第3話 ショーエイの本質

ここはレーヴェの保安所の保安官室。マナはこの街の保安官と近況についての話をしている。


「レーヴェは今月も犯罪者や魔物による被害や異常は特になし――では明日、隣町のハーヴェルに移動するよ。保安官達もいつも通り警備をしっかりとあと、身体に本当に気をつけてな」


「ありがとうございます。マナ様も無理をなさらずお元気で。ところで昨日街の外に倒れていた大きな男性の様子はどうですか?」


「さっき見に行ったが起きててピンピンしていたよ。ただ――」


「ただ?」


「なんかこう……ヘンなヤツだったよ。態度は凄く悪くて喧嘩腰だし、おかしな事を言い出すし。正直……野放しにしてたら危険な匂いがした」


「え…………?」


保安官の顔が一緒に強張る。


「まあ大人しくしてるとは言っていたから一応信用してはいるがあいつ、ショーエイは犯罪を起こしかねないヤツかもしれん」


彼女は一呼吸置いて、こう言う。


「実はあいつに明日からあたしと一緒に各地を回らないかと提案したんだ、監視も兼ねてね」


「マナ様、そんな馬の骨とも分からない者を連れていく気とは……」


「誰ともつるむ気はないから断ると即答していたがとりあえず明日もう一度聞いてみるさ。それでも嫌というならもうどうしようもないが――」


「…………」


「なんかさ、嫌な予感がするんだよ」


どこか怪訝と不安の入り交じった声でボソッとそう漏らすマナであった。


◆ ◆ ◆


「けっ、本当になにもねえしつまんねえとこだなあオイ!」


一方、ショーエイは宿から出て町を歩く。ミラトレス銀河でも見たことのない遥かに劣った文明に驚きを通り越して呆れていた。

行き交う人々を観察すると霊長類から進化した人類(ヒューマン)と耳、鼻、口、手足に獣の特徴を濃く残す所謂亜人に分かれているのが分かる。

しかしミラトレス銀河の様々な星系に住む様々な種族を見てきたショーエイにとって特に驚くことでもなんでもなかった。


(今すぐにでもオーラディアン(バィアスの母星であり本拠地)に戻って全員血祭りに上げたいがスラスターやブースターすら使えねえから宇宙に上がることすらできねえ、そもそもここがどこの星系かもわかんねえし……とにかく全快するまで進展しねえな……くそっ)


今まで好き勝手に振る舞ってきたショーエイも流石に今は大人しくする他はない状況に、イライラと怒りが募らせてきていた。


(誰でもいいから今すぐにでも殺してえ……!)


元々、自我を持つとは言え殺戮兵器として闘争本能を剥き出しにして造られた彼に大人しくするというのは辞書にない。


「いた……!」


近くで遊んでいた子供の一人が前方不注意で彼の足にぶつかり尻餅をついてしまう。上を見上げると……。


「ひ……っ!」


見たことのない格好をした強面の大男が、狂気とも言える凄まじい怒りと憎しみを込めてメンチを切っている。鬼のような形相を前に子供はガタガタ震えて今にも泣きそうだった。


