第4話 発端

暇を持て余したショーエイはムスッと不機嫌そうに街の出入門に向かうと、門の衛兵が彼の前に立ちふさがる。


「あ?」


「あんた、今からどこへ行く気だ?」


「暇潰しに散歩だよ」


「散歩って……街の外は野生の動物や魔物がうろついておる。最近は全く見ないが昔、この辺りにも賊が出没していた。

それに日も落ちかけている時刻だから暗くなるとはっきり言って危険だ。悪いことを言わん、やめとけ!」


「じゃかましい!」


一蹴して無理やり出ようとするが、衛兵が彼の肩をグッと掴み進行を阻止しようとする。


「聞こえないのか?街には四方に配置した聖水による聖結界で安全だが外に出ればその効果はなくなるんだぞ」


その瞬間、ショーエイは肩を掴んでいる衛兵の腕を掴み取ると全力で握りしめて「ボキッ」といとも簡単に折ってしまい「ぎゃあああ!!」と悲鳴を上げてその場でのたうち回った。


「き、キサマァ!!」


そばにいた衛兵の仲間は慌ててショーエイを捕まえようと手持ちの鉄槍の刃先を向けて取り囲むも。


「次はないぞ?殺さなかっただけでも有りがたく思えよ」


彼の並みならぬ威圧感と殺気に圧倒される衛兵達。


「まあ死んでも俺を捕まえたいってんならいつでも来いよ」


「う、うう……」


ギラギラした目付きで威嚇するショーエイと今までに感じたことのない殺気に臆してジリジリと後退り出す衛兵達。


「なあにただ散歩しにいくだけだよ、すぐに帰ってくるさ。多分」


衛兵達を押し退け固く閉じた鉄の門の前に立つと右拳を振り上げて、


「ドゴッ!!」


全力で殴ると、凄まじく鈍い音と共にまるで紙のように軽々と吹き飛ばした――。


「う、嘘だろ……?鉄だぞこれ……っ」


「なんてバカ力だ……!?」


仰天する衛兵に対して得意げに「へっ!」と笑うショーエイ。


「よかったな、俺に殴られなくてよぉ」


そう告げて彼はご機嫌そうに軽いステップを刻むように歩きながら街の外へ出ていく。その後、門のとこでトラブルがあったと聞いたマナはすぐに駆けつけて衛兵達から事情を聞くと彼女もさすがに驚くが、直ぐ様腕が折れた衛兵の治療、そして破壊された門の修理に関わることになった。


(ショーエイのヤツ……早速面倒ごとを起こしやがって……本当に許さんからな!!)


レーヴェの異常件数ゼロ保持日数の新記録が一瞬で終わったこともあり冷静に作業する彼女も内心、苛立っていた――。


◆ ◆ ◆


「いやあミラトレス銀河の一番低い文明でもここまでレベルの低い所はなかったなあ」


街の外の周辺を探索するショーエイは唯一使えるズーム機能を使いながら周りを見渡す。レーヴェより南側の終点は断崖絶壁となっており、その先は広い海へと繋がっている。

街の周辺は草原、沼地、森林……未開地と言わんばかりに原生林が生い茂っている所もあり、高い文明ばかりしか触れてない彼にとってはある意味新鮮味を感じていた。


(もしかしなくてもここは本当に別の銀河なのかもな。宇宙に出れたとしても光年ワープが必要なら流石の俺でもキツイな)


こういう時、惑星エイダに乗ってきた宇宙船でもあればよかったのにと今更思い始めるショーエイ。


(にしてもマナの野郎が言っていた話……まんま古くせえおとぎ話みたいだ。神々だの邪神だの……まあそんな奴らが本当にいるなら戦ってみてえけどな!)


明らかにスケールの違う存在がいるなら間違いなく喧嘩を売りにいくこの罰当たりな男……ただの馬鹿なのか大物なのか……。


夕暮れ時。街から数キロ離れた草原地帯を悠々と歩いていると――彼のセンサーが何かを感知。


「ん?2つの生体反応がこちらに向かっている?これは……獣か?」


彼はその方向に目を向けると――。


「な、なんだあ?」


二匹の黒い野犬がショーエイ目掛けて走ってきている。しかしただの野犬ではない、なんと頭と首が何と2つに分かれた何とも奇妙な犬であった。

「グルルルっ……」と威嚇しヨダレを垂らして牙を剥き出しにしている様はまさに狂犬だ。


「もしかしてこれがマナの言っていた魔物ってヤツか?そういえばバィアスの研究施設にこんなミュータントいたっけなあ」


恐れるどころか昔を懐かしむショーエイとは裏腹に、ジリジリと迫ってくる二匹は明らかに敵意を出している。それを感じ取ったショーエイは嬉々と指間接をバキバキ鳴らした。


「待ァってました!肩慣らしにもならんがまあいい。来いや」


その言葉を呼応したかのように二頭首の野犬の一匹が彼を喰らおうと飛びかかる。

 

「おらあああっ!!」


ショーエイの右拳の振り下ろしが胴体に直撃し、文字通り粉々に粉砕。鈍い音と共に肉片と内臓と血飛沫を一帯にまきらした。


「ギャン!!?」ともう一匹はその凄惨な姿になった仲間を見て一瞬で戦意喪失したのか一目散に逃げ去っていった。


「あーあ、残りが逃げやがった。この負け犬が」


野犬の血を大量に浴びた彼はもう一匹仕留められなかったことに凄く残念がっている。


「なんかもう萎えたぜ。さて帰るとするか」


すっかり暗くなり、これ以上なにも発見は見込めないと悟りレーヴェへ引き上げていくショーエイ――しかし彼の去っていった後、闇に紛れて蠢く巨大な何か……揺らめく4つの赤い眼……地響きする犬のような呻き、凄まじい殺気を放ちレーヴェの方向へ視線を向けていた……。

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