第13話 対峙④
ハーヴェルから西側100キロ地点にあるアリア草原地。古代リンカ族が住んでいたとされる地だが今は久しからず、少しの遺物が残されているだけでその名残はほとんど残っておらず、草食動物が住んでいるのみで人気は全くなくそこが犯罪者達には絶好な密会場となっているのかもしれない。
「ここか」
優しくも不気味な生暖かい夜の風になびく草が生い茂るアリア草原。そこにはこの世界に明らかに場違いにも程がある未来的なフォルムのビークル形態のショーエイは雑草をタイヤで踏みにじりながらゆっくり侵入していく。
「さあてっ」
車体の左右からショーエイの腕が「ガシュ」と飛び出すとすぐにプラズマビーム砲へと変形、狙いを前方に向ける――。
【両腕部プラズマビーム砲、発射――】
左右の砲口からプラズマの光線ではなく光弾を右、左、と、リズムよく連射しアリア草原地にばら蒔くように撃ち込んでいく。撃つ度に車体がガタガタ揺れるも彼はなお砲撃する。
「ズドォン!ドゴォォオ!」
と、穏やかだった草原が穴だらけになり見るも無残な光景となっていく。
「うおあ!?」
当然、その草原のど真ん中にあるダガール遺跡にもその衝撃は届いており、ぐらぐら揺れる遺跡と着弾の轟音にライルはたじろぐ――。
(もしやショーエイってヤツの仕業か……?)
しばらく撃ち込むと砲撃を止めて、その場でビークル形態を解除して人間態へと戻るショーエイは目の視点倍率を拡大して遺跡を発見、口笛を吹きながら我が物顔で遺跡へと歩いていく。
(マナの反応が近い。あの遺跡の中か――それにもう一人の生体反応、奴らの言っていたボスってヤツか)
と、その時、ショーエイは立ち止まる。彼の視線の先には何かこちらへ向かってくる、全身が黒い巨大な鳥の姿が――。
「……へっ、いいねえ。今日はとことんついてるな」
「ガァーっ、ガァー!!」とカラスのような不快になるしゃがれた鳴き声をする謎の怪鳥がショーエイの前に立ちはだかる。
「でけぇ鳥か、俺が人間なら焼いて食ってやりてえんだがな」
『ズゥ』。死者の魂を冥界に連れていく使者と畏れられている夜の魔物である。おそらく先ほどの無差別砲撃で誘き寄せられたのであろう。
「来いやあ!」
「グアア」と鳴くズゥはその直径20メートルはあろう巨大な翼を力強くはためかせると羽が数十枚ほど取れてはためく風の推進力を利用して尖った部分をショーエイ目掛けて放った。
しかしショーエイは仁王立ちのまま避けようとせず受けようとしており、まるで弾丸のような速さで羽が地面に突き刺さり、ショーエイにも直撃するも案の定、弾かれる。
「グェー!!」とズゥも全く通用してないショーエイに対して焦ったのか、今度はショーエイを食ってやろうと言わんばかりに目掛けて突進を開始。その巨大な口を開けて彼一直線に向かってくる。が、彼によってその巨大な頭を両手でガッチリ取り押さえられてしまった。
「残念♪︎」
「ぐ、グェー!!?」
しかし流石の彼も十メートル以上も後ろへ摺り押し込まれるも倒れることはなく。
「文字通り焼き鳥にしてやらあ!」
ショーエイの右掌中央から発射口のような穴が開き――。
【エミル・エズダ発動。プラズマ超高熱を右掌に一点集中――】
次の瞬間、密着させている右掌の発射口から3万度を裕に超える高熱波が零距離で照射され、ズゥは燃えるどころか一瞬でその巨大な身体が灰になり、風によって空高く飛ばされてしまった――。
「焼き過ぎて焼き肉どころか灰になっちゃったわ、ワハハハハ!」
彼の笑い声がこの真っ暗な草原にこだました。
◆ ◆ ◆
「……来たか!」
遺跡内で外からのショーエイの笑い声を耳にし、今か今かと待ち構えるライル。少し冷や汗が流れる彼にはまだこちらには人質のマナというカードがあるということで優位に立とうとしていた。
(いざとなりゃあ、この女を盾にもできる。いつでもこいや……クックック……)
しばらくするとコツ、コツ、コツ、と石の床を歩く靴の音が大きくなっていく。そして暗闇の通路から松明の光が見えて、ライルのいる祭壇の場にショーエイが到着する。
「あんたがマナの言ってたショーエイさんかい?」
「あ?なんだお前?」
ついに二人は対面する。祭壇に寝かされたマナの横でニヤニヤするライルと無表情のショーエイ……。
「この女から色々聞かせてもらったぜ、あんた相当の狂人みたいじゃねえか。あんたマナを助けに来たんだろ、返してほしければ――」
しかしショーエイは次の瞬間、右腕をプラズマビーム砲へと変形させて、
「…………は?」
ライルが脳が今の状況を理解する前にショーエイは彼の真横に小出力のプラズマビームを放ち、通り抜けて後ろの石壁を貫通していく。
「ありゃ、外しちまったぜ♪︎」
「……………」
流石に余裕ぶっていたライルですら肝を冷やした。マトモに話をしようとする前にいきなり攻撃されたのだから――。
(な、何が起こった……?)
しかも腕がいきなりグニャリと姿を変えて青白い光線が自身の真横を掠めていったのだから当然である。
「お、おい。マナのヤツがどうなってもいいのか――!」
しかしショーエイは一瞬でライルの懐に飛び込み、首根っこを掴み上げた。
「ぐ、ぐおおっ!!?」
何がどうなっているか分からない、こちらの言い分を主張する前に形勢が逆転されてしまった。
「け、余裕ぶっこいていたからさぞかし大層なヤツかと思ったがこの程度かよ」
(な、なんて馬鹿力だ……!?)
狂気じみた笑みでニヤニヤするショーエイ。今まで味わったことのない、明らかに人間ではない強烈な力を感じてライルは今すぐにでも抜け出そうと踠くが全く意味をなさない。
「そう言えばよ。あの4人組はお前の仲間か?あいつらもろとも勢い余って街を消し飛ばしちまったよ」
「……………!?」
「楽しかったぜ、街の人間がゴミのように跡形もなく消し飛ぶのが心から愉快すぎてなあ、クカカカカ!!」
こいつは一体何を言っているんだ……明らかに人間の思想からかけ離れた発言にライルは困惑する。
「まあいずれこの世界そのものを俺が全て消し飛ばしてやるから楽しみにしとけよ」
「てめぇ……何者だぁ……?!」
「俺は『メルカーヴァ戦略機甲生体兵器XTU‐001』、ショーエイだ。人殺しをするためだけに造られたナイスガイだよ、冥土の土産に覚えておきな!」
彼を絞め殺そうとショーエイの握力がじわじわと増していき、意識が遠退いていくライル――マナやクリフの言っていたことは本当だったとやっと理解する。
「こいつは色々な意味で人間ではない」と。
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