第10話 対峙①

ハーヴェルの西側約100キロ近く離れたアリア草原地にポツンと佇むダガール遺跡。古代リンカ族が宗教の場として利用していたとされるが定かではない。

幽霊や魔物が徘徊すると噂されており一般人は誰も寄り付かないが実はそれを理由に犯罪者やならず者の密会場にもなっている不気味な場所である。その遺跡の最奥。祭壇と思わしき岩の台には両手両足に鉄の錠輪を取り付けられて大の字に寝かされているマナの姿が。


「う…………っ」


ふと彼女は目を覚ます。おぼろ気な瞳がどんどん治っていき聡明になると、「はっ!」と周りを見渡すと部屋に設置された四方の松明の火が燃えており、なりより身動きが一切取れない自分の状況がすぐに分かった。


「よう、目が覚めたな」


暗闇の奥からあの男、ライルがのっそり現れて相変わらずの下品な笑みを浮かべている。


「貴様……何者だ!?」


「別に名乗るほどの者じゃないさ。まあ強いていうならレヴ大陸から来た男、とでも言っておこうか」


「……あんたがあいつらの言っていたボスか?」


「そんなとこだ」


ニヤニヤしながら彼女の真横に立つライル。


「ここはどこだ!」


「あんたがいた街からかな~り離れたダガール遺跡よ」


「ダガール遺跡だと?一体どうやって街からこんな遠くにまで――?」


「まあ俺にかかればこういう芸当は可能なのさ、クククッ」


彼女は今から何をされるか分からない不安感からがしゃがしゃと錠輪を動かすが当然、外れることはない。


「そんな怖がることはないさ。別にあんたのその色っぽい身体を好き勝手したい訳じゃない、ちいと聞きたいことがいくつかあってな」


「き、聞きたいこと……?」


「ああ。素直に答えるなら終わったらその場で解放するさ、だが嫌なら痛い目にあってもらうがな。まああんた次第だ」


……そういう奴に限って約束は守らず絶対に解放したりしない、寧ろ始末しにかかるだろう、と彼女は恐らく分かっていた。


「まず一つ目、変な格好をした大男があんたの連れにいたろ?あいつは何者だ?」


「し、ショーエイのことか……?」


「ショーエイ、それがあいつの名前か。で、ショーエイさんはあんたとどんな関係なんだ?」


「……知らん!」


ライルは「へっ」と微笑はする。


「おいおい知らんはないだろ。あんたらは一緒に行動してたんじゃないのか?」


「本当のことさ。あたしだって最近レーヴェで初めて知り合ってから色々なことがあって今は行動を共にしているだけだ」


「ほう、まあそのショーエイさんも俺の部下に連れてくるように言ったから楽しみにしてな」


それを聞いたマナは大量の冷や汗と目の色を変えて凄く焦り出す……。


「おいちょっと待て!まさかショーエイに何か仕掛ける気か!?」


「おう。拒否れば殺すだけだがな。今頃は拘束されて連れられてるか無残に殺されてるかもな」


「この大バカ野郎!!今すぐ部下達を殺してでも止めさせろォォっっ!!」


一転して、性格が変わったかのように怒号を張り上げる彼女はライルも「はあ?何いってんだこいつ」と怪訝な表情を取る。


「何をそんなに怖れてる?そんなにあいつが危険に晒されるのがイヤなのか?」


「あたしが心配してるのはショーエイじゃない、街のことだ!!」


「……街のこととはどういうわけだ?」


「お前……下手にショーエイを刺激してみろ、今に恐ろしいことが起こるぞっ!」


「……何を言ってるんだお前は?あいつが何かしでかすとでも?」


「あいつは……人の皮を被った正真正銘の悪魔だ!」


何を言い出すかと思えば、とよほど可笑しかったのか静かに笑い出して次第に「ハハハハハ!!」と高笑いに変わった。


「悪魔……あいつのどこが悪魔なんだよ?確かに図体はでかい強面の男って意味では悪魔だがよお」


「笑い事じゃない、あいつは、あいつは……!」


確かに彼はその意味を今は知らないがすぐにそれを思い知ることになろうとは――。


◆ ◆ ◆


時間は遡ること、マナがライルに誘拐されてからしばらく時間がたった後――深夜。ショーエイは宿の部屋のベッドに座り、自分の身体の修復状況をモニタリングして調べている。


(――プラズマ反応炉、身体の各部位の修復率94%……これなら夜が明けるまでには完了するな。後の残りは流石にまだまだかかるか――)


