
「ところで――さらに不可欠な現象が起こっている。これを見てくれ」
水晶の画面が代わり、全員が注目する。
「こ、これは……っ」
アンジ以外の全員が信じられない表情をしている。そのワケは……。
◆ ◆ ◆
一方、ダガール遺跡。何があったか分からないショーエイだが、とりあえずマナの両手両足に繋がれた錠輪を力ずくで壊して彼女を解放する。
「おい、起きろマナ」
頬をペチペチはたき彼女を起こそうとすると「うう……げほっ!げほっ!」と呻き声を上げて、意識を取り戻していく――。
「お、やっとお目覚めか」
「え……あ、あっ!!ショーエイ!!?」
彼女はびっくりしてそこから飛び起きた。
「おう、助けにきたぞ」
「助けに来たって……あの男は?」
「さあな。殺そうとしたら突然、後ろから声がしてな――」
何があったか話してもマナは勿論ショーエイでワケが分からない。すると、
「ところでよ、お前死ななくてよかったぜ」
「え……………?」
突然、彼からの言葉とは到底思えない驚きの心配の投げかけに彼女は心外すぎてその場で固まる。
「ショーエイ……あんた……まさか」
まさか人間としての感情を覚えたのか――だとしたら間違いなく歴史的快挙も同然の出来事である。あんな殺戮と破壊しか考えてなかった男が労るという感情が芽生えたのかと彼女は感動で溢れそうになる――が。
「お前は俺のフルパワーに戻った時の血祭り第一号なんだからな、他の奴らに殺られたらどうしようかと思ったわ、ワハハハハ!!」
「…………………………」
……やはり変わっていなかった。淡い期待をした自分が馬鹿だったと思い知る彼女だった。しかし、彼に助けられたことには変わりない。
「ショーエイ、ありがとうな」
と、礼を言うマナに対してショーエイは、
「礼はいらん、俺には何の役にも立たん」
と、ぶっきらぼうに返した。まあ、そんなショーエイらしいとも彼女は納得する。
「そういえば街は……街は大丈夫か?」
その質問にショーエイは鼻をほじりながら、
「街?ああ、俺が消し飛ばしちまったわ」
「な……………っ」
……彼女はその場で凍りつく。恐れていた事態が現実になったことに。
「あいつの仲間となんか鉱物でできた魔物が襲ってきてな。仕方ねえだろ、俺そういう加減できねえんだから」
「…………………」
彼女はその場で自失しへたり込む。まあ当然といえば当然だが――。
「まあ落ち込むなって。この世界はまだまだ人間がいるだろ?そんな数百人しかいない街が消し飛んだって大したことないだろう……ん?」
するとショーエイは生体反応ソナーに何かを感じた。ハーヴェルのあった場所に沢山の生体反応を確認。これは破壊される前、街に住む人口と全く同じである。
彼はすぐに視点のズーム倍率を上げて確認すると……。
「どうなってんだこりゃ……?」
あのショーエイが驚愕して信じられないような表情だ。そのワケとは。
「街が復活してるだと……?」
「…………えっ?」
茫然自失していたマナはその驚きの言葉に反応して、立ち上がった。
「街が復活って……どういうことだ!?」
「俺でも分からんが……とりあえず帰るか」
「あ、ああ……!!」
ショーエイが確認した限り、破壊した街が元通りになっている。そんな怪奇現象が謎を呼ぶ。二人はすぐさま遺跡から飛び出す。
「マナ、俺の上に乗れ!」
と、ショーエイは再びビークル形態になり、初めて見た彼女は目玉が飛び出すほど驚愕した。
「な、なんだこれは!?」
「はよ乗れ、置いていくぞオラ!」
正直、彼女は躊躇っている。ショーエイと言う大男がまるで見たことのない姿へと変形してさらにその上に乗れと言われても恐怖と不安、何より何か恥じらいも感じてしまう。
しかしハーヴェルまでここから遥か100キロ遠く、すぐ帰るには彼に従う他はない。
「わ、わかった……」
顔を赤めらせて恐る恐る跨ぐようにショーエイの上に乗っかる彼女は普段のような忽然で勇敢な女戦士からは想像できない姿だ。間違いなく他の人達に見せられない姿だろう。
「行くぞ、しっかり掴まってろよ!」
「えっ……ちょ――」
次の瞬間、ショーエイは急発進。凄まじいスピードに当然マナは耐えられず弾き飛ばされて地面に叩きつけられしまった……。
ショーエイはスピードを緩めて引き返すと彼女はぐったりしているが息はありなんとか無事みたいだ。
「けっ、人間って本当に軟弱だよなあ。あれくらい耐えられねえのかよ」
よろよろと立ち上がると彼を睨み付けるマナ。
「貴様……あたしじゃなく他の人だったら間違いなく死んでるぞ……っ」
「ちい、しゃあねえな」と人間態に戻るショーエイは背を向けて、
「一気に飛ぶから俺の背中に掴まれ」
彼女に催促すると彼女は「なら最初からそれでやれ!」と心からそう思ったに違いない――。
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