第5話 兵器の力
その夜。レーヴェの宿に戻ったショーエイはマナにこっぴどく怒られている。理由は言わずもがな、しかし当の本人は窓際に座り鼻をほじりながら全く聞いていない様子だった。
しかしまあ、身長190cmの強面の大男がマナというクールビューティーの女性から子供のように説教されているその光景は本当にシュールである。
「おい、ちゃんと聞いてんのかショーエイ!!」
「はいはい、聞いてますよ~~」
と、明らかに舐めくさった態度だ。
「キサマァ……人を舐めるのも大概にしろ!」
流石のマナも呆れて疲れが出たのか深くため息をついてガクッと肩を起こす。
「せっかく異常件数ゼロでいけたと思ったのに……後で報告書書かないといけないのはあたしなんだぞ……!」
「そんなのやらなけりゃいいだけの話だろ」
とまさに他人事と言わんばかりの発言である。
「あたしは遊びをしにここに来たんじゃない、仕事しにわざわざ王都から長い時間をかけてここに来たんだ。その苦労を少しは分かってくれよ」
「い、や、だ、ね。俺は他人の気持ちや痛みが分かるようなプログラミングされてねえんだわ。諦めろ」
……こいつになに言っても無駄なような気がしてきた。彼女はドサッとベッドに腰かけてる。
「で、どうなんだ?明日あたしと同行する気になったか?」
「いいや、ない」
「そうか――そこまで意志が固いともう期待はしないが、とりあえず明日もう一度聞くからよく考えておいてくれ」
「へいへい」
そう受け流すショーエイ。
「なあショーエイ。もしよかったらあんたのいた世界について教えてくれないか?」
「そんなの聞いてどうすんだよ?」
「単純に興味があるんだ。あんたの話だとあたし達の住む世界とはよほど違うらしい。いいじゃないか、別に減るもんじゃないだろ?」
「まあそんなに知りたいならいいが――理解できるのか?」
「まあ、できるだけ私の分かりやすいように教えてくれ」
「けっ!」と吐き捨て、彼は語り出す――。
「どこもかしこも戦争、戦争だよ。俺を作ったバィアス陣営とトリリアンって軍事国家が領土を巡って約50年ぐらい前からずっと戦争してた。最初はトリリアン側から攻撃を仕掛けたとは聞いたがそれからはずっと報復に報復を重ねて消耗戦、泥沼の戦争よお――」
当初は各陣営の領宙域の軍事用、資源採取用などの重要惑星にありったけの光速ミサイル、ブラックホールミサイルなどの戦略兵器を撃ち込んで破壊していたが次第にそれが明らかに非効率だと大問題になり、自然と歩兵や戦車、機動メカなどの各局地の戦術戦、または宇宙戦艦同士の艦隊戦にシフトチェンジしていった。
しかし何年も続けていく内に天文学的数値の兵士の犠牲、兵器の消耗に陥ってしまいそれを補うためにクローン技術を駆使した人造人間や改造人間を生み出して大量生産して兵士として補充していく、というとんでもない悪循環が生まれた。
ショーエイはその過程の末に生まれた狂気の産物である。
「――で、今に至るってワケだ。わかったか?」
「……聞き慣れない単語が多くてよく分からなかったけどとりあえずとんでもない世界なんだってことはわかったよ」
「それに比べてここは本当につまんねえ場所だな。こんなに暇すぎるとまるで自分が自分じゃない気がするわ」
「それだけ平和ってことだろう?いいことじゃないか」
「俺は嫌だね。戦いがない世界なんて俺の存在価値なんかねえんだわ」
戦うためだけに生まれたきた彼だからこそ言える言葉である。
「……お前はどうやらテラリアの人々とは絶対仲良くできそうにないな。正直な話、私としてもこの世界から一刻も早く出ていってほしい」
「けっ、一丁前に言いやがって」
「ただ、お前がテラリアを滅ぼすとほざいていたがこの世界にはあたし以上の実力者があちこちにいる、どう実行するのかは知ったことではないが上手くいくと思うな、とだけは言っておく」
「ほお、そんなに強いなら是非とも戦ってみてえなあ。まあそれでも俺の圧勝だろうが」
……マナからすればこの男のその絶対的な自信は一体どこから来るのか不思議で仕方なかった。彼女は立ち上がるとドアへ向かう。
「まあとりあえず今日はもう遅いからお前はこれで休め。明日までにどうするか決めとけよ。あと……何があっても絶対にトラブルだけはもう起こすなよな?」
「へいへい、俺の気が変わらなかったらな」
釘を刺して彼女は部屋から出ていった。
◆ ◆ ◆
満月が美しい深夜。街の人々のほとんどが寝静まり街路には四方を広く照らすランプと警棒を携えた警備兵数人が巡回している。特に異常がなく一通り回り終わり、詰所へ帰ろうとした時――。
「ん…………?」
街の外から狼のような大地に響く咆哮と巨大な地響きがこちらへ近づいてくる。何事と思い、街の外柵へ向かおうとした次の瞬間。
「う、うわああああああっ!!」
二階建ての家ほどの巨大な何かか上空から落ちてくるのが見えた。それが街のど真ん中に着地すると凄まじい雄叫びを上げて街全体を震撼させた。
「カンカンカン!」と非常事態を知らせる鐘が鳴り響き、寝ていた人々は叩き起こされ一瞬でパニック状態に――。
「な、何事だ!?」
詰所で仮眠していたマナも叩き起きて慌てて現場に急行するとそこで見たものとは……。
「け、ケルベロスだとお!?」
火事や倒壊があちこちに起き、街路には逃げ惑う人々に喰らいついて無残に噛み殺す獣の群れ……夕暮れ時にショーエイと対峙した二頭首の野犬とそしてその親と思わしき巨大な獣が街中に走り回って我が物顔で暴れまわっている。
その名もケルベロス、見た目に違わぬれっきとした犬の魔物である。
(ケルベロスは本来、警戒心が強くて人里にはめったに現れないはず……なぜ突然と?)