彼は「はあ」と珍しくため息を吐いてベッドに寝っ転がる。


(これ下手したら全快は数ヶ月以上かかりそうだぜ。バィアスのメディカルマシーンを使えば一瞬で治るんだがなあ。そもそもプラズマ反応炉だけじゃ惑星内はともかく宇宙間航行はまだ無理だな、ワープも使えねえし――)


しかし直らないものはどうしようもないこと、ただ早く修復されることにナノマシンの性能を信じることしかできなかった。


口笛鳴らしながら上を見上げていると。


「コンコン」


とドアをノックする音が。彼は面倒くさそうにドアを開けるとそこにはこの街の保安官が汗を流して焦った様子で立っていた。


「あ?なんだお前」


「あんた、マナ様の連れの人かい?ここの受付に聞いたらこの部屋にいると聞いたんで――」


「だからなんだよ」


「ま、マナ様を見かけなかったか?巡回に行ってから戻ってくる気配が全くないんだ。我々保安官と衛兵が街中探してるんが一向に見つからなくて……スラム街の道端に彼女の剣も見つかって、もしやとんでもないことに巻き込まれたんじゃないかと――」


「知るか。しばらくしたら戻ってくるだろ?」


と、一蹴するショーエイ。


「休んでる最中に本当に申し訳ないがあんたも協力して探してくれないか。彼女にもし万が一のことがあったら大変なことになる」


「やだね。俺は誰の指図は受けん」


と、ぶっきらぼうに拒否してしまう。すると保安官は彼のその態度に癪に障ったのかムッとなり、


「……あんたさ、知り合いのくせにマナ様の行方が分からないって時によくそんなふざけたことが言えたもんだな。マナ様はサンダイアル王に仕え、アルバーナ大陸の全ての民から絶大な信頼を得ている素晴らしいお方なんだぞ」


「知ったことか。あいつが偉かろうがなんだろうが俺には関係ねえ」


「頼むから探してくれないか、もし見つけたら礼ははずむからどうか協力してくれよ!」


「うるせえな、ぶっ殺すぞオラ!」


……こいつに話が通じないと分かった保安官は「もういい!」と怒鳴りつけ去っていった。その後すぐ、ショーエイはニヤリと笑い、


「こりゃあ何か面白いことが起こりそうだな」


何か事件が起こっていると、自身にとってもワクワクしそうなことが起こることに違いない感じ、彼は部屋から出ていく。


外に出てすぐ自身の生体感知ソナーでマナの反応を探るショーエイ。


「……街にあいつの反応が感じられねえな。少し範囲を拡大するか」


索敵範囲を広げるとここから西側100キロ地点に彼女の生体反応をキャッチ。


「……なんであいつこんなに離れた場所にいるんだ?まあいい、とりあえずいってみるか」


彼は街の外に出ようとした時、何故か彼は立ち止まる。


「どうやら早速おいでなすったな」


と、何故かニィと笑う。周りを見るとマナを襲ったあの4人組の男達がライルの部下が現れ、取り囲む。


「あんたが例のマナさんの連れだな?」


「だからなんだ?」


「ちいとボスがあんたに話があるんで俺達についてきてきてもらいたいんだが」


「断ったら?」

 

「あんたに拒否権なんかねえ。嫌なら死んでもらうまで、ボスから許可もらってるんでね」


それを聞いたショーエイは突然「ワハハハハ!!」と高笑いし出す。


「いいね~~、そういうの。俺興奮してきちゃったよ」


……と。4人は「なんだこいつ?」と思いつつも、


「どうかついてきちゃあくんねえかな?マナさんもボスもあんたのことを首を長くして待ってるんだよ」


ショーエイはやはりと確信する。


「てめえらがマナに何かしたんだな。さっきこの街のヤツがあいつを探してたぞ」


「なら話は早い。マナの命が惜しいなら大人しくついてこいよ、仲間なんだろ?」


ショーエイは「けっ」と吐き捨てた。


「仲間?ちげえな、あいつは俺の獲物だ」


「……は?何いってんだお前?ともかくどうするんだ、俺達についてくるのか」


「いやだね。俺は人に指図されんのが大嫌いでな」


と、保安官と同じように拒否するショーエイに呆れる男達。


「……がっかりだよあんたには。なら死んでもらおうか」


と、男達がそこから一斉に離れて一人が指を鳴らすとそれに呼応したかのように地面が振動し、少しずつ、少しずつ大きくなりまるで大地震のように一帯が激震すると地面が割れて何か巨大なモノが飛び出した。


「……なんだこりゃ?」


地震にも関わらず余裕で立っていられたショーエイの目の前に現れたのは約10メートルはある、鉱物の塊で構成された無機質の巨人だった。

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