陰謀編

第7話 陰謀、それぞれの信念

――ここは異世界テラリアの北側に位置するレヴ大陸。氷山、火山という危険な山々が連なる過酷な環境ばかり広がる、南のアルバーナ大陸とは色んな意味で真逆に位置する大陸である。

ここで住む人々は過酷な環境に対してさまざまな工夫を凝らしてしてなんとか暮らしている一方で自然豊かで住みやすいアルバーナ大陸に対して羨望、また敵意を向けていることが多い。

それもあり、実を言えばこの二つの大陸の外交関係は最悪であり、もしかすれば近い内にレヴ大陸による侵略戦争が始まるのでは、とまで言われているほどだ。


基本的にこの大陸では人間である『リンカ族』が優位になりやすく、それ以外の亜人族には排他的であり差別や迫害が横行している。なので人種に寛容なアルバーナ大陸に移住する亜人も少なくない。


――ここはそんなレヴ大陸の中心部にある、山脈という自然の鉄壁によって四方から守られた王都『バルフレア』の王城の地下深くにある巨大な空間。そこには4人の男女が中央の巨大な水晶を取り囲むように配置について水晶に映る映像を見ている、映し出されているのは……なんとマナとショーエイが乗っている馬車であった。


「最近、アルバーナ大陸の南端で大規模の閃光と爆発があったと報告があり監視していたが面白い人物を発見した」


「マナ・アルカーディ。アルバーナ大陸の王都『サンダイアル』の王直属の特務偵察員で潜在属性『炎』を操る相応の実力者……」


「で、もう一人のこの男は一体誰なんだ?見たことのないヤツだな」


「さあな……あいつの情報を今調べられるかアンジ?」


「やってみましょう……」


アンジと呼ばれる全身黒のローブとピエロのような道化師を象った仮面をつけた正体不明の人物は手持ちの水晶を取り出してまるで占うかのように手をかざしてみる。


「…………………」


「どうだ、何か分かったか?」


「だめです。何故か彼についての情報が一切入ってきません、潜在属性は……何もない……?」


「何だと?『潜在属性』はこの世界の生きとし生けるもの全てが生まれながらに必ず持っている属性……それがないとはどういうことだ?」


「推測の域ですが恐らく彼は……生き物ではありません」


それを聞いた全員がざわつき出した。


「生き物じゃないだと……?ならあいつは一体何者なんだ!?」


「分かりませんが素性が分からない以上は用心に越したことはないかと」


と、忠告するアンジ。


「へえ、あたしには見た目的に結構好みかも……ムフフ♪︎」


と、その中の一人でこの場いる人間で物凄く浮いた……いや特徴的な服装、所謂ゴシックロリータの格好をした可愛らしい小さな女性がショーエイを見てそう感想を述べる。


「ミディア……お前は相変わらず男のセンスが変わってるよなあ。まあいい、ならちいと俺が赴いて探ってくるかな」


見るからにチンピラのような雰囲気を醸し出す長身の男性が自ら名乗り出した。


「ライル、気をつけろよ?お前はすぐ相手を侮る癖があるんだからな」


「わあってるよ。なら行ってくる。運がよければヤツのクビを手土産にしてくるさ」


ライルという男性はその場から去っていった。


「さて、私達『ベルクラス』はそれぞれアルバーナ大陸を攻める準備をいたしましょう。それぞれの兵と武器、輸送船の手配に抜かりなく。我らが主、邪神の加護があらんことを――」


《邪神の加護があらんことを!!》


◆ ◆ ◆


謎の集団に監視されていることをいざ知らず、次の目的地である隣街のハーヴェルへ向かうショーエイ達。

ガタゴト馬車の中で揺られながらショーエイは暇潰しにマナからこの世界のことと種族のこと、そして何より気になっていた炎の剣について聞いていた。


「――で、この世界の奴らにはその『潜在属性』ってもんが生まれつき持ってんのか」


「そうだ。神々があたし達にそういう力を授けてくださったと教えられる。人は生まれてから戸籍登録する際に協会で各個人の属性を調べて教えてもらう。その属性は何に強くて何に弱いのか、生活していく上で必要なことだ。ちなみにあたしは『炎』だ」


「あの炎の剣みたいなのは誰でもできるのか?」


「誰でもできるわけではない。ああやって具現化させるには専用の訓練機関での修行が必要となる。後は修行の質と何より才能次第でその魔力を上げられ、より強力な属性使いになれる」


潜在属性は火、水、氷、土、風、雷などの元素属性が基本だが中にはそれらに該当しない変則的な属性を持つ者も希少だが存在する。

さらに言えば全員一つの属性で固定されている種族も存在する。例えば清流の加護を持つ亜人『リィーン族』は『水』、伝説の生物である竜(ドラゴン)の血筋を持つ誇り高き民族サラマンダーは『雷』がその代表である。


「ちなみにショーエイは……そもそも属性はあるのか?」


「ねえだろ。この世界の人間じゃねえんだし、そもそも生き物じゃねえ」


「……だろうね。魔力とも思えない見たことのないエネルギーを使ってるみたいだし――」


彼の属性、というか動力源で言えば一番安定性の高い『プラズマ反応炉』から生み出されるプラズマエネルギー。


今は故障で稼働していないが『グラストラ核融合炉』は通常の核動力とは比べ物にならない特殊な核燃料から発生する原子力エネルギー。


そしてエイリアンの技術で開発された『エル=ファイス・ジェネレーター』は……実はこれに関してはショーエイですら未だによく分からないブラックボックス的な面がありそれを知ろうにも彼が開発陣全員を皆殺しにしたせいで結局分からずじまいである。


ただどの動力にも言えるが全て永久機関炉である。


「ところで北側の大陸はどんなとこなんだ?