疑問だらけとなるが、そんなことを考えてる暇などない。彼女はすぐさま集まった衛兵達に逃げ惑う人々の避難と救助、怪我人の手当てをするよう指示を出し、そして彼女は直ぐ様背中の剣を引き抜いて暴れまわるケルベロスの駆除に入る。
(あたしだけだと正直キツイがやるしかない!!)
すると彼女は、
「フレイア・オム・アルクゥツェン!我が身体に宿りし炎よ、ここに具現化せよ!!」
なにやら呪文を唱えるとなんと……それに応えるように剣刃がいきなりメラメラと燃えたぎり出したのだ。
「てええええいっ!!」
凄まじい熱の炎の剣を横薙ぎに振り切るとまるで炎を纏ったソニックウェーブのような波が前方全ての子ケルベロスの群れに直撃して一瞬で焚き火のように燃え上がり断末魔を上げてバタバタとその場に倒れて死んでいく。
「うあああああ!!」
勇敢にもその燃え盛る剣を構えて突撃し、向かってくる群れをバタバタと切り捨てていき、燃え上がり消し炭になっていく。襲いかかる子ケルベロスを軽やかなステップで華麗に回避し、素早い突き刺しで横から確実に仕留める。
「はあはあ!」
歴戦の剣士と言われても偽りないほどに軽い身のこなしとその魔法と思われる超常現象で形成した炎の剣で圧倒的な力を見せつけるマナ。息を荒らしながらも斬り伏せていきその最奥には、
「グルルルっ……!」
親玉の巨大なケルベロスが街の人々の死体を食い散らかしており見るも凄惨な状況となっていた。
「よくも街の人々を!」
マナは炎の剣を構えて攻撃の機会を伺っている。こんなデカイ図体のどこを攻撃すれば仕留められるか考えている……その時、
「こいつ、もしかしてあの時の奴らか」
振り向くとそこにショーエイが立っていた。聞き捨てならない言葉にマナは、
「あ、あの時の……だと?」
「おう」
夕暮れ時にあったことを丸々と話すと、彼女は目の色を変えて「お前が原因かあ!!」と怒号を張り上げた。
つまりケルベロスはショーエイに殺された子供の復讐をするために彼のアーマーに付着した我が子の返り血の匂いを辿って我が子を引き連れて街に襲いかかったということである。
「なんてことをしてくれたんだ!!」
「知るかよ、俺はただあいつらが襲いかかってきたからぶっ殺しただけよ」
これで原因が分かり腑に落ちた、というよりショーエイに対して「やってくれたな!」と凄まじい怒りが湧く彼女だった。
「話は後だ、今はこいつの対処をやらないと!」
マナは炎の剣を構えて再び横に振りきり、炎の波をケルベロスに当てるもちょっと燃え上がるぐらいですぐに掻き消されてしまう。
ケルベロスも彼女に気づいて獲物を見つけたと言わんばかりにこの周辺全域を震撼させるほどの雄叫びを上げた。
(街の聖結界が効かなかったとこを見ると相当の化け物だぞこいつは……!)
