第16話 五行思想・木

 放課後。

 今日は笹谷は部活か。


 教室から校庭を見ると、笹谷が柔軟体操をしていた。

 体操着姿でグラウンドに腰を下ろして、前屈してた。

 陸上部だからな。


 前にも見た覚えあるけど、確か彼女は短距離選手だったはず。

 俺は陸上の競技をまともにやったことが無いので、色々分からんのだけど。


 短距離選手なのに、何で校庭トラックの近辺でアキレス腱を伸ばさないの?

 前屈止めてアキレス腱をやる笹谷は、スラッとしてて見栄えが良いが。

 男子が通常気になるそこよりも、そこが俺は気になった。


 何か全然別のところでやってんだよなぁ。

 何か理由あるのかね?


「桜田君。まだ残ってたんですかー?」


 そんなふうに俺が校庭を眺めていると

 高瀬が俺に後ろから話し掛けて来た。


「ああ、高瀬。これから帰るの?」


「はい。ちょっと図書委員が今終わったところなんでー」


 高瀬は図書委員をしてる。

 好きな本に囲まれてカウンターに座るのは落ち着くらしい。


 俺はまぁ、なんとなく5時近くまで教室で本を読んでたんだけどさ。

 五行思想の本。


 ちゃんと知った方が良いと思ったから、古本屋で買ったんだわ。

 安かったから。


 だけど……


 何か、俺の知りたい情報が書いて無いと言うか……

 多分、違う分野の本だコレ。


 運命と五行思想って本なんだが。

 多分これ、運勢の本だと思う。


 ……内容をキチンと確認してから買うべきだった。

 100円だったんだよねぇ……。

 安物買いの銭失い……。


「じゃあ俺も帰るわ。途中まで一緒に帰らないか?」


 道中、高瀬とちょっと話そう。

 わりと俺より博識な高瀬に訊いたら、何か分かるかもしれないし。


「いいですよー」


 高瀬の同意が出る。

 助かる。

 そんなことを思いつつ、俺は五行思想の古本を肩掛け鞄に放り込み、もう一度校庭を見た。


 すると今度は笹谷が、なんと槍投げをやってた。

 えーと……


 陸上部って、自分の専門外の競技も、一応やったりするのかなぁ?

 念のために、って感じで。


 知らんけど。




「五行思想でさ、雷って何なの? 金?」


 五行思想には

 木・火・土・金・水の5つの要素がある。

 それは知ってたんだけどさ。


 そこから何の超能力に繋がるのかが良く分からなくて。

 ネットで調べようかなと思ったけど、出自不明のネット情報よりも本の方が正しいんじゃないかと思い。


 古本探したんだけどな。

 よく分からなかったから。


 結局は俺より博識だと思える高瀬に確認する手法になっている。

 高瀬に五行思想の話を振ったら、少しは分かるっていうから。

 訊いたんだ。


 結局人任せか……


 負い目を感じる俺に、高瀬は俺の質問に対し答えを言ってくれる。


「いえ、木ですね」


 その高瀬の返答は意外だった。

 思わず訊き返す。


「木なの?」


「はい」


 何で木なんだ。

 意味わからん。


 俺の表情から俺の困惑を読み取ったのか


「五行で言う木って、地面の上に存在するもののエネルギーを指すんですよー」


 だから、雷は木に分類されるんですよォ。


 ……なるほど。

 そういうことなのか……


 思えば俺の「火」も、熱エネルギーを操作する力があるってことで、扱えるのは別に火炎だけじゃないしな。

 面白いな。


 その後も高瀬はベラベラと五行関係の話をしてくれた。


 全部俺は聞いたんだけど……


 その中で、面白い話があった。


 五行相生ごぎょうそうしょうって言葉で。

 平たく言うと、火は木に助けて貰える。

 そういうような意味らしい。


 ……なんか、嬉しくなったよ。

 彼女が木だとすると……

 何か、相棒って感じじゃないか。

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