「過酷な環境とリンカ族至上主義、そして向こうはあたし達アルバーナ大陸の民は神々を信仰してるのに対して、北のレヴ大陸は邪神を信仰してる邪教徒ばかりだ。だから根本的に相容れない存在だ――実はな」


マナは突然、誰にも聞かれたくないのか声量を抑えてこう話す。


「元々レヴ大陸とか険悪な関係だったが最近、向こう側の不穏な情報が伝わっている。近々戦争が起きるかもしないということだ」


「戦争?」


「不確かな情報だが――レヴ大陸全域に兵力と兵器を大量に集結させているという情報があり、最近アルバーナの王都サンダイアルにてレヴ大陸からのスパイが2人、1人は捕らえたがもう一人は逃げられて未だに足取りは掴んでいない。捕まえたそいつからはサンダイアルの構造が記された地図を持っていた――公にはまだ発表はしていないが戦争が起きる可能性が極めて高い」


「戦争とかいいじゃねえか。やれやれ♪︎そんときは混ぜてくれよな?この世界の全員を洩れなく殺すけどな」


ニコニコしながら他人事のように言う彼に対してギロッと睨みつけるマナ。


「おい、笑い事じゃないんだぞ。戦争が起きれば間違いなく甚大な犠牲と損害が出る。お前はこの世界の人間じゃないからそんな軽々しく言えるが私らにしたら堪ったもんじゃないんだよ」


「へっ、今起きなくても大陸同士がそんな関係じゃあ戦争勃発するのは時間の問題じゃねえか。なら、早い内にやっときゃいいんだよ」


「ショーエイ、お前……っ」


「所詮、思考を持ってる奴らがいる限り戦争の起きない世の中には絶対ならねえんだよ。死んでも戦争がやりたくないならこの世界の全員を脳改造でもして思考をなくした作業用ロボットにでもなればいい」


あまりに極端すぎる発想だが、間違っていない理屈でもある。あくまで一理であるが。


「だが、俺はそんなのは死んでもごめんだね。そんな虚無になるような人生は。俺は戦いや殺しが好きだが自我がなかったらあのままずっと壊れるまで戦場でこき使われたんだろうな――そういう意味では俺を作った生みの親には少しぐらいは感謝してるがな。まあそいつら全員八つ裂きにしたけど」


と、意外な一面を見せるショーエイ。


「……とまあそうゆうこっちゃ。俺から言えば戦争は起きるのは大大大賛成だ、お前らはどう思おうが俺の知ったことじゃない。もし戦争が起きたらそれは運命だ。それよりもその後の最悪の想定をしとくもんだぞ」


「…………」


「まあ、最悪の想定ってのは勿論……俺が完全回復した時だがな、クカカカカカッ!!」


狂気の笑みを浮かべるショーエイ。この男がそこまで世界を滅亡したがるのは復讐など何かしらの事情があるわけじゃない。ただ破壊と殺戮、これ一点のみである。恐怖と絶望にひきつった顔を見下し笑いながら徹底的に八つ裂きにすること――。


「なあショーエイ。お前、本当に世界を滅ぼすっていうその考えを改めるつもりは一切ないのか?」


「あたぼうよ!」


「そうか」


すると彼女は一呼吸置いて、


「あたしはあの時、お前の強大な力を知った。確かにお前は本当に世界を破壊しうる力を持っているのかもしれない。だがあたしはそれで下手に出るつもりはこれっぽっちもないからな」


「…………」


「もし、私達テラリアの民に危害を加えようものならその時はあたしは刺し違えてでもお前を絶対に倒すつもりだ。できなくてもあたしよりも遥かに強い者はいくらでいる、彼らがお前のその醜態な欲望を間違いなく打ち砕く。それだけは頭に入れていれておけ」


そして、



「人間をなめんなよ、クソヤロウが」



大胆に啖呵を切った彼女に対して、ショーエイは……ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「よし決めた」


と、そう答えた。


「……決めた?何をだ?」


「俺がフルパワーに戻ったら、その時はマナ、お前から真っ先に血祭りに上げるわ」


「なに……?」


「街ん時に言っただろ?お前みたいに覚悟を決めたヤツを全力で完封なきまでに叩き潰すのが好きだってな。

だからその時は圧倒的な力でボコボコにして泣き喚くのを楽しみながら塵一つ残らず消し飛ばしてやる。つまりお前が完全回復時のお祝いの血祭りくん第一号ってワケだ」


彼のとんでもない宣言にマナは唖然となる。


「だからその時までは何があっても絶対死ぬなよマナ。お前を先に八つ裂きにするのは俺なんだからな」


……ある意味、強い正義の意志を持つ彼女に対する彼なりの称賛なのだろうか、それとも単に先ほどの啖呵に対する反抗なのか。それはともかく彼女は呆れて苦笑いしてしまう。


「こんのクソサイコ男が……あたしはこれでも女だぞ。一回ぐらいは優しく労ってみたらどうだ?」


「やだね。そういう思考回路はインプットされてねえし殺す時は種族、老弱男女関係なく平等だ」 


「少なくともあたしはあんたとは絶対恋人になりたくないね……!」


……彼は誰であろうと差別しないで全て平等に見ているとも言えなくもない。まあ彼の場合は誰であろうが躊躇わず殺すという意味だが。

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