生半可な攻撃は通じないと分かり、なら目を潰して動きを止めようと彼女は今度は右手の人差し指を差し出すとそこから拳大の火球を形成してケルベロスに放射する。案の定効いてないが注意を散漫させて一気に走り込み、家の壁を三角跳びの要領で高く跳び、眼に向かって飛びかかった。が、
「が……はっ」
読まれていたのか右前足で叩かれてしまい地面に叩きつけられた。流石の彼女も相当なダメージを受けており、なかなか立ち上がることは出来ない。
それを後ろからずっと何もせず見ていた無表情のショーエイに対してマナは、
「に、逃げろショーエイ……このままだと二人ともやられるぞ………」
この後に及んでまだ彼に気にかけるマナ。しかしケルベロスは待ってくれるはずもなく、弱った彼女を踏み潰そうと右前足を振り下ろした……。
「ぐっ……」
彼女は目を瞑り、諦めかけた――が、ケルベロスの巨大な足が当たる感触が全くない。目を開けるとそこには、
「ショーエイ……お前!」
なんと彼女の前に立ち、振り下ろされたケルベロスの足をその怪力を持って受け止めている彼の姿が。
「なあマナ、やっぱり俺お前と一緒に行くわ」
「え……?」
彼はニィと不敵な笑みを浮かべていた。
「こんな世界にこんな素敵な化け物がいるならそりゃあ楽しまねえとなあ!!」
――その時だった。
【プラズマ反応炉、修復率50%。一部の機能と武装の使用制限を解除します】
ショーエイの最大出力値が10%から20%に上がり、彼に少しずつだが力がみなぎり始めていた。
「まだ不完全だがお前に間近で見せてやるよ。俺の、『メルカーヴァ戦略機甲生体兵器』の力をな!」
そう言うとショーエイはケルベロスの足をぐっと掴み、そして。
「おぅるあああああああ!!!」
なんとその強力な怪力を駆使して二階建ての家ほどあるその巨大な胴体を軽々と持ち上げるとそのまま力任せに街の外へ投げ飛ばしたのだった。
「あ、あんな巨大なヤツを………」
マナは彼の持つあまりの怪力さに目を疑った。
「ほら、立てるか?」
「………」
なんと手を差し出すショーエイに戸惑いを隠せない彼女。
「勘違いすんなよ、俺はお前を助ける気なんかこれっぽっちもねえ。ただお前に俺の強さの証人になってほしいだけだ、俺を倒せる基準の参考になるだろうってな」
やはり相変わらずだった。しかし、彼女もそれに応えて手を取り合いやっとの思いで立ち上がる。
「あいつを追うぞ。お前、俺の首に腕回して背中にしがみつけ!」
「はあ!?なにを言って――!」
「はよ掴まれや、ぶち殺すぞオラ!」
全然理解が追い付かないがとりあえず彼の背中から首に腕を回してしがみつくマナ。
「振り落とされるなよな!」
「え………?」
次の瞬間、ショーエイの両肘、両踵からブースターがせりだされ、青白いプラズマエネルギーを一気に放出させて飛び上がると――。
「!!!!!!!!」
なんと一気に百メートル近い高さまでハイジャンプして弧を描くように凄まじい速さで街の外を飛び出していった。
その今まで味わったことのない衝撃と光景はマナをどう感じさせたであろうか――。
地上へ着地寸前に各ブースターを逆噴射させて衝撃を相殺し、優しく地上へ降り立つショーエイとしがみついていたマナはあまりの衝撃に足がガクガクになりその場にへたりこんだ。
「さあて、どう始末するかな」
真っ暗闇の中、彼らの目の前には何があったのか全く理解できず、さらには追い詰められて怖じける、街を襲っていた時とはすでに逆転したケルベロスの姿が。
「すっかり負け犬みたいになってんじゃねえか。ほら、ワンワン鳴けよ?」
ショーエイの目は暗視スコープも兼ねているのでまるで昼間のように明るく見えている。すると突然、ケルベロスはその場で耳の鼓膜が破けそうなくらいの大音量の遠吠えをし出した――。
「あ?」
すると遠吠えに呼応してその周辺から10、20、いや100を越える大量の野犬と狼、そして残りの子ケルベロスが腹を空かせてぞろぞろと集結しつつあった。
「この声は……まさか!」
「どうやらお仲間を呼び寄せたらしいな」
これもケルベロスの持つ能力なのか――自身の僕と化した無数の飢えた獣は反撃の咆哮を合図に二人目掛けて雪崩混んで来たのだった。
「どうするんだこいつら!」
「分かってるだろ?纏めて消し飛ばすんだよ!」
ショーエイは両腕を前に覆いかぶって前屈みになると両腕からマッチ棒サイズの小型ミサイルが装填された砲座がせりだされた――これはまさか。
【両腕部搭載40連装亜光速ミサイル管、発射スタンバイ――】
「消し飛べえ!!!!」
次の瞬間、両腕から発射した計40発の小型ミサイルが一気に亜光速度まで急加速、その金色の火線は前方全ての獣に貫通、その余波で一瞬で全て消し飛んでいく。
「グアアアアッ…………!!!!」
ケルベロスも全身穴だらけにされて海へ突き抜けていった後――広範囲に渡ってまるで太陽が爆発したかのような眩い破滅の閃光で飲み込んでいった――。
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