「てめぇ……死ぬかオラァ!」


怒りに任せて右拳をグッと握り締めて今にも殴りかかろうとした時、


「ショーエイ!!」


ちょうどそこに通りかかったマナが慌てて駆けつけて怯える子供を抱き抱える。近くの人々も騒ぎを聞きつけてぞろぞろと野次馬のように集まってくる。


「お前……これはなんの真似だ!」


「あ?こいつが俺の足にぶつかったからムカついて殺そうとしただけよ」


たったそれだけで手にかけようとしたショーエイに彼女は信じられないような顔をした。


「ムカついたって……相手は小さな子供じゃないか?!」


「子供?そんなの関係ねえ、俺は殺せれば誰でもいいんだ」


「殺すって……お前正気か!?」


今まで冷静だった彼女も、彼の流傍若無人さに腹に据えかえてきたのか苛立ちを見せ始める。


「……お前なあ、兵器か何か知らないがなんでそんなに殺気立ってんだよ?そんなに人殺しが好きか?」


その問いにショーエイはニタニタ笑いながら、


「……やめられねえんだよ」


「…………は?」


「人間が死ぬ時の悲鳴や断末魔が身体中に響き渡って快感なんだよなあ、クカカカカッ!!」




《俺は人殺しが楽しくて楽しくしょうがねえんだよ!!それが悪いかよ!ええっ!?》




恐らくそれを聞いたその場の全員がこう思った。


「本当に狂っている」と。


その何の迷いもなく言い切る邪悪さにマナ達は吐き気すら催してくる。


「さあてどうする、今すぐ俺を殺るか?俺は大歓迎だぞ?もっともその時はお前含めてここにいる全員を血祭りに上げてやるがな?」


流石に我慢の限界に来たマナは背負っている剣の握りに手をかけて抜こうとした――が、結局抜けなかった。この男の挑発に乗ってしまい結果、周りの人間に危害を受けるのは死んでも避けたかった。


「どうした?剣抜かねえのかよ?」


「…………」


彼女は深呼吸をして、心を落ち着いて彼にこう言う。


「ショーエイ……そんなに人を殺したいのなら私がその代わりになろう。だから周りの人々には手を出さないでやってくれ」


身代わりになると聞いた人々は狼狽し出してしまう。


「ま、マナ様それだけはおやめください!!あなたが死なれたらこの国の治安はどうなるのですか!?」


「あなたが死ぬことはありません、私どもが代わりに!」


と、その場にいる全員から嘆願される様子は彼女がいかに人々から並みならぬ信頼をされているのかよく分かる。


「人々の安全を守るのはこの私の使命だ、この命で皆を守れるのなら喜んで差し出そう」


彼女は意志を固めた強い視線でショーエイに向け、


「ショーエイ、私はいつでも構わないぞ。殺るなら早く殺れ!」


その力強い決意表明に対してショーエイは急にやる気を無くしたように、


「……なんかもう冷めちまったからやっぱいいや」


と、彼女に背を向けた。


「はあ?」


「言ったろ、俺は気まぐれだってな。それに身体がボロボロで全快してねえんだ、こんな不完全な状態でそんな覚悟キメたヤツを殺っても面白みも何もない。俺は殺るなら全力を持って相手を完封なきまでに叩きのめすのが好きなんだよ」


「…………」


「だが覚えておけ。もし俺が全快した暁には……この世界の生物全てを一匹残らず八つ裂きにしてやるからなあ」


突然の殲滅宣言に全員がざわめき出しショーエイはニィと狂気の笑みを浮かべる。


「楽しみだな。全快する前に俺を何とかして殺すか、フルパワーに戻った俺がこの世界を滅ぼすのどちらが先か――ワハハハハ!!」


そういうとショーエイは我が物顔で歩き去っていった。一瞬の沈黙の後、彼女は落ち着いてその場の不安感が漂う全員に優しく諭す。


「さあみんな、もう解散だ。あいつの言うことは気にしないでいいからもう安心しろ。私もあいつの動向を常に監視するから危害の心配はいらない」


「し、しかし…………」


「世界を滅ぼすというのももちろんハッタリだ。いくらあいつでもそんな大それたことができるはずがない。万が一の時も、私達が何とかするから」


「まあ、確かにマナ様の実力はお墨付きだし王都にはアルビオンの方々がおられる。流石のあの男も太刀打ちできまい」


「そういうことだから皆は安心して普段の生活に戻ってくれ」


彼女の言葉を信じて全員は普段の生活に戻っていった。ちなみにショーエイのぶつかった子供はいまだに怯えていたままその場で尻餅をついたま固まっていたがマナはその子を笑み優しく介抱した。


「ほら、もう大丈夫だよ。心配しなくていいからみんなと遊んできな」


「マナ様……うん!」


やっと笑顔が戻った子供は再び友達の元に戻っていった。彼女はショーエイの歩いていった方向を何か思うことがあるような複雑な表情で見ていた。


(ショーエイの奴……本当にこれからどうする気でいるんだ……?)


本当に嫌な予感がする。彼女の鋭い感が働き気が気でならなかった――。

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