第6話 出発
亜光速ミサイル。戦略兵器である光速ミサイルをデチューンした(一応、カテゴリー的には)戦術兵器であるが一発だけでも凄まじい威力のミサイルを40発同時に発射され、真夜中というのにアルバーナ大陸の南側全域が昼間のように明るくなっていた。
「うわあああ……っっ!!」
凄まじい閃光と衝撃波で彼女は顔を伏せてショーエイの足に必死にしがみついている。しかし当の本人は「ニヤァ」と余裕そうに耐えていた。
「う、うう……」
――爆発が収まり衝撃波と閃光がなくなるとやっとゆっくり目を開けて辺りを見渡す。そこには凄まじい光景が広がっていた。
「……………」
草木や岩という物は全く失くなっており見えるのは何もない荒野、遮蔽されるものが全くなくなったお掛けで月明かりに照らされてよく確認できる。さらには一部の地形が変形しているほどだ。
当然、ケルベロスや獣達はチリ一つすら残っておらず彼から放たれたのは天変地異レベルの凄まじい攻撃だったことがよく分かる。
「おいおいマナ、まだ驚くのは早いぜ。これでもまだ2割の力しか出していないぞ?」
「なん……だとぉ……!?」
彼女は唖然となった。ショーエイの言っていたことは本当だった、一瞬でこんな広範囲が更地になるような破壊力は生まれてから一度も見たことがない。しかもまだ全力どころか半分の実力も出してない……こんなのを野放しにしていたら下手をしたら魔物、いやそれ以上にこの世界の脅威になりかねないと――。
「いやあまさにグッドタイミングだな。ちなみにミサイルの他にこれもできるぜ」
すると今度は右腕が粘土のようにグニャリと変形して四方形型のプラズマビーム砲へと変わる。それを海の方向へ向けると砲口から《ズギャオオオッッ!!》とプラズマエネルギーの光線が遥か空に伸びていった。
「これでこの俺がこの世界を滅ぼす日が近くなったと言うわけだあ、ワハハハハ!!!」
(半信半疑だったがあたしはもしかしなくてもこんなとんでもなくヤバいヤツを連れていくことになったのか……)
横で少しずつ修復されてバカ笑いして喜ぶショーエイの横でへたり込みながら正直この男を誘ったことに後悔しだすマナだったが、言ってしまった以上はやめる訳にはいかず気が重くやられるのであった。
◆ ◆ ◆
直ぐに夜が明けて次の日、街の状況を確認、把握したマナは出発日を改めて数日間は街の修復の手伝いや怪我人の介助、亡くなった人々の葬、休む暇もなく働いた。
一方、ショーエイは何もせず暇をもて余して再び街の外をぶらついていた。
「何であいつは何一つ手伝わないんだ?」と不満を言う人も少なくなかったがマナは、
「ショーエイは元から人々のために動くヤツじゃないし無理やり手伝わしてもトラブルを起こしかねん。寧ろあいつには『もし街の外にいるケルベロスみたいな魔物を見かけたら遠慮せず駆除してくれ、ただ周りに無意味な破壊だけはするなよ』と釘刺して言ってあるからそのほうがいい」
と、人々にそう説明して納得させていた――。
こうして目まぐるしいぐらいに時間が過ぎていき3日後。魔物の襲撃やトラブルといったことはなく多少落ち着いたのを確認して本来の仕事である大陸のパトロールで次の目的地へやっと出発するマナとショーエイ。街の所有する馬車に彼女の荷物と食料を積み込み出口で街の保安官と人々が見送りに来ていた。
「すまない、もう少し手伝いたいが向こうの町も待っているから行かなければならない……」
「寧ろ本来の仕事を後回しにして街のために尽くしてくれたマナ様には我々からはもはや感謝の言葉しかありません、魔物の襲撃で亡くなった方々は本当に残念ですが彼らが安心して眠るようにお祈りします」
「王都には復旧支援するよう要請して早く向かわせるから安心してほしい、それまで街の安全に努めてくれ」
すると、保安官はマナに金貨、銀貨がパンパンに詰まった袋を差し出した。
「マナ様、ほんのばかりの私達のお気持ちです。多少ですが路銀としてお役に立ててください」
「おいおい、金は流石に受け取れないよ。これは街の被災した人々に使ってくれ」
「いえ、これは私含めて街の全員が進んで集まったお金です。是非受け取ってください、お願いいたします!」
それを聞いたマナは戸惑いながらも折れて受け取った。
「……本当にすまない、恩に切る。有効的に使わせてもらうよ」
「ありがとうございます!旅のご加護をあらんことを。マナ様達はお気をつけて――」
「おーい、いつまでここにいるんだ~~」
すでに馬車に乗り込んで座っているショーエイが暇そうに鼻をほじりながらマナに催促し、それを聞いた全員が「本当にこいつは……」と苦笑いした。
「では私達は失礼する。みんな気をつけてな――」
マナも馬車に乗り込み馬主に出発を促そうとした時、街の子供の一人がショーエイの元へ走っていき、
「おじちゃん、街を魔物から守ってくれてありがとう!」
と、まさかの感謝の言葉を送った。それに対しショーエイは「けっ」とぶっきらぼうに返すのみだった。
そして彼らを乗せた馬車が動き出し、次の町へ舗装された道をゆっくりと歩き始める。
だんだん遠退いていくレーヴェの人々とマナは完全に見えなくなるまで笑顔で手を振っていた――。
「けっ、次の日には出発するって言ってたのにしょうもないことに時間使いやがってよ。暇で暇でしょうがなかったぜ」
「元はといえばお前のせいだろうがァ!!!」
ケルベロスはショーエイが倒したとは街の人々に伝えていたが、原因も彼であることだけは口が裂けても伝えてはいなかった。もし伝えていたら色んな意味で間違いなく街がケルベロス襲撃以上に悲惨なことになっていただろうと目に見えていた。
「全く……今更だがお前を誘ったことに凄く後悔してきたよ。これじゃあ心配ばかりであたしの心がいくつあっても足りないよ」
「へっ、運命だと思って諦めな。ワハハハハ!!」
凄く落ち込む常識人のマナの目の前で高笑いする狂人のショーエイの異色のコンビの旅が今始まる。
かくして、とんでもない超高度な文明が生み出した狂気の産物が飛ばされたこの異世界『テラリア』にてこの先、どんな騒動や悲劇を起こすのか。そしてテラリア全土を揺るがす空前絶後の出来事に巻き込まれることに彼らは知る由もなかった――